東京電力福島第1原発の事故で、復旧に携わる東電の協力会社は高い賃金を“エサ”に作業員をかき集めているという。なかには「日当40万円」を提示された男性も。ただ、高給につられて現地へ赴いても、待っているのは被曝の恐怖と、1日2食で雑魚寝しか許されない過酷な労働環境だ。
29日の東京新聞によると、さいたま市に避難している作業員の男性(27)は、原発メンテナンス業者から「日当40万円出すからこないか」と誘われた。この男性はすぐに断ったが、50代以上の作業員は高給に魅力を感じ、次々と現場へ戻っているという。
原発の敷地内は放射線量が高いため、作業員は「頻繁に交代している」(東電関係者)。仮に1週間限定の作業でも、日当40万円なら280万円。不況下では簡単に手に入らない、まとまったカネではある。
しかし、いくら賃金がよくても、作業環境は極めて悪い。現地に滞在していた原子力安全・保安院福島第1原子力保安検査官事務所の横田一磨所長(39)が、その実態を明かした。
全作業員は免震重要棟と呼ばれる建物で寝泊まりする。朝6時に起床し、朝食は非常用クラッカーと、野菜ジュース1パック(180ミリリットル)。昼食は抜きで、各持ち場の作業に打ち込む。午後5時に作業が終わり、夕食は「マジックライス」と呼ばれる非常用乾燥米と、鶏肉や魚の缶詰1缶。放射線量の関係で、物資の運搬に小型のバスしか使えないため、補給が限られているのだという。
睡眠は会議室や廊下での雑魚寝。被曝防止の鉛入りシートを床に敷き、毛布にくるまる。
こんな待遇で、国民の安全を守る命がけの作業ができるのか。夕刊フジで「瞬速おつまみ」を連載する料理研究家の原るみさんは、「身体を動かす男性は1日2300キロカロリーが必要とされています。ところがこの食事では、ざっと計算しても400キロカロリー程度と拒食症の患者並み。これでミスをするなというほうが酷です」と指摘する。
劣悪な食事などについて、保安院の横田所長は「協力したいが基本的には事業者(東電)の問題」と話した。決死隊を強力にサポートせず、政府はいったい何をしているのか。
東日本大震災で損傷した東京電力福島第一原子力発電所への外部電源の復旧工事、そして、放水・冷却作業。被曝覚悟で決死の活動を展開している現地の東電、メーカー、下請け業者、自衛隊、警察、消防の方々には心から敬意を表したい。大前研一氏はそう語りながらも、「だが」――と、問題の本質を以下のように指摘する。
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2007年の新潟県中越沖地震で柏崎刈羽原発が損傷した際、私は今回の問題が予見されたため「日経BPnet」のコラム『「産業突然死」時代の人生論』で、緊急に取り組むべき改善点として、
【1】プラントとしての耐震設計が抜け落ちていた、
【2】個々の機器の吟味が足りなかった、
【3】情報発信が国内選挙対策向け・地元向け中心で、世界に対する配慮が欠けていた
という3点を挙げた。
その上で、原子炉が全部停止し、緊急発電装置も外部電源も取れない状況を想定し、内部に安全度の高い小型火力発電所を併設するか、原理の異なる本格的な自家発電装置を設けねばならない、圧力容器の蓋を取り外すクレーンなど格納容器内にあるすべての機器やシステムが炉心と同じ安全基準を満たしていなければならない、と提言した。
しかし、東京電力も国も、何もやらなかった。あの時、電源の問題だけでも改善していたら……と悔やまれてならない。