◆ ゴミ車とともに (東京新聞【本音のコラム】)
亡くなった、との報(しら)せがあってから、三日目に対面できた。遺体はビニールに包まれていて顔を視(み)るだけだった。
東京郊外の老人保健施設で新型コロナウイルスが集団発生、入院できず死亡した友人の最期についての、お連れ合いの話である。
入所とほぼ同時に新型コロナウイルスが上陸して、面会できないままほぼ一年がたっていた。その間に会えたのは病院へ行く時にたちあった二回だけだった。施設に電話をかけて呼びだして話し合うだけ。最近では認知症が進んで会話もままならなくなっていた。
金高毅さん。享年七十九。老健施設でのコロナ感染死のひとりである。
大卒後、清掃労働者の労働運動に共感して、定年までゴミ車に乗っていた。大学の後輩との縁があって取材、「ゴミ車とともに」のタイトルで記事を書いたことがある。
大卒で労働運動家になるのは今では珍しくない。「話のわかる」労組幹部として経営者から尊重されている労働者代表が多い。が、金高さんは現場にこだわり続け、豊かな体を揺すりながら、ゴミ袋を回収するためゴミ車とともに走っていた。
「ゴミ車は幼児には人気があるんですよ」と彼が笑顔で言ったことがある。
が、小学生になると鼻をつまんで、傍らを通り抜けたりする。
社会的に重要な仕事。だけど差別されている。その差別解消が念願だった。
合掌。
『東京新聞』(2021年2月7日【本音のコラム】)
鎌田 慧(かまたさとし・ルポライター)
亡くなった、との報(しら)せがあってから、三日目に対面できた。遺体はビニールに包まれていて顔を視(み)るだけだった。
東京郊外の老人保健施設で新型コロナウイルスが集団発生、入院できず死亡した友人の最期についての、お連れ合いの話である。
入所とほぼ同時に新型コロナウイルスが上陸して、面会できないままほぼ一年がたっていた。その間に会えたのは病院へ行く時にたちあった二回だけだった。施設に電話をかけて呼びだして話し合うだけ。最近では認知症が進んで会話もままならなくなっていた。
金高毅さん。享年七十九。老健施設でのコロナ感染死のひとりである。
大卒後、清掃労働者の労働運動に共感して、定年までゴミ車に乗っていた。大学の後輩との縁があって取材、「ゴミ車とともに」のタイトルで記事を書いたことがある。
大卒で労働運動家になるのは今では珍しくない。「話のわかる」労組幹部として経営者から尊重されている労働者代表が多い。が、金高さんは現場にこだわり続け、豊かな体を揺すりながら、ゴミ袋を回収するためゴミ車とともに走っていた。
「ゴミ車は幼児には人気があるんですよ」と彼が笑顔で言ったことがある。
が、小学生になると鼻をつまんで、傍らを通り抜けたりする。
社会的に重要な仕事。だけど差別されている。その差別解消が念願だった。
合掌。
『東京新聞』(2021年2月7日【本音のコラム】)
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