ある美しい朝、如何にも優しげな人々の間にたち交って、
見事な男女が、広場で叫んでいた、
「皆さん、私は彼女(これ)を女王にしたいのだ」
「妾(わたし)は女王様になりたい」。
女は笑い、身を振る顫(ふる)わした。
男は黙示に就いて、既に了(おわ)った試煉に就いて、
人々に語った。
二人は抱き合って気が遠くなった。
ほんとうだった、家々には、紅色の布が張りわたされ、
二人は午前も王様だった。
棕櫚の園を進む時、午後も二人は王様だった。
「 王権 」 アルチュル・ランボオ 作 小林秀雄 訳