熱核融合炉のついでに常温核融合の話題にも触れてみたい。フライシュマン・ポンズの常温核融合実験が華々しくニュースになったのは1989年の春の事である。その後、再現性の悪さからこの研究は似非科学扱いされ、研究者は学会や論文発表に際してひどい差別的な扱いをされて来た。しかし、パラジウムなどの固体水素吸収体に重水素を吸収させた状態で、電界を加える事により何らかの核反応が起ることは、事実で有るらしい。例えば長年この研究に携わってきた北大の水野博士による下記のような記述がある(太字参照);
http://www.lenr-canr.org/acrobat/MizunoTjyouonkaku.pdf
従来の常温核融合研究において、最大の難点は再現性の悪さであり、そのために病的科学とよばれた。しかし、多くの研究者の地道な努力でその再現性は着実に向上してきた。最も再現性が高いのは三菱重工業が研究している方法である。パラジウム膜間に酸化カルシウムをはさんだ素子を用いて、100%の再現性で核変換反応を起こすことが出来る。....重水素ガスを透過すると、表面の元素は、ほかの元素に変換する。同時に X 線がバースト的に発生する。この場合、電極表面の反応元素が、より重い元素に変化する。質量は 8 増加し、原子番号は 4 大きくなる。反応後の元素の同位体分布は、初めの元素と同じ形をしている。この反応は再現性が 100%である。すでに JJAP 誌に論文として発表された。
...この方法は単にエネルギーを得るばかりではなく、反応系内に存在する不安定重元素を核的に分解し、安定元素に変える可能性があることがわかった。これは応用面で大変重要であり、現在その処理に困っている、放射性廃棄物を根本的になくせる可能性がある。
上記の現象は核変換であるが、別の実験では余剰発熱も観測されている。ただ残念ながら安定的にそれを再現するには程遠い状態で、研究者自身も現象を掴みきれていないのが現状のようだ。このメカニズムを説明する理論は下記のような検討が進められている。
固体内での核融合反応の理論的解析は、高橋の多体核融合反応理論、Frisone の微少亀裂近辺での核融合率変化の計算があげられ、測定結果との一致が良い。高橋は固体内での重水素クラスター核反応についての総合的な説明を行った。多体核融合反応は金属格子内にて反応率が上がることを、すでに理論的かつ実験的に証明してきた。ここでは、特に多くの反応生成物間の関係を詳細に解説した。Frisone はQED 理論によって重陽子による低温核融合について、微少亀裂内の格子変形が融合過程に与える効果を分析した。通常の融合確率と比較し、微少亀裂はD2 が不純物を含んだ金属内では融合確率が上昇するということである。最終的に、過剰に添加されたD2 の影響を分析している。
しかし考えて見れば、例えば地震という現象は正確には予測できないし再現性も無い。しかし、明らかに現象としては存在する。常温核融合現象というのはこれに近いのでは無かろうか。固体内部の歪や局所破壊、表面状態といった極めて定量化しずらい条件の下で核反応が起るようである。これに関連しては下記のような記述がある、
たとえば突起の部分では電子が集中しやすく、反応が起こりやすいと考えられる。...水素発生で考えると、そのような部分で放電は起こりやすいが、再結合は遅れる。すると当然、全過電圧に占める割合は変わってくる。全過電圧が今の0.2A/cm2の電流密度で1.2V とする。このうち通常表面ならば、放電と再結合による過電圧はそれぞれ1.5V と0.15V であるが、放電が起こりやすいためにそれが、0.7V と0.5V となったと仮定すると、計算で得られる水素圧力は1017気圧に達することになる。これは太陽中心の圧力1011気圧をはるかに越えるものとなる。このようにわずかに放電と再結合の過電圧の割合が変わるだけで、その圧力は大きく変化する計算になる。もし、さらに再結合の過電圧が0.7V と逆転すると1023気圧に達し、優に中性子星の中心圧力にもなる。...このように実際に中性子が入り込むことが本当に出来れば、後は核の安定性や、中性子エネルギーによって反応の進行は決まってしまう。
もちろん常温の試験管の中で核融合が起こせてエネルギーを取り出す事が出来れば、まさに画期的な事だ。しかし、例えそれがすぐには実用的な意味を持たない事で有ったとしても、何か我々の知らない新しい科学の展開を開く端緒となる現象なのかもしれない。ただ、あまり日の目を見ない分野なので研究者の退官等もあり研究継続が困難になりつつあるらしい。極めて特異な現象であるだけに、政府において何とか継続的な発展を続けられるような手当てを考えてもらいたいものである。
追記;
常温核融合でサーチしていると下記のようなホットなニュースを見つけた、事によると事かもしれませんよ...
http://amateur-lenr.blogspot.com/2011/01/focardirossi2.html
Focardi氏とRossi氏の常温核融合公開実験(2)
「
Focardi氏とRossi氏の常温核融合公開実験」で紹介した実験ですが、実験の要である熱量測定結果についてJed氏による簡潔明瞭なレポートが
http://www.lenr-canr.org/News.htm に掲載されました。
Jed氏のレポートによると、1時間にわたる今回の実験で、稼働が安定した後半30分に出た熱量は約12kW。この時、装置を温めるヒータへの入力電力は400Wだったので、実に入力の30倍の熱量が発生した事になります。これは、核反応発生を示す非常に強力な証拠と言えるでしょう。