自治体非正規公務労働の場合 なくそう!官製ワーキングプア(下)
◆ 人間を入札するな
官製ワーキングプアをなくそうと、ナショナルセンターを超えて公務・公共サービス職場で働く労働者が連帯して立ち上がった。複雑な任用制度のもとでの闘いには様々な課題がある。公務職場の課題を整理してみる。
■"法の谷間"の任用制度
自治体の非正規公務労働者と一口に言っても「任用制度」(地方公務員法)の下で、臨時職員は正規職員と同じ労働時間で働くが、「緊急の場合、臨時の職」に限られ「6月を超えない期間で臨時的任用」(6月を超えない期間で更新できるが再度の更新はできない)という地公法22条による臨時職である。
非常勤職員は同17条の一般職員で「数年以内に廃止されることが予定されている場合や事業の完了に必要な期間を定めた任用」で、通常は予算法定主義で1年以内の任期とされている。
非常勤やパートなどの短時間勤務職員は同3条3項3号の特別職で、「臨時又は非常勤の顧問、参与、調査員、嘱託職員及びこれらに準ずる者の職」とされ、任期は通常1年以内で、例外を除いて地公法は適用されず労基法、労組法が適用される。 しかし短時間労働者ながら「民間労働者」のようにパート労働法は適用されず、あくまで任用制度の下にあるが、更新回数に恣意的に労基法上の上限を持ち込んでいるからややっこしい。「法の谷間」とか「グレーゾーン」と言われるゆえんである。
自治労が昨年実施した実態調査によれば、ざっくり言って非正規公務労働者の継続雇用を大幅に認めている自治体が4割弱ある一方で、勤続3年以上は1人もいない自治体が約3割ある。すべて1年未満という自治体も約1割あり、継続的な雇用をするか、雇い止めを原則とするかは、任用の根拠・適用条項とともに自治体によってまちまちであり、まさに雇う側=自治体の都合によるものである。だから「法の谷間で揺らぐ」という現状にもある。
■"雇い止め"が攻防に
こうしたなかで、勤務実態に基づく「常勤」「非常勤」の区分について嘱託職員の業務は常勤職員が行う業務と同様であると認定し、退職手当に相当する離籍報奨金の支給を適法とする司法判断も出ている(東村山市非常勤嘱託職員退職金支給損害賠償請求事件、09年2月最高裁判決)〈但し、東村山市の場合は、通勤費相当額の支給、時間外割増報酬の支給、など常勤に準じる取り扱いが条例・細則で定められていた点に注意を要する〉。
しかし総務省は今年に入り、先述のような実態にある任用を追認しながら、実態に即した法の整備ではなく、現行法の厳格な適用を求めてきている(総務省「地方公務員の短時間勤務の在り方に関する研究会報告書」など)。
これまで自治体労働組合が長い間の運動と個々の闘いで勝ち取ってきた非正規公務労働者の権利や労働条件改善の成果を奪い取る狙いであることは明らか。とくに「雇い止め」の躊躇(ちゅうちょ)なき実行を自治体当局に迫ってきている。これとどう闘うか、非正規公務労働者はもとより自治体労組の喫緊の大きな課題である。
■自治体業務の民営化
*非正規公務労働者の増大
非正規公務労働者は、自治労や総務省が実施した調査から50万人以上に上ると推測される。
一方、地方公務員(正規職)の総数は約289万9千人(08年4月1日現在)で、1975年の定員管理調査(自治省・総務省)開始以来、過去最少となり対前年度比約5万1千人純減も調査開始以来過去最大の数である。
地方公務員は1995年から連続して純減し、これまで約38万3千人の純減。これら数字から公務・公共サービスの縮小と正規が非正規に置き換えられてきていることがうかがそる。
また、自治体は財政難だから人件費削減のために正規職員に替えて非正規職員を雇用するというのが一般的な大方の理解となろうが、非正規職員の賃金は、給与・報酬という名称に関係なくすべてが「物件費」として扱われ、自治体財政上は人件費としてカウントされない。
総務省が自治体財政を評価する指数(人件費)に影響を与えない。人件費(正規職員の賃金)削減を物件費で”しのぐ”というおかしな構造が存在する。
*自治体アウトソーシングと矛盾
「この国を変える」のキャッチフレーズで構造改革・行政改革=統治機構の再編が進められてきた。
地方は「分権改革」の名の下に市町村合併(平成の大合併)と「負担に見合ったサービス提供」が強いられ、自治体業務の中枢は小数の正規職員が担い、実施部門や現業部門は「民間にできることは民間に」とアウトソーシングが強行されてきた。
