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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

人道に対する罪には主権免除が適用されない、従軍慰安婦被害者裁判ソウル地裁判決

2021年01月12日 | 平和憲法
  =1月8日のソウル地裁の判決を支持する街宣アピール=
 ◆ 日本軍「慰安婦」被害者たちに賠償を命じたソウル地裁判決を支持する

 昨日1月8日、日本軍「慰安婦」被害者が日本国を相手取った損害賠償裁判で、ソウル中央地裁の判決がありました。被害者たちの訴えが認められた素晴らしい判決です!
 私たちはこれを歓迎します。そしてこの判決を認めようとしないスガ政権を絶対に許しません。そして日本政府の立場に立ち、被害者の心情を一切理解しようとしない日本のマスコミの報道姿勢も、許すことができません。
 1、「主権免除」の虚構

 日本政府はこの被害者が起こした裁判に対して、「主権免除」を理由に、一切無視してきました。
 ここで日本政府の言う「主権免除」とは、「日本と韓国とはお互い主権国家なのだから、韓国に住んでいる人が日本国家を相手取って韓国の裁判所に訴えることは、日本政府に対する主権侵害に当たる」ということです。
 しかしこれはおかしな話です。人道に対する犯罪が行われたというのに、それを訴えることが本当にできないのでしょうか?
 そこに正義があるのでしょうか? そんなことが許されていいわけがありません。
 スガ政権はすぐに「国際法違反」といいますが、人道に対する罪は「主権免除」に当たらないという考え方があります。
 国家があからさまな人道に対する罪を犯しているのに、その国家を訴えることができない、そんな理屈は通用しないぞということです。
 考えてみて下さい。
 あなた自身、あるいはあなたの配偶者や子どもが、どこかの国家機関に騙されて拉致され、遠い国に連れて行かれて監禁され、性暴力を受けた。被害者は無事生き延びることが出来たけれど、受けた被害を忘れることができない。
 よく考えて見て下さい。あなたは加害を与えた国家を訴えることを、ガマンできますか?
 日本政府が言っていることはこういうことなのです。日本政府が犯した国家犯罪を、韓国の裁判所に問うことができない、そういうひどいことを言っているのです。
 じゃあ、日本の裁判所に訴えたらいい。あなたはそう言うかもしれません。
 けれどそれはすでにたくさんの被害者が1990年代にしてきたことなのです。多くの被害者が名乗り出て、立ち上がり、日本の裁判所で日本政府の罪を問いました。
 その時、日本の裁判所はどんな判決を下したのか、皆さん知っていますか?

 「あなたたちが日本軍によって被害を受けたことは認める。そしてあなたたちには賠償を請求する権利がある。けれど日韓請求権協定によって国家は被害者に対して外交保護権を放棄したのだから、日本の裁判所に訴えることはできないよ
 そういう判決を出しているのです。
 日本の裁判所が「日本に訴えてこられても困る」といった。だから韓国の裁判所に訴え出たのです。
 加害国の裁判所が全く相手にしてくれないのなら、自分の国の裁判所に訴え出るしかないじゃないですか?!
 それのどこがいけないのですか?
 日本の裁判所に訴え出ることを拒絶しておいて「主権免除」を主張するなど、許されることではありません。
 2、主権免除が適用されなかったナチスドイツの戦争犯罪

 実際にナチスドイツの蛮行には、主権免除が適用されなかった例があります。
 ギリシャとイタリアの戦争被害者が、自国の裁判所に訴え、主権免除が適用されなかった事例があります。
 ギリシャでは1944年、ドイツ軍がパルチザンに対する報復として214人もの民間人を住民虐殺する事件がありました(ディストモ事件)。被害者遺族がドイツに賠償請求を求めてギリシャの裁判所に提訴して、2000年、ギリシャの最高裁は主権免除を退けたのです。このような不法行為には主権免除を適用する必要がないと!
 イタリアでは1943年にチビテッラ村で203人もの住民を虐殺した事件が問われました。これもイタリアの裁判所はドイツの主権免除を退け、損害賠償を認めました。2004年のことです。
 時代は確実に前に進んでいるのです。

 これらの判決はドイツが「ドイツに主権免除を与える慣習国際法上の義務に違反している」とICJに訴え、結果としてドイツが勝利し、賠償は実現されることはありませんでした。
 日本政府が喜びそうな事態ですよね。
 けれどこの判決の内容を知れば、日本政府の主権免除論には根拠がないということがわかります。
 ドイツの意見を支持し、ギリシャやイタリアの最高裁判決を退けた理由は、「少なくとも武力紛争遂行過程での軍隊の行為については主権免除を適用するという慣習国際法が存在する」というものでした。
 つまり「戦闘中に起こった悲劇なのだから仕方がないよね」ということです。こういう理屈を、私は認める気はありません。日本軍も中国やフィリピンなどで、住民虐殺を起こしました。もちろん南京でも。それを「戦闘中だから仕方がないよね」と済ます理屈など、到底容認できません。
 けれど、今回の原告たちである韓国の日本軍「慰安婦」被害者たちは、「戦闘中だから仕方がないよね」と言えるものでしょうか?
 「いい仕事がある」と騙され、言葉も通じない占領地や戦地に連れて行かれ、慰安所に監禁される日々。いいなりになってやっと与えられるニセモノの「自由」。
 用意周到な計画ですよね。戦闘中でもありませんよね。
 イイワケしようのない国家犯罪じゃないですか。日本国の「主権免除」が適用されないことは明らかです。
 3、日韓請求権協定で解決済み?

