★ 隔月で刊行スタート 第1巻『冤罪を追う』 (週刊新社会)
鎌田慧さんが、『鎌田慧セレクション―現代の記録―』全12巻の発刊をスタートさせた。
2カ月に1巻、26年夏までかかるが、「ぼくの書いた主なものは入っています」という。
第1巻の『冤罪を追う』は9月に発刊。
鎌田さんが本紙に連載中の「沈思実行」でも何度も取り上げてきた袴田巌さんの再審裁判、無罪判決が9月26日に静岡地裁で出た。
10月9日には検察が「証拠捏造」の指摘に強い不満を表明しながら、控訴断念表明に追い込まれた。
静岡地裁での再審裁判で無罪判決、袴田さんが逮捕から58年ぶりに自由の身となった時期の発刊となった。
『冤罪を追う』は、戦後の死刑事件として初めて再審の道が開かれた財田川(さいたがわ)事件を追った『死刑台からの生還』を収録する。
人権尊重をうたう憲法の下で行われた警察・検察の犯罪が、鎌田さんの徹底した取材と検証、分かりやすく熱のこもった文章で展開される。
鎌田さんは取材して書くだけのルポライターではない。不正義・人権侵害を許さない運動家の立場で事件を掘り起し、運動をつくっていく。
財田川事件の冤罪被害者・谷口繁義氏(故人)は、裁判長の職をなげうって弁護人になった矢野伊吉氏(故人)の激烈な闘いで再審開始、そして無罪判決を勝ち取る。
鎌田さんは「矢野伊吉が存在しなかったなら、谷口繁義は人目に触れることなく葬り去られていたことは間違いない」と書く。
財田川事件が世の中に知れ渡ったのは矢野弁護士の『財田川暗黒裁判』が出版されたからだ。鎌田さんは矢野氏の自宅を訪ねてその出版に協力、「鎌田氏こそ、財田川事件の再審に最も功績のあった文筆家」とされるゆえんだ。
鎌田さんは、再審裁判が開かれた高松地裁丸亀支部に何度も足を運び、法廷での谷口死刑囚や証人、裁判官らの表情などを含めて『死刑台からの生還』で細かく描写していく。裁判記録を精魂込めて読み込み、情景を思い起こしながら執筆したと推察される。
鎌田さんは、なぜ、これほどまでに冤罪事件に取り組むのか。
「わたしが冤罪に関心をもつのは、それが許されざる不正義であり、人間にたいする最大の侮辱と思うことにも依るが、それと同時に、個人の生活を犠牲にし、素知らぬ顔で成立している国家の構造を解明したいからである」
と記す。 (冨)
※ 『鎌田慧セレクション―現代の記録―』
9月から皓星(こうせい)社が各月で発刊しており、全12巻、各巻2700円+税。内容は、
①巻『犯罪を追う』から順に、
②『真犯人出現と内部告発』、
③『日本の原発地帯』、
④『さようなら原発運動』、
⑤『自動車工場の闇』、
⑥『鉄鋼工場の闇』、
⑦『炭鉱の闇』、
⑧『教育工場といじめ』、
⑨『追い詰められた家族』、
⑩『成田闘争と国鉄民営化』、
⑪『沖縄とわが旅路』、
⑫『補遺』
となっている。
装画は風間サチコさん
『週刊新社会』(2024年11月13日)
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