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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

☆ 纐纈厚 著『戦後日本の武器移転史』(緑風出版)

2025年02月15日 | 平和憲法

  =書評(週刊新社会)=
 ☆ 「死の商人」はどう肥大化し、何を目論むか

 過去30年余の「ポスト冷戦時代」には「死の商人」は影が薄かった。ところが、この数年間で景色が一変した。
 三菱重工の生産したミサイルPAC3が米国に輸出される。武器は戦車や軍艦だけではない。「サイバー防御」という言葉が国会で飛び交う。ガザではAI兵器がターゲットを定め大量殺戮(さつりく)をしている。半導体も今や「死の商人」のかせぎ頭のようだ。
 とは言え、「ポスト冷戦」で軍需から撤退した企業の再生には国の援助が必要だ。実際、昨年の通常国会では「防衛産業支援法」が成立した。国家が育てた「鬼っ子」は、次は国家の政策自体を左右するようになる。

 中国との経済関係を発展させる方が有利で、中国との友好を求める企業家はたくさんいる。しかし、中国を「仮想敵国」とした武器生産の方が儲かるという類の資本が台頭している。米中緊張はケタ違いの武器「需要」の可能性を秘めている。
 自衛隊の軍備だけではたかが知れている。政府は、アジアを始め世界に緊張と紛争を、つまり市場をつくりだせという「死の商人」の資本蓄積衝動によって「新しい戦前」を加速するのではないか。

 そういうなか、タイムリーな本が出た。纐纈厚(こうけつあつし)さん(明治大学武器移転史研究所客員研究員)の『戦後日本の武器移転史』だ。

 

 ☆ 戦後の変遷

 本書は「軍拡の利益構造」を、

朝鮮戦争を契機とした60年までの日米安保体制とMSA協定による軍事産業の萌芽期。
自衛隊発足と「第一次防衛力整備計画」(1958年)による装備国産化開始。
74~75年、世界大不況下での「民需を補完する軍需への関心と期待」の強まり。
技術の最先端を行く兵器開発技術の高度化への着手

 へと戦後の推移をたどる。
 一方、政治においては非武装中立の社会党が強力で、67年には「武器輸出三原則」を策定。国会では「鉄兜も武器」とされ、72年には公明党まで「輸出禁止」法案(共同開発・研究も)を提出した。
 「三原則」をめぐる国会での長年の攻防が記録されており、今の「抑止力」翼賛国会と対比すると感慨深い。

 しかし、「日米防衛協力の指針」(1978年)を機に「防衛費」GNP比1%枠見直し議論も始まる。
 デュアル・ユースによる新たな兵器群(ミサイル着装ガメラ用のソニーの小型カメラなど)が出現。武器転用が隠蔽(いんぺい)されやすく、「武器輸出」規制が崩されていき、ついに「防衛装備移転三原則」(2023年)で骨抜きになるまでの経過が克明に記録されている。
 AI半導体なども「死の商人」の暗躍の場として注目すべき示唆となる。

 ☆ 「死の商人」にとって死活の武器輸出

 軍需関連企業にとっては自国軍だけの需要では満足できない。輸出が重要な儲け先になる。
 自衛隊の装備も米国からの輸入にたよってきた(武器輸入額は世界6~7位)。いつまでも米国依存でなく、自前の軍事産業育成が急がれる。そして企業は「武器輸出」規制の緩和に応じて投資も本格化しはじめるわけである。
 本書は近年の武器輸出促進の枠組みとして「有償軍事援助(FMS)」と「ライセンス生産」をあげる。

 FMSは経団連の強い要望で近年強化されたもので、彪大な設備投資と企業の契約上のリスクを回避するため、政府が発注し企業が納品して政府の責任で輸出する仕組みだ。
 「ライセンス生産」はライセンス元にたいしては輸出可能とするもので、三菱重工が米国のライセンス生産したPAC3の対米輸出はその典型である。
 ライセンス元の米国から第三国への輸出も可能になる。
 「紛争当事国」への輸出はできないが、ウクライナへのミサイル支援生産が追い付かない米国は、日本からの輸入品で在庫を補充して「玉突き」でウクライナに輸出できる。
 また「迂回輸出」としてアメリカ経由ならPAC3の場合、独、ギリシャ、イスラエル、ヨルダン、クウェート、韓国、スペインなども輸出可能に。日伊英共同開発の次期戦闘機も同様である。
  米国、NATOはウクライナ戦争支援で武器生産が追い付かない。本書は「こうした状況を日本の軍事産業界が、千載一遇のチャンスとみなしている」、「米国のライセンス生産を通じ、最先端技術によって武器輸入大国から武器輸出大国への変転の可能性」があると指摘している。

 本書は武器生産における日米の複雑な関係も指摘する。
 日本の軍事産業が軍事大国・米国の下請け的存在になるのか、それとも独自性をめざすのか、トランプ政権と日本の政治を左右する一要素として注目したい。

 ☆ 「死の商人」が政治を左右する

 本書は武器輸出推進派の言を紹介する。

 「専守防衛原則等諸外国に比べ制約が大きいなどの特異な自衛隊の行動パターンに合わせて生産される装備品をそのままの仕様で輸出しても諸外国はそれに魅力を感じるだろうか。装備品の低価格化を実現するため海外向け輸出の量を増やしたいのであれば、早晩日本の防衛政策や自衛隊の位置付けを諸外国基準に改める覚悟が求められてくる」(2024年4月、西川佳秀東洋大名誉教授)。

 政治が育てた鬼っ子の、政治を動かす野心が垣間見える。「死の商人」はつぎを目指している。
 最後に纐纈さんは、「安全保障のジレンマと軍拡の連鎖を断ち切ることが戦後日本国民に寄せられた国際社会の期待ではなかったのか」と訴える。

(石河)

※ 纐纈 厚(こうけつ・あつし)
 明治大学国際武器移転史研究所客員研究員。専門は、日本近現代政治軍事史・安全保障論

『週刊新社会 第1382号』(2024年12月11日)

 

 


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