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時、うつろいやすく

日常のたわいもない話…
だったのが、最近は写真一色になりつつある。

ひとり言

2011-09-07 16:32:29 | 思い出
私の親父はよくしゃべる。
つまらないことをぺらぺらととめどなくしゃべる。
今はもう年を取ってしまって、以前のような勢いはないが昔は口に
蓋をしてやりたいくらいにしゃべり続けていた。
小学4年くらいのとき、私はこっそり親父を観察することにした。
父親はきっとひとりの時もしゃべり続けていると思ったからだ。
父親は昼寝をするために毎日午後二時頃に家に帰ってきていた。
父親の車の音を聞きつけると私は机の下に隠れた。
しーんと静まりかえった中、親父が居間に入ってきた。
机は居間の隅っこにあった。
悪いことをしているわけではないのに後ろめたい罪悪感が芽生えた。
予想外の緊迫感に体が強張る。
じっと息を殺して様子を伺った。
親父はちゃぶ台の前に座ってごそごそとコーヒーを作り出した。
終始無言である。
コーヒーをすする間も無言である。
新聞を見開きする間も無言である。
片付けをしている間も無言である。
そこにいるのは別人のような父親だった。
あのおしゃべりの父親はいったいどこへ言ったのか。
その後も静寂は続いた。
いっこうにしゃべる気配はなかった。
私は父親もひとりのときは寡黙なんだと知った。
そして、私のひとり言の癖は父親ゆずりではなかったと知った。
コメント (4)
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