PFI(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進)法(99年)、構造改革特区法(02年)、地方独立行政法人法(03年)、指定管理者制度(03年法改正・06年9月実施)、市場テスト法(06年)など「新たな法制度」が矢継ぎ早に創設、導入され、自治体業務のアウトソーシング・民営化が推進された。
公務・公共サービスの直接的な提供主体であった自治体は、「新しい公共空間の戦略本部」と位置づけられ(総務省「新行革指針」05年)、その姿は大きく変貌してきている。
自治体業務のアウトソーシングは、委託・指定管理者等で働くワーキングプアの「間接雇用労働者」を広範に生み出している。
自治体での一般競争入札の導入・普及で、労働ダンピングを惹起している場合も稀ではない。「人間を入札するな!」という間接雇用労働者の叫びは切実さを増している。
またアウトソーシングは同時に、市営プールでの児童死亡事故、ごみ収集業務での混乱、株式会社が指定管理者として運営受託した保育園や図書館などで住民サービスの質の低下が顕在化している。保育園民営化に対し住民訴訟も各地で起こされている。
委託先企業で働く労働者の賃金が最賃以下、一般競争入札に伴う解雇、偽装請負の発覚などが後を絶たない。
自治体の行つ入札や公契約の改善と同時に自治体業務の委託先民間(企業)に働く労働者の劣悪な労働条件も含めて住民の福祉増進を目的とする自治体が、みずから「福祉対象者」をつくり出しているという矛盾に直面している。
*壁を超え連携して
この間の新自由主義・構造改革がもたらした格差と貧困を克服するためには、自治体が担うべき公務・公共サービスを確立することが「良い社会」をつくるために必要だという世論が動き出しつつある。
社会的格差と貧困を司視化させ、その克服をめざす運動を広げた反貧困運動や官製ワーキングプア告発の運動と大きく合流しながら、自治体に存在するワーキングプアをなくすために活動する大きなチャンスでもある。
正規職公務労働者(組合)は、同じ職場に働く非正規公務労働者に向きあい「(内なる)任用の壁」を超えてともに手を携え活動を開始するときである。
『週刊新社会』(2009/5/26)
◆ 人間を入札するな
全国自治体労働運動研究会 星野芳久
官製ワーキングプアをなくそうと、ナショナルセンターを超えて公務・公共サービス職場で働く労働者が連帯して立ち上がった。複雑な任用制度のもとでの闘いには様々な課題がある。公務職場の課題を整理してみる。
■"法の谷間"の任用制度
自治体の非正規公務労働者と一口に言っても「任用制度」(地方公務員法)の下で、臨時職員は正規職員と同じ労働時間で働くが、「緊急の場合、臨時の職」に限られ「6月を超えない期間で臨時的任用」(6月を超えない期間で更新できるが再度の更新はできない)という地公法22条による臨時職である。
非常勤職員は同17条の一般職員で「数年以内に廃止されることが予定されている場合や事業の完了に必要な期間を定めた任用」で、通常は予算法定主義で1年以内の任期とされている。
非常勤やパートなどの短時間勤務職員は同3条3項3号の特別職で、「臨時又は非常勤の顧問、参与、調査員、嘱託職員及びこれらに準ずる者の職」とされ、任期は通常1年以内で、例外を除いて地公法は適用されず労基法、労組法が適用される。 しかし短時間労働者ながら「民間労働者」のようにパート労働法は適用されず、あくまで任用制度の下にあるが、更新回数に恣意的に労基法上の上限を持ち込んでいるからややっこしい。「法の谷間」とか「グレーゾーン」と言われるゆえんである。
自治労が昨年実施した実態調査によれば、ざっくり言って非正規公務労働者の継続雇用を大幅に認めている自治体が4割弱ある一方で、勤続3年以上は1人もいない自治体が約3割ある。すべて1年未満という自治体も約1割あり、継続的な雇用をするか、雇い止めを原則とするかは、任用の根拠・適用条項とともに自治体によってまちまちであり、まさに雇う側=自治体の都合によるものである。だから「法の谷間で揺らぐ」という現状にもある。
■"雇い止め"が攻防に
こうしたなかで、勤務実態に基づく「常勤」「非常勤」の区分について嘱託職員の業務は常勤職員が行う業務と同様であると認定し、退職手当に相当する離籍報奨金の支給を適法とする司法判断も出ている(東村山市非常勤嘱託職員退職金支給損害賠償請求事件、09年2月最高裁判決)〈但し、東村山市の場合は、通勤費相当額の支給、時間外割増報酬の支給、など常勤に準じる取り扱いが条例・細則で定められていた点に注意を要する〉。
