体調が悪くなって病院で診療を受けると、診療継続中でない限り初診料を払わなければならない。この初診料を1万円にする案が厚生労働省で検討されている。「長時間待ち、数分間の診療」と揶揄される病院での診察で、こんな暴挙が起ころうとしている。現在、厚労省の社会保障審議会は、「大病院に紹介状がなく外来を受診した場合、初診時に通常の窓口負担とは別に一定額の支払いを徴収する」方向で検討を行っている。
病院には大きく分けて、以下の3種類がある。
(1)特定機能病院
高度医療を提供し、医療技術の開発・評価を行い、研修ができる病院。400床以上の病床数を持ち、厚生労働大臣によって承認される。
(2)地域医療支援病院
医療機器などを一般病院や診療所と共同で利用し、かかりつけ医を後方支援する病院。200床以上の病床数を持ち、都道府県知事によって承認される。
(3)その他の一般病院
特定機能病院、地域医療支援病院以外の病院。
大病院とは、上記のうち病床数200床以上の病院を指す。
現在、病院の初診料は2820円と決まっており、自己負担が3割の場合に患者が支払う額は846円だ。ただし、病床数200床以上の大病院については、現在でも紹介状がない初診の場合には、2000円程度の特別料金をかけることができるが、その徴収は任意となっている。
今回、厚労省が検討しているのは、紹介状がなく大病院で受診した場合、初診料のほかに特別料金として1万円または5000円を追加するといった案だが、1万円案が有力になっている。
大病院の初診料に1万円の特別料金をかける案が検討されている背景には、病気やケガの症状が軽い場合でも患者が大病院に集中する傾向があり、そのため緊急患者などへの対応に影響が出ていることがある。
確かに、厚労省の2014年受療行動調査によると、医師の紹介により外来で受診するのは35.6%となっており、紹介がなく外来受診をしているケースが6割以上いることになる。
一方で、特定機能病院では90.7%、大病院では86.0%が予約をして受診しているが、それでも外来の待ち時間は15分未満が25.0%、15~30分未満が24.0%、30~60分未満が20.2%となっており、予約をしていても待ち時間が短いとはいえない。さらに60~90分未満が10.7%もおり、中には2~3時間未満4.4%、3時間以上1.9%ということもある。
その上、受診時間は3~10分未満が51.2%、3分未満16.5%と、7割近くが10分未満の診療時間となっている。「長時間待ち、数分間の診療」はいまだに健在なのだ。こうした状況に、外来患者のうち診療に「満足している」と回答しているのは、57.9%と6割に満たない。4割以上の外来患者が「不満」としているのだ。
確かに、緊急患者などへの対応に影響が出たり、軽い症状の患者が大病院に行くことで外来患者数が無用に増加し、混雑を引き起こし、満足な診察を受けられないことには問題がある。だからといって、特別料金として初診料に1万円を上乗せして、大病院から患者を遠ざける方法が得策なのだろうか。
厚労省の社会保障審議会では、大病院の初診料特別料金のほかにも、入院患者の病院に支払う食費の自己負担額(1食当たり原則260円)も大幅に引き上げる方向で検討している。これは、全額自費の在宅患者との公平性を図ることを狙ったものだが、米国では同様の措置を行ったために、食費を払えない入院患者が急増した例もある。
そもそも安倍晋三政権は、昨年4月の消費税率引き上げの際に、「増税分は社会保障へ使う」と説明し、目的税化したはずだ。それを反故にするように、国民に医療費負担の増加を押し付ける政策を検討すること自体が公約違反ではないのだろうか。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)