◆ 「多忙な教職」学生敬遠、公立小の採用倍率低迷
…教委「質の低下」に危機感
公立小学校教員の採用試験で競争倍率が低迷している。文部科学省の調査では、2018年度(18年春採用)試験の全国平均は過去20年で最低の3・2倍(前年度比0・3ポイント減)。19年度も同様の傾向が続いている。ベテラン教員の大量退職に伴い、採用者数が増えているほか、長時間労働が問題化している教職を学生が避け、民間に流れている状況もうかがえる。(教育部 山田睦子)
◆ 夏の採用試験に向けて…受験者争奪戦
「他県と東京で迷っている方、ぜひ東京で受験してください」
4月中旬、東京都教育委員会が教員養成課程のある目白大(東京)で開いた20年度採用試験の説明会。都教委の担当者は学生らにそう訴えた。
都教委は3~4月、東京、千葉、埼玉、神奈川の計38大学のほか、仙台、大阪、名古屋、神戸、福岡の5市でも説明会を開催。今夏に行う試験の受験者確保に力を注ぐ。
◆ ベテラン教員が大量退職し…
東京では、公立小学校教員の採用試験の競争倍率は18年度の2・7倍から19年度は過去最低の1・8倍まで低下した。第2次ベビーブーム世代(1971~74年生まれ)を教えるために採用された教員の大量退職などで採用者数が約530人増えたのに対し、受験者数は約400人も減ったためだ。
都教委の担当者は「1倍台は衝撃だった。人材の質を維持するためにも3倍以上はほしい」と話す。
都教委では、教員に代わって事務作業を担当するスタッフの配置など働き方改革を進めていることや、民間企業に比べ、有給休暇の取得日数が多いといったデータを示し、PRに必死だ。
◆ 「質の維持を優先」で教員不足に…広島県
文科省が47都道府県・20政令市教委などを対象に実施した調査では、公立小学校教員の18年度採用試験の競争倍率は、鹿児島県(7・4倍)や群馬県(6・3倍)など5倍を超える教委がある一方、長崎県(2・0倍)、茨城県(2・1倍)など22教委は2倍台、新潟県(1・8倍)、福岡県(1・9倍)は1倍台にとどまった。新潟県は19年度、さらに1・2倍に急落した。
高校は18年度、全国平均で7・7倍、中学も6・8倍で小学校(3・2倍)よりも高いが、今後、ベテラン教員の退職に伴って低下していくとみられる。
各教委では「倍率の低下が人材の質の低下につながりかねない」との危機感が強い。教員採用試験の実情に詳しい兵庫大の山崎博敏教授(教育社会学)によると、教委の担当者から「倍率がある程度高ければ合格しなかった人も採らざるをえなくなっている」といった声も聞かれるという。
公立小学校教員の18年度の競争倍率が2・2倍だった広島県(広島市と合同で試験を実施)は、「採用基準を下げず、質の維持を優先した」(担当者)。その結果、470人の採用計画に対し、420人しか採用できず、教員不足に陥った。
学校現場では教頭や専科の教員も学級担任を務めるなど対応を迫られたという。
◆ 民間企業に志望変更
受験者数の減少の背景には、▽学生に多忙な教職を避ける傾向がみられる▽景気回復で採用者数を増やした民間企業に学生が志望変更している――こともあげられる。
教員養成系の東京学芸大を今春卒業した男性(22)は教員採用試験を受けず、人材サービス会社に就職した。教育実習などで「朝7時から夜8、9時まで働いても、勤務に見合った給料で報いられていない実態」を知り、志望を変えた。
文科省の調査では、国立の教員養成系大学や教員養成系学部を卒業した後、教員以外になる人の割合は、13年卒の17・1%から18年卒は24・5%に増加した。
小学校では、いじめなどへの対応のほか、20年度から英語の教科化やプログラミング教育の必修化も控え、教員の負担は増している。
文科省の中央教育審議会は今年1月、働き方改革に関する答申を出し、教員が担う業務のスリム化を打ち出した。今後、小学校で教員1人あたりの授業時間数を減らせるように、各教科を専門の教員が教える「教科担任制」の導入に向けた議論も始まる。
