弁理士『三色眼鏡』の業務日誌     ~大海原編~

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【両県知事様】hot springな争い~おんせん県~【ご一読を(笑)】

2012年11月10日 22時11分12秒 | 実務関係(商・不)
先日、流行語絡みで「うどん県」ネタを取り上げさせていただいたら、
なんともタイムリーな話題。

(以下引用)
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<おんせん県>大分商標登録に 群馬知事困惑

毎日新聞 11月10日(土)14時1分配信

大分県が10月に「おんせん県」の名称の商標登録を特許庁に申請した。同県は「うどん県」を登録した香川県を参考に今後、全国的にPRしていくというが、認められれば、第三者が名称を勝手に使えなくなる。先手を打たれた形の群馬県からは「温泉は全国各地にある。『他県を敵に回しても』ということなのだろうか」と、温泉ではなく、手法への疑問が湧き出ている。

 大分県内の温泉数は、4538カ所で全国トップ。さらに源泉数、湧出量などでも日本一。同県は今夏から「おんせん県」の名称でPR活動を展開し始め、10月9日には名称の商標登録を出願した。同県観光・地域振興課は「温泉は国内各地にあるため、先を越されると使えなくなる恐れがあり安心して使えるようにと登録を思いついた。香川県の二番煎じといわれるかもしれないが、登録後は県内の温泉旅館など観光施設などに利用を促したい」と、狙いを話す。

 大沢正明知事は、自然湧出量が日本一の草津温泉や水上温泉など全国的にも知名度の高い温泉地を抱えることから「全国一の温泉県」という言葉をたびたび使い、PRしてきた。だが、7日の定例会見で、大分県の申請を知った大沢知事は「頭を切り替え、斬新な考えで臨むしかない」と、戸惑いを隠さなかった。

 「おんせん県」の名称の認可には、5カ月程度かかる見通しで、大分県では来年度から、この名称を使ったPRに本格的に取り組み、国内外に「おんせん県」のイメージの定着を図っていく。


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とりあえず…
×「申請した」     → ○「出願した」
×「…名称の認可には」 → ○「…出願の査定には」
全国紙なんですから、法律用語は正しく使ってくださいな、本当に。。。。


それはさておき。

大分県のスタンス(=先を越されると使えなくなる恐れがあり安心して使えるように…)は、
決して間違っていない。
先願主義だから、まずは出願しておかないことには、指をくわえて見ているしかなくなる。

問題の一つは、この出願の帰趨だ。

指定商品/役務が明らかになっていないので
(本日現在、IPDL(=特許電子図書館))には商標詳細情報は集積されていない。)
仮に
「第44類 入浴施設の提供(42D01)」
が指定されているとして(本当は39,41,43類なんかも指定されている可能性は高いが、話を単純にするため)、
商標「おんせん県」が独占適応性を有するかどうか考えてみる。

指定役務との関係で、「おんせん」の部分は「温泉」のひらがな表記として
きわめて容易に認識される。
そうとすると、「おんせん県」との表記は
“温泉が多数ある、あるいは有名な、県”という、役務の提供場所を普通に表すに過ぎず、
商標法第3条第1項第3号に該当する、と判断される可能性が否定できない。

また、仮に記述的表示との判断にまでは及ばなかったとしても、
温泉施設を有力な観光資源としている都道府県は他にも存在することから、
「おんせん県」の表示をもってしても需要者が何人の業務に係る役務かを
認識できない、として第3条第1項第6号に該当する、との判断もありえる。


そして、上記各条項に該当するか否かの判断時点は「査定審決時」だから、

(1)来年度から本格的にアピールしていく、という大分県の取り組み方は甘いし、
(2)群馬県知事の「頭を切り替え…」というあきらめムードな対応もまだ早い。

むしろ大分県は、「おんせん県」といえば大分県のことを表すものとして
需要者(世の中)には広く認識されている、という状況を、
査定審決時までに作らなければならない。
つまり来年度を待つことなく、いまからガンガンPR活動を行って、
「おんせん県=大分県」であることを示す既成事実を作り上げていく必要がある。

逆に群馬県は、「温泉県」が普通名称ないし品質表示化するように一般化させていく動きを
査定審決時までにシャカリキに行うことで、上記出願が登録されることを回避できる。
もちろん、そうした取り組みの情報提供を行っても良い。


おそらくは、特許庁としてもこのテの出願について
いたずらに秩序を乱すような結論を出すことは回避する可能性が高い、と思われる。
なので、群馬県知事はこの段階でヘンに大人の対応をすべきではない。


もう一つの問題は、プロモーションの巧拙だ。

香川県の事例では、
「水不足でもうどんを茹でることはやめない」などとネット上で揶揄されており、
「うどん県」というのもその揶揄の表現の一つだったところ、
あえてPRに用いた、という開き直りぶりが、ひねりが利いていたのだ。
更に加えて言えば、
「~ それだけじゃない 香川県」というフレーズが、また利いている。
だって、確かに色々あるけど(和三盆とか、うちわとか、手袋とか)、
ま、結局「うどん」だもの。それを自他ともに認めている、というのが良いのだ。

これに対し、「おんせん県」では、特段ひねりもなく、目を引くところもない。
県が一体となった活動を行うというインターナルブランディング的な意味合いでは
悪くはないのだろうが…なんというか、、、ちょっとセンスがない(生意気言ってすみません<(_ _)>)。
あげく、今回のような形でマスコミに取り上げられてしまうと、
PRとしてはちょっと失敗なのではないだろうか??
もし仮に、他にも「りんご県」「みかん県」「たこ焼き府」なんていう
同じような手法のPRが出てきたら、「おんせん県」は確実に埋没する。
だって、温泉は大分に特有ではなく、大分にはほかにも観光資源があるもの。


ともあれ、地域興しに真摯に取り組んでいる、その姿勢は評価したいが…。
コメント (2)
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