しかし総務省は今年に入り、先述のような実態にある任用を追認しながら、実態に即した法の整備ではなく、現行法の厳格な適用を求めてきている(総務省「地方公務員の短時間勤務の在り方に関する研究会報告書」など)。
これまで自治体労働組合が長い間の運動と個々の闘いで勝ち取ってきた非正規公務労働者の権利や労働条件改善の成果を奪い取る狙いであることは明らか。とくに「雇い止め」の躊躇(ちゅうちょ)なき実行を自治体当局に迫ってきている。これとどう闘うか、非正規公務労働者はもとより自治体労組の喫緊の大きな課題である。
■自治体業務の民営化
*非正規公務労働者の増大
非正規公務労働者は、自治労や総務省が実施した調査から50万人以上に上ると推測される。
一方、地方公務員(正規職)の総数は約289万9千人(08年4月1日現在)で、1975年の定員管理調査(自治省・総務省)開始以来、過去最少となり対前年度比約5万1千人純減も調査開始以来過去最大の数である。
地方公務員は1995年から連続して純減し、これまで約38万3千人の純減。これら数字から公務・公共サービスの縮小と正規が非正規に置き換えられてきていることがうかがそる。
また、自治体は財政難だから人件費削減のために正規職員に替えて非正規職員を雇用するというのが一般的な大方の理解となろうが、非正規職員の賃金は、給与・報酬という名称に関係なくすべてが「物件費」として扱われ、自治体財政上は人件費としてカウントされない。
総務省が自治体財政を評価する指数(人件費)に影響を与えない。人件費(正規職員の賃金)削減を物件費で”しのぐ”というおかしな構造が存在する。
*自治体アウトソーシングと矛盾
「この国を変える」のキャッチフレーズで構造改革・行政改革=統治機構の再編が進められてきた。
地方は「分権改革」の名の下に市町村合併(平成の大合併)と「負担に見合ったサービス提供」が強いられ、自治体業務の中枢は小数の正規職員が担い、実施部門や現業部門は「民間にできることは民間に」とアウトソーシングが強行されてきた。
PFI(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進)法(99年)、構造改革特区法(02年)、地方独立行政法人法(03年)、指定管理者制度(03年法改正・06年9月実施)、市場テスト法(06年)など「新たな法制度」が矢継ぎ早に創設、導入され、自治体業務のアウトソーシング・民営化が推進された。
公務・公共サービスの直接的な提供主体であった自治体は、「新しい公共空間の戦略本部」と位置づけられ(総務省「新行革指針」05年)、その姿は大きく変貌してきている。
自治体業務のアウトソーシングは、委託・指定管理者等で働くワーキングプアの「間接雇用労働者」を広範に生み出している。
自治体での一般競争入札の導入・普及で、労働ダンピングを惹起している場合も稀ではない。「人間を入札するな!」という間接雇用労働者の叫びは切実さを増している。
またアウトソーシングは同時に、市営プールでの児童死亡事故、ごみ収集業務での混乱、株式会社が指定管理者として運営受託した保育園や図書館などで住民サービスの質の低下が顕在化している。保育園民営化に対し住民訴訟も各地で起こされている。
委託先企業で働く労働者の賃金が最賃以下、一般競争入札に伴う解雇、偽装請負の発覚などが後を絶たない。
自治体の行つ入札や公契約の改善と同時に自治体業務の委託先民間(企業)に働く労働者の劣悪な労働条件も含めて住民の福祉増進を目的とする自治体が、みずから「福祉対象者」をつくり出しているという矛盾に直面している。
*壁を超え連携して
この間の新自由主義・構造改革がもたらした格差と貧困を克服するためには、自治体が担うべき公務・公共サービスを確立することが「良い社会」をつくるために必要だという世論が動き出しつつある。
社会的格差と貧困を司視化させ、その克服をめざす運動を広げた反貧困運動や官製ワーキングプア告発の運動と大きく合流しながら、自治体に存在するワーキングプアをなくすために活動する大きなチャンスでもある。
正規職公務労働者(組合)は、同じ職場に働く非正規公務労働者に向きあい「(内なる)任用の壁」を超えてともに手を携え活動を開始するときである。
『週刊新社会』(2009/5/26)
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