名古屋大の内田良准教授(教育社会学)は「競争倍率が1倍台というのは異常事態。学校での働き方改革などによって学生が魅力を感じられる職場環境作りを進めるべきだ」と指摘する。
◆ 初任給上げ、実技試験なし…人材確保に工夫
優秀な人材を確保しようと、各教育委員会は受験者の掘り起こしに懸命だ。
大阪市では、小学校を含む公立校教諭の初任給を2019年春の採用者から月約3万円上げた。
小学校教員の採用試験の受験者は1107人で前年度比83人増となった。「厳しい状況下で、待遇改善によって全国から受験者が集まった」と担当者はみる。
新潟県では、20年度の採用試験から、音楽と体育の実技をなくし、苦手な学生らも受験しやすいようにする。
北海道も、東京に試験会場を新設し、首都圏の大学で学ぶ北海道出身者らが受けやすいようにする。
文部科学省の調査では、47都道府県・20政令市教委などのうち、19年度の採用試験で新たに8教委が受験年齢制限を緩和・撤廃した。51歳以上でも受験できるのは、18年度の33教委から35教委に増えた。
教員として勤務した経験のある人に対し、1次試験を免除するなど「特別の選考」を実施しているのは9割以上の62教委に上っている。
文科省の担当者は「多様な人材を確保しようと各教委が工夫している」と話している。
【公立小学校教員の採用試験】
都道府県、政令市などの教育委員会が小学校の教諭を採用するために実施する。一般的には大学・短大の教職課程で必要な単位を修得するなどして、小学校教員免許を取得した人か、取得する見込みの学生らが受験する。1次試験では一般教養や国語、算数などの教科に関する筆記試験、2次試験では面接、音楽や体育の実技などを行うケースが多い。
『読売新聞 - Yahoo!ニュース』(2019/5/22)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190522-00010000-yomonline-soci
…教委「質の低下」に危機感
公立小学校教員の採用試験で競争倍率が低迷している。文部科学省の調査では、2018年度(18年春採用)試験の全国平均は過去20年で最低の3・2倍(前年度比0・3ポイント減)。19年度も同様の傾向が続いている。ベテラン教員の大量退職に伴い、採用者数が増えているほか、長時間労働が問題化している教職を学生が避け、民間に流れている状況もうかがえる。(教育部 山田睦子)
◆ 夏の採用試験に向けて…受験者争奪戦
「他県と東京で迷っている方、ぜひ東京で受験してください」
4月中旬、東京都教育委員会が教員養成課程のある目白大(東京)で開いた20年度採用試験の説明会。都教委の担当者は学生らにそう訴えた。
都教委は3~4月、東京、千葉、埼玉、神奈川の計38大学のほか、仙台、大阪、名古屋、神戸、福岡の5市でも説明会を開催。今夏に行う試験の受験者確保に力を注ぐ。
◆ ベテラン教員が大量退職し…
東京では、公立小学校教員の採用試験の競争倍率は18年度の2・7倍から19年度は過去最低の1・8倍まで低下した。第2次ベビーブーム世代(1971~74年生まれ)を教えるために採用された教員の大量退職などで採用者数が約530人増えたのに対し、受験者数は約400人も減ったためだ。
都教委の担当者は「1倍台は衝撃だった。人材の質を維持するためにも3倍以上はほしい」と話す。
都教委では、教員に代わって事務作業を担当するスタッフの配置など働き方改革を進めていることや、民間企業に比べ、有給休暇の取得日数が多いといったデータを示し、PRに必死だ。
◆ 「質の維持を優先」で教員不足に…広島県
文科省が47都道府県・20政令市教委などを対象に実施した調査では、公立小学校教員の18年度採用試験の競争倍率は、鹿児島県(7・4倍)や群馬県(6・3倍)など5倍を超える教委がある一方、長崎県(2・0倍)、茨城県(2・1倍)など22教委は2倍台、新潟県(1・8倍)、福岡県(1・9倍)は1倍台にとどまった。新潟県は19年度、さらに1・2倍に急落した。
