★ 国連の勧告 (東京新聞【時代を読む】)
法政大学名誉教授・前総長 田中優子
国連の女性差別撤廃委員会が10月29日、日本政府に対する勧告を公表した。
日本は女性差別撤廃条約を批准している。委員会は条約の実施状況を審査する機関なので、実施を怠っていれば勧告をする義務があるのだ。勧告された項目は多岐にわたる。
「選択的夫婦別姓への法改正」
「人工妊娠中絶に必要とされている配偶者の同意要件を、削除する法改正」
「緊急避妊薬を含め、避妊への十分な手段を提供すること」
「女性が国会議員に立候補する際の供託金を一時的に減額し、国会に女性を増やすこと」
は重点項目だ。その他にも
「技能実習生のプログラムで、差別的慣行から女性移民労働者を保護する」
「沖縄における米国兵士による女性と女児に対する性的暴力を防止し、加害者を適切に処罰する」
「同性婚を認める」
「男系男子が皇位を継承することを求める皇室典範について、他国の事例を参照しながら改正する」
「独立した国内人権機関を設立する」
等々が続く。この「国内人権機関の設立」はとりわけ、他の事項を実現する上で重要である。
選択的夫婦別姓についての国連の勧告はなんと4回目だ。
反対する立場の人は「家族の絆が弱まる」と言うが、周知のように日本は古代から明治31年まで夫婦別姓だったわけだから、それで家族の絆が弱まるのなら今ごろ日本人はこの世にいない。知らないのか知っていてうそをついているのか、どちらかであろう。
11月3日のTBSサンデーモーニングでは竹下隆一郎氏が、これらの勧告は全て「女性が自分の身体や名前について自己決定する権利の話なので、非常に重要な問題提起だ」とコメントした。
高橋純子氏は現状を「同姓強制」と表現した。
ご自身は籍を入れずに子供を育てた。「何が幸せでどう生きたいかは個人が決めることであって、その選択肢を増やすのが政治の役割」というコメントは、全くそのとおりだ。
今や選択制導入賛成者の方が多い。にもかかわらず政府は「国民の幅広い意見を聞いてから」と言う。政府は女性を、家族制度内の役割のひとつに過ぎないと位置付けているのだろうか。多くの選択肢も自己決定権も要らない、と考えているようだ。そうだとすると憲法の人権理念に反する。
政治家に憲法を守らせる立場にある国民は、国連の勧告を味方にして声を上げる必要がある。
皇室典範についても「男系の男子のみの皇位継承を認めることは、条約の目的や趣旨に反する」と勧告した。
これを日本政府は「委員会の権限の範囲外である」としている。委員会はそのことも「留意する」とした上で、それでも「皇位継承における男女平等を保障するため」に、他国の事例を参照しながら改正するよう勧告したのである。
女性も自己決定権をもつべきだとする世界基準と、慣習を基盤にした国の法律とが齟齬(そご)する場合、どちらを優先すべきか。世界基準を採用した場合、国民が大きな不利益を被るならば、もちろん国法を優先すべきだろう。
しかし、たとえば皇位継承者が女性であることで、日本国民は不利益を被るだろうか?一方、「同姓強制」は国民に多大な不利益を与えている。
現在の政府の見解より国連の勧告の方がどう考えても、国民の幸福を保障するのである。
『東京新聞』(2024年11月10日【時代を読む】)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます