◇ 「窮乏化」が明白な各種統計
22年版『労働経済白書』を観る 賃金低下・格差拡大で成長力喪失
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標準労働者(同一企業への継続勤労者)の賃金カープ(企業規模別、男性)
今年の『労働経済白書』の特徴は、民主党政権色が出ていることである。
「はじめに」で、「わが国では、1990年代半ば以降、非正規雇用化が強まり、2000年代の景気拡張期には、とくに、大企業で非正規雇用が増加した。こうした非正規雇用の増加により、平均賃金が低下するとともに、相対的に年収の低い層の増加が、雇用者の賃金格差拡大の要因となった。このような平均賃金の低下や格差の拡大により、所得、消費の成長力が損なわれ、内需停滞の一因になったものと考えられる」と、消費低迷、内需停滞の原因として非正規雇用拡大による平均賃金の低下が指摘されている。
もちろんすこぶる正しい指摘である。とはいえ、民主党政権が本気で非正規雇用者の正規化、あるいは均等待遇の推進に向けて取り組むのかどうかこそが問われる。以下、限られた紙面であるが、『労働経済白書』を紹介する。
◇ 再び上昇する完全失業率
白書は、過去の景気循環において雇用がどのように変化をしたのかを比較しているが、最近の傾向は概ね、景気が回復しても雇用の拡大に結びつかない、いわゆるジョブレス・リカバリーの傾向が続いている。
バブル崩壊後の最悪期を脱し、やや失業率の改善が見られて2007年7~9月期に3.8%まで低下していたが、リーマンショック以降再び失業率は上昇し始め、2009年10~12月期には、5.2%まで悪化した。
白書では、2010年1~3月期にはやや回復しはじめたといっているが、直近の*失業率はまた5.3%と上昇した。
完全失業者は、2009年には336万人であり、前年比71万人増加である。年齢別にみると、とくに新卒によって多くを構成する、15~24歳層の失業率が高く男性10.1%(前年比2.2%増)、女性8.4%(同1.5%増)となっている。さらに、25~34歳層も平均よりは高く、若者の失業率を高めている。
◇ 改善されない非正規雇用
新自由主義的改革の一環としての労働法制の改悪、そして経済の低成長による失業率の増大が、世界的にも非正規労働を拡大してきたが、日本では昨年時で全雇用者の約3分の1強が非正規の状態に置かれていた。
リーマンショックに端を発する世界恐慌の過程で、企業の派遣切りが集中し社会の注目の的となった。実は、白書も言うように、2009年は一時的に非正規比率が下がったが、非正規雇用者の首切りがすさまじかったというに過ぎない。そして非正規依存の企業の雇用構造は変化してない。
直近のデータ(4~6月)では、1年以上の長期失業者118万人で前年同期に比べ21万人増加、正社員は3339万人で81万人減り、非正規は1743万人で58万人増えている。
◇ 以前とは違う賃金力ーブ
「2009年の現金給与総額は前年比3.8%となり、減少率の大きさは、統計調査開始以来最大のもので、歴史的に見ても大きなものとなった」という。
より詳しく見ると、所定内給与が前年比1.3%減少しており、減少は4年連続、そして所定外給与(残業等)13.5%、特別給与(一時金等)11.8%の減少となっている。
雇用形態別の寄与度では、一般労働者(正規雇用)の給与が0.5%、パートタイム労働者0.1%、パートタイム労働者の構成比の上昇が0.7%となっている。
物価の影響を加味した実質賃金で見ると前年比2.5%、これも4年連続である。
また、賃金の動きを見るときに看過してならないことがある。賃金カーブの変化である。
年功序列型賃金体系のもとで若い時期を送った団塊の世代(本紙の圧倒的な読者もそうであろうと思うが)の経験とは異なり、正規といえども若いときの賃金は低く、さらに長く低い水準がつづく。そして、特別の役職等につけば別であるが低いままで頭打ちになっている。
賃金は安く、労働はきつい。健康破壊も多い。不満も高い。よく企業別の組合運動か、非正規等の地域ユニオンかと対立させることのできないものを対立させる発言を聞くことがあるが、本当に若者との対話ができているのかと疑いたくなる。
雇用にしても、賃金にしても、正規・非正規も問わず、馴染んだ言葉で言えば「まさに窮乏化の進行である」。それが白書で示された各種統計でもある。そして、私たちの課題は、白書が書くことで任務を終了し、落とした糸のその先を、あれこれ評論することでなく、大衆のなかに入り不満をつかみ、実際の闘いに組織することである。
(つの・きみお)
『週刊新社会』(2010/9/7)
22年版『労働経済白書』を観る 賃金低下・格差拡大で成長力喪失