高校は18年度、全国平均で7・7倍、中学も6・8倍で小学校(3・2倍)よりも高いが、今後、ベテラン教員の退職に伴って低下していくとみられる。
各教委では「倍率の低下が人材の質の低下につながりかねない」との危機感が強い。教員採用試験の実情に詳しい兵庫大の山崎博敏教授(教育社会学)によると、教委の担当者から「倍率がある程度高ければ合格しなかった人も採らざるをえなくなっている」といった声も聞かれるという。
公立小学校教員の18年度の競争倍率が2・2倍だった広島県(広島市と合同で試験を実施)は、「採用基準を下げず、質の維持を優先した」(担当者)。その結果、470人の採用計画に対し、420人しか採用できず、教員不足に陥った。
学校現場では教頭や専科の教員も学級担任を務めるなど対応を迫られたという。
◆ 民間企業に志望変更
受験者数の減少の背景には、▽学生に多忙な教職を避ける傾向がみられる▽景気回復で採用者数を増やした民間企業に学生が志望変更している――こともあげられる。
教員養成系の東京学芸大を今春卒業した男性(22)は教員採用試験を受けず、人材サービス会社に就職した。教育実習などで「朝7時から夜8、9時まで働いても、勤務に見合った給料で報いられていない実態」を知り、志望を変えた。
文科省の調査では、国立の教員養成系大学や教員養成系学部を卒業した後、教員以外になる人の割合は、13年卒の17・1%から18年卒は24・5%に増加した。
小学校では、いじめなどへの対応のほか、20年度から英語の教科化やプログラミング教育の必修化も控え、教員の負担は増している。
文科省の中央教育審議会は今年1月、働き方改革に関する答申を出し、教員が担う業務のスリム化を打ち出した。今後、小学校で教員1人あたりの授業時間数を減らせるように、各教科を専門の教員が教える「教科担任制」の導入に向けた議論も始まる。
名古屋大の内田良准教授(教育社会学)は「競争倍率が1倍台というのは異常事態。学校での働き方改革などによって学生が魅力を感じられる職場環境作りを進めるべきだ」と指摘する。
◆ 初任給上げ、実技試験なし…人材確保に工夫
優秀な人材を確保しようと、各教育委員会は受験者の掘り起こしに懸命だ。
大阪市では、小学校を含む公立校教諭の初任給を2019年春の採用者から月約3万円上げた。
小学校教員の採用試験の受験者は1107人で前年度比83人増となった。「厳しい状況下で、待遇改善によって全国から受験者が集まった」と担当者はみる。
新潟県では、20年度の採用試験から、音楽と体育の実技をなくし、苦手な学生らも受験しやすいようにする。
北海道も、東京に試験会場を新設し、首都圏の大学で学ぶ北海道出身者らが受けやすいようにする。
文部科学省の調査では、47都道府県・20政令市教委などのうち、19年度の採用試験で新たに8教委が受験年齢制限を緩和・撤廃した。51歳以上でも受験できるのは、18年度の33教委から35教委に増えた。
教員として勤務した経験のある人に対し、1次試験を免除するなど「特別の選考」を実施しているのは9割以上の62教委に上っている。
文科省の担当者は「多様な人材を確保しようと各教委が工夫している」と話している。
【公立小学校教員の採用試験】
都道府県、政令市などの教育委員会が小学校の教諭を採用するために実施する。一般的には大学・短大の教職課程で必要な単位を修得するなどして、小学校教員免許を取得した人か、取得する見込みの学生らが受験する。1次試験では一般教養や国語、算数などの教科に関する筆記試験、2次試験では面接、音楽や体育の実技などを行うケースが多い。
『読売新聞 - Yahoo!ニュース』(2019/5/22)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190522-00010000-yomonline-soci
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