 日本政府は「国際法違反」という言葉を最近よく口にします。そういうふうに言えばなんでも国民が納得する、そういうふうに思っているかのようです。「主権免除」についてもそうです。あからさまな国家犯罪が「主権免除」で逃げ切れるなんて、許されるわけがありません。
 そもそも日本政府は、この裁判に対しては全無視でした。訴状を受け取ろうともせず、裁判所は公示送達(掲示板に貼り出して相手が受け取ったという効力を発生させること)をせざるを得ませんでした。
 誠意がないのです。真摯さに欠けているのです。日本が加害国の立場だとわかっているのでしょうか?
 「1965年の日韓請求権協定に違反している」「2015年の日韓合意にも違反している」とういうこともひっくるめて日本政府は「国際法違反」と言っています。
 日韓請求権協定が、被害者たちの請求権を失わせていないことは、実は日本政府も認めています。被害者に請求権はあるけれど、日本は応える必要はない、そういう誠意のない姿勢なのです。
 もうひとつ言えば、日韓請求権協定を締結するときに、日本軍「慰安婦」問題のことは議題にも登らなかったことが明らかになっています。当然ですよね。
 この問題は1991年に金学順さんが名乗り出られてから、初めて問題になったのです。議論の俎上に載せようがないですよね。だから、日本軍「慰安婦」問題は新たに解決しなければならない問題なのです。(もちろん、協定締結時に話し合われた「強制連行」等の問題が「解決済み」と主張したいわけではありません。)
 そして2015年の日韓合意で解決したなんて、誰が言えますか? 10億円払ったのだから、最終的不可逆的に解決したのだから、もう語るな。〈平和の少女像〉を撤去しろ。
 これが本当に解決ですか? ただの恫喝じゃないですか。ヤクザのやり口と一緒ですよ。
 4、解決を阻む最大の要因は何か?

 被害者たちが名乗り出られて、今年で30年です。多くの被害者たちはすでに亡くなられています。
 なぜ30年たってもなお、被害者たちは裁判を闘わなければならないのでしょうか?
 日本が加害の事実を認めていないからです。
 日本政府は「国際法違反」と言います。しかしその前提条件が成立していないのです。
 日本政府は日本軍「慰安婦」問題を、人道の罪だと認めていません。国家犯罪と認めていません。
 認めていないのであれば法廷の場に出てきて「犯罪ではない」と主張すればいいものを、それが通用しないとわかっているから全無視しているのです。「主権免除」なんて理屈を持ち出すのです。日本政府が法廷の場に出て「人道の罪ではない」「国家犯罪ではない」と主張して、それが認められれば、裁判は日本政府の勝ちですよ。日本軍「慰安婦」問題が人道の罪でなければ、確かに主権免除が認められたでしょう。
 でも日本政府はそれはしなかった、できなかった。だって、誰がどうみてもこれは「人道上の罪」であり「国家犯罪」であることは明らかじゃないですか。
 日本政府は言います。「強制連行はなかった」「性奴隷ではない」「国家犯罪ではない」……でもそんな理屈は国際社会には通用しません。日本軍「慰安婦」問題は、世界の人権感覚からすればどうみても性奴隷制なのです。そんなことを言っているうちは、解決はないのです。
 日本政府は「日韓請求権協定で解決済み」「日韓合意で解決済み」と言いますが、そんなもの、世界中の人から批判にさらされていて、盟主国のアメリカも「解決しろ解決しろ」というものだからカネは出したけれど、罪を認めたわけじゃないぜ……そういう態度なわけです。それが解決ですか?
 こんな日本国で、皆さんはずかしくないですか?
 もううんざりです。こんな恥ずかしい国には、もううんざりです。

 どうせ日本政府は賠償する気はないんでしょ?
 差し押さえられたらいいんじゃないですか?
 日韓関係なんて、こじれるだけこじれてしまえばいい。
 けれどそれは、マスコミが言うように韓国が国際法を無視しているからじゃない。常識上ありえないからでもない。
 日本が、事実を事実と認めようとしていないことから起因しているのです。

 今回の判決の賠償金は一人当たり1億ウォン、たかだか1千万円です。2015年の日韓合意で日本政府が拠出したのは10億円。つまり100人の被害者に賠償できることになります。いまご存命の被害者は16人。6倍の賠償金を全員に支払ってもお釣りが出ます。
 なぜそんな簡単なことができないのでしょうか?
 答えは簡単です。罪を認めたくないからです。
 故・姜徳景ハルモニは生前、こう喝破しました。
 「お金じゃなくて、歴史に残したくないのだ。悪いことをしたと、日本は認めたくないのだ
 全くその通りです。
 罪を認めていないから。金を出せば済むんだろうと思っているから。

 こんな恥ずかしい日本はもうゴメンです。
 私たちは被害者の心情に寄り添って、日本政府の謝罪と賠償を求めて闘います。私たちの責任を果たすだけです。
 [2021年1月9日 梅田解放区アピール原稿]

『加害者の孫を生きる ~日本軍「慰安婦」問題のこと、その他のこと』(2021/01/09)
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