経済研究家 津野公男
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標準労働者(同一企業への継続勤労者)の賃金カープ(企業規模別、男性)
今年の『労働経済白書』の特徴は、民主党政権色が出ていることである。
「はじめに」で、「わが国では、1990年代半ば以降、非正規雇用化が強まり、2000年代の景気拡張期には、とくに、大企業で非正規雇用が増加した。こうした非正規雇用の増加により、平均賃金が低下するとともに、相対的に年収の低い層の増加が、雇用者の賃金格差拡大の要因となった。このような平均賃金の低下や格差の拡大により、所得、消費の成長力が損なわれ、内需停滞の一因になったものと考えられる」と、消費低迷、内需停滞の原因として非正規雇用拡大による平均賃金の低下が指摘されている。
もちろんすこぶる正しい指摘である。とはいえ、民主党政権が本気で非正規雇用者の正規化、あるいは均等待遇の推進に向けて取り組むのかどうかこそが問われる。以下、限られた紙面であるが、『労働経済白書』を紹介する。
◇ 再び上昇する完全失業率
白書は、過去の景気循環において雇用がどのように変化をしたのかを比較しているが、最近の傾向は概ね、景気が回復しても雇用の拡大に結びつかない、いわゆるジョブレス・リカバリーの傾向が続いている。
バブル崩壊後の最悪期を脱し、やや失業率の改善が見られて2007年7~9月期に3.8%まで低下していたが、リーマンショック以降再び失業率は上昇し始め、2009年10~12月期には、5.2%まで悪化した。
白書では、2010年1~3月期にはやや回復しはじめたといっているが、直近の*失業率はまた5.3%と上昇した。
完全失業者は、2009年には336万人であり、前年比71万人増加である。年齢別にみると、とくに新卒によって多くを構成する、15~24歳層の失業率が高く男性10.1%(前年比2.2%増)、女性8.4%(同1.5%増)となっている。さらに、25~34歳層も平均よりは高く、若者の失業率を高めている。
◇ 改善されない非正規雇用
新自由主義的改革の一環としての労働法制の改悪、そして経済の低成長による失業率の増大が、世界的にも非正規労働を拡大してきたが、日本では昨年時で全雇用者の約3分の1強が非正規の状態に置かれていた。
リーマンショックに端を発する世界恐慌の過程で、企業の派遣切りが集中し社会の注目の的となった。実は、白書も言うように、2009年は一時的に非正規比率が下がったが、非正規雇用者の首切りがすさまじかったというに過ぎない。そして非正規依存の企業の雇用構造は変化してない。
直近のデータ(4~6月)では、1年以上の長期失業者118万人で前年同期に比べ21万人増加、正社員は3339万人で81万人減り、非正規は1743万人で58万人増えている。
◇ 以前とは違う賃金力ーブ
「2009年の現金給与総額は前年比3.8%となり、減少率の大きさは、統計調査開始以来最大のもので、歴史的に見ても大きなものとなった」という。
より詳しく見ると、所定内給与が前年比1.3%減少しており、減少は4年連続、そして所定外給与(残業等)13.5%、特別給与(一時金等)11.8%の減少となっている。
雇用形態別の寄与度では、一般労働者(正規雇用)の給与が0.5%、パートタイム労働者0.1%、パートタイム労働者の構成比の上昇が0.7%となっている。
物価の影響を加味した実質賃金で見ると前年比2.5%、これも4年連続である。
また、賃金の動きを見るときに看過してならないことがある。賃金カーブの変化である。
年功序列型賃金体系のもとで若い時期を送った団塊の世代(本紙の圧倒的な読者もそうであろうと思うが)の経験とは異なり、正規といえども若いときの賃金は低く、さらに長く低い水準がつづく。そして、特別の役職等につけば別であるが低いままで頭打ちになっている。
賃金は安く、労働はきつい。健康破壊も多い。不満も高い。よく企業別の組合運動か、非正規等の地域ユニオンかと対立させることのできないものを対立させる発言を聞くことがあるが、本当に若者との対話ができているのかと疑いたくなる。
雇用にしても、賃金にしても、正規・非正規も問わず、馴染んだ言葉で言えば「まさに窮乏化の進行である」。それが白書で示された各種統計でもある。そして、私たちの課題は、白書が書くことで任務を終了し、落とした糸のその先を、あれこれ評論することでなく、大衆のなかに入り不満をつかみ、実際の闘いに組織することである。
(つの・きみお)
『週刊新社会』(2010/9/7)
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