20世紀における二つの大戦は双方が国力の全てをかけて戦う総力戦であり、連合国、枢軸国ともに当初は甲乙つけ難い対称的な力を持つ戦争でした。一方で21世紀に入ってから、特に2001年911以降の「テロとの戦い」は一方が圧倒的な力を持ち、もう一方は小国であったり、国家でもない民兵組織やテロ組織であるという非対称な戦争になっているのが特徴です。
I. 強い方が勝つとは限らない非対称戦
戦争が外交の一手段であることは非対称戦においても変わりません。つまり何らかの政治目的を達すれば戦い自体には敗れても良いと考えられますし、戦闘に勝っても政治目的が達せられなければ戦争自体が無駄になります。実は圧倒的な武力を持つ大国が常に勝つということはなく、19世紀の南ア、ボーア戦争においても通常戦で戦おうとする英国軍に対して、オランダ先住移民からなるボーア人たちは戦術を駆使して善戦し、英軍を苦しめました。少数軍勢が大軍に勝つまでに行かなくても侵略の意思を失わせる善戦をすることは古今東西歴史で証明された事実としてあります。侵略の意を遂げるには、侵略した地域が安全に住める状態にならなければ「勝って戦争の目的を遂げた」と言えないので、最後は「虐殺による被支配民の皆殺し」しか手段がない場合もあり、「ジェノサイド禁止条約」がある現在、力で押して「戦いに勝つ」だけでは「戦争の目的を遂げる」ことは不可能になったのです。
米国は911以降のイラク・アフガンの戦役から根本的な国防戦略を通常戦から非対称戦(Asymmetric Warfare)に焦点を移し、兵器や部隊編成、訓練の在り方なども変化させてきました。2006年に米軍が策定したFM3-24Counterinsurgencyマニュアル(対反乱作戦)がその一つですが、本来の軍隊にそぐわない「各人がその場で戦闘の決定を下す」という軍人よりも警察官に求められる任務が入ることで、精神的に病む退役軍人が増加し、米軍本来の戦闘団としての機能低下をきたした事も確かでした。中国では66万人の「人民武装警察」がその役割を担っています。ロシアもアフガン戦役の失敗がその後の戦術変更をもたらしたと言われ、シリアにおけるIS掃討に生かされました。現在は結果的に対称戦よりも非対称戦に米軍・NATOは重点を置く状態が続いているのです。
II. ウクライナ戦争は対称戦になりNATOの脆弱が露呈
2022年2月に始まったウクライナ戦争は、当初一方的なロシアの進軍に対してウクライナ軍は体系的な戦争をせずに(むしろ出来ずにが正しい)高精度の西側の武器を用いて神出鬼没の戦いをしたので民間への被害を最小限にしたいロシア軍は苦戦を強いられます。非対称戦で相手が最新の兵器を駆使するのですから非常に被害が大きくなるのは当然です。
しかしウクライナの善戦に気を良くした西側は2022年3月にまとまりかけた和平案を拒否、「ロシア軍は弱いから勝てる」と愚かな決断をして正規軍同士の「対称戦」に持ち込んでしまいます。2022年夏以降、ロシア軍は「対称戦」として戦時経済に移行し、本格的な防衛線を設けて戦争に臨みました。対称戦で軍を指揮できる司令官はNATOにはいません。訓練や兵器体系も非対称戦を前提にしており、強固な防護戦を突破する様に設計されていません。しかもロシア軍は西側の最新戦術を全て取り入れ、イラン製の安価な自爆ドローンとキンザールの様な最新ミサイルを併用してウクライナ軍の10倍の砲火力で戦場を制圧してきました。安価な滑空誘導爆弾は50マイル離れた場所から正確に爆撃ができます。つまり東京駅で爆撃機から投下した500キロ爆弾は箱根や銚子の敵陣地で爆発するので、せいぜい10キロか15キロの砲弾の炸裂とは比較にならない破壊力があるのです。しかも投下した飛行機は対空ミサイルの射程外です。ドローンを用いた同じ戦法がウクライナ戦車とロシア対戦車ヘリでも使用されるので西側供与のレオパルドやブラッドレーが跡形もなく破壊されてしまうのです。
III. 肉挽き司令官「シルスキー」就任
ウクライナ戦争は100%ロシアの勝利ですが、劣勢を正しく進言するザルジニー司令官を愚かにもゼレンスキーは「いくら兵士が死んでも肉弾攻撃を命令する」シルスキーに交代させました。相手が脆弱であれば肉弾突撃は効果的ですが(2022年秋の東部攻勢)、準備万端整えた相手に肉弾突撃ほど「相手にとって楽な戦い」はありません。ウクライナ兵のシルスキーの評判は最悪で、肉挽き司令官と呼ばれています。第二次大戦で硫黄島の指令であった栗林中将は「万歳突撃はするな、とにかく守りを固めて生き残ってしぶとく戦え」と命令し、米軍の被害を拡大させ、後の沖縄戦や本土決戦で米軍は被害の多さに持ちこたえられないだろうと思わせるに至ります。肉弾攻撃を命ずる司令官は勇ましいようで実は「利敵行為の裏切り者」なのです。
IV. 対称戦として戦い失敗するガザ
ガザにおけるイスラエル軍は予想通り敗北しつつあります。10月7日のハマスによる人質拉致に対してはCOINによる対応が必須であるのに、イスラエルは通常戦を行ってガザを砲爆撃し、二万五千を超える一般市民を虐殺します。初めからジェノサイドが目的だったのでしょうが、当然全世界から批難を浴び、国際司法裁判所ICJからも「ジェノサイドを防ぐあらゆる処置をせよ。」と命令されます。3万人近く虐殺して、「ハマス戦闘員の2割(5000人位?)を掃討した」などと確認しようのない戦果を発表していますが、解放した人質は一人いるかどうかで、休戦中に交渉で解放された人質が圧倒的に多い。つまり戦果は市民虐殺だけで殆どなく、予備役を含むイスラエル兵の犠牲は数百名と言われています。米国はヨルダン川西岸の入植地域を返還してパレスチナ国家を保障する方向でイスラエルと交渉を始めており、サウジアラビアも1967年の状態に戻せばイスラエルと国交正常化すると言い出しています。イスラエルは「国家の存在自体を世界から否定されないうち」に敗北を認めて兵を引く時期に来ていると言えます。
ハマスか市民か区別つかない男性たちを裸にして縛り上げるイスラエル軍(同じ事を自分たちがされても平気なのか?)