弁理士『三色眼鏡』の業務日誌     ~大海原編~

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【著作権法】時事の事件の報道のための利用(「大空と大地の中で」)

2017年08月28日 08時55分46秒 | 実務関係(著作権・価値評価・周辺業務)
おはようございます!
ちょっとネジ巻きなおさないとなぁ、と反省している月曜日の朝です。

週末、ほっとんど何も進まなかった。
昨日は子守だったけど、子供が通っていた幼稚園の夏祭りに顔を出した他は、体を動かせず。。

さて、今日はこんな記事から。

livedoorNEWSより引用)
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遅延機内で熱唱し称賛された松山千春 弁護士が分析する3つの著作権問題

歌手の松山千春さんが8月20日昼、トラブルで遅延した札幌(新千歳)発大阪(伊丹)行き全日空1142便の機内で、自身の代表曲「大空と大地の中で」を歌った。乗客がイライラを募らせる中で、たまたま搭乗していた松山さんが機転を利かせたとして絶賛されている。
…(中略)…
一方で、音楽とはいえ著作物であることには変わりない。アップロードした乗客、松山千春さん、航空会社の三者について、著作権の観点から、どんな分析ができるのだろうか。著作権にくわしい齋藤理央弁護士に聞いた。
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気になったのは、一つ目の指摘(赤字は当職側で彩色しています)。

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●乗客がアップロードすることは?
著作権法で、音楽はどのように保護されているのか。

「著作権法上、音楽は音楽の著作物、歌詞は言語の著作物として保護されます。そのため、著作権者の許可がない限り複製したり、インターネットで配信したり(自動公衆送信といいます)できないことになります。ちなみに、実際に配信しない場合も配信準備のアップロード段階で送信可能化行為として自動公衆送信権を侵害します。

著作物を歌った松山さんにも実演家としての著作隣接権というのが認められます。今回は録音権、録画権、送信可能化権が問題となります。

著作権法上の「複製」には、録画や録音、またその増製(ダビング等)が含まれます。そうすると、動画の無断アップロードは、動画の録音録画をした時点で複製権侵害、録音・録画権侵害となります。またアップロードした時点で複製権、自動公衆送信権(送信可能化権)侵害となるのが原則です。

あとは例外規定を適用して適法となるかどうかが問題となります。今回は歌唱された音楽、歌詞が録画の中心ですので分離できずに録音されてしまった付随的な事物や音にふくまれる著作物(これを付随対象著作物といいます)として利用を適法化するのは難しいのではないかと考えられます」

では今回のケースは違法となってしまうのか。

「現代はSNSなどで一般市民が報道の担い手ともなる時代です。そうすると、偶然乗り合わせた乗客が、時事の事件の報道のための複製(録音・録画)、自動公衆送信(送信可能化)を行っていると判断される場合は、著作権法41条によって録画、アップロードが適法とされる余地が多分にあるでしょう」

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41条(時事の事件の報道のための利用)について、「え、そうなの?ずいぶん踏み込んだ解釈だなぁ」と思ったので調べてみた。

一応、著作権法41条は以下のような規定。
(時事の事件の報道のための利用)
第41条 写真、映画、放送その他の方法によって時事の事件を報道する場合には、当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道に伴って利用することができる。


中山信弘の「著作権法」(有斐閣)によれば、以下の記載が認められる。
「報道の概念については定義がない。従来は、新聞・雑誌・テレビ・ラジオ等のマスコミを念頭に置いていたのであろうが、インターネットの発展により、個人でも事件の報道を行うことが可能になってきた。どこまでを報道と考えるか、という点については判例も学説もなく、今後の課題であろう。」(※但し2007年の初版のものです(第286頁)。これしか手元になく…)

著作権判例百選の「77 時事の事件の報道(バーンズコレクション事件)」において梅田康宏弁護士は解説中で以下の通り述べている。
「著作権法制定時には『報道』とは、報道機関による情報発信を念頭に置いていたと思われるが、ネットの発展により個人が容易に情報発信できる時代となり、『報道』の概念は大きく変わりつつある。ネット上ではSNS、著名ブロガー、まとめサイトなどが情報発信や流通に重要な役割を果たし、報道機関もそれらを網羅的に収集分析して取材や報道に活用するようになってきている。『報道』を情報発信の主体や表現形式で機械的に線引きすることは困難となりつつあり、むしろ報道の自由の保障の下にあるべき表現行為がこぼれ落ちる懸念がある。
 そこで、私見としては、報道の自由の重要性に鑑み、個人情報保護法の適用除外規定や探偵業法の定義規定と同様に、不特定多数の者に対して客観的事実を事実として知らせる行為やこれに基づいて意見または見解を述べる行為であれば、『報道』に該当するといったん広く捉えた上で、権利者の正当な権利を不当に害するような利用行為については『目的上正当な範囲』を超えるものとして処理するのが妥当と解する。」


さて、本件。

まあ、プロの歌手としての男気で、長時間待機を余儀なくされてトゲトゲした機内を和ませるべく、CAのマイクを借りて一節うたった松山千春さんが、動画アップロードについて侵害を追求することは現実にはまあないでしょう
(「ちっ、しかたねーな」くらいは思っているかもしれませんが)。ただまあ、そのあたりの内心の本当のところはわかりません。もしかしたら、「てめーらだけに聴かせるために歌ってやったのにYoutubeに上げるとはどういうことだ!」と憤っているかもしれません。

その意味で、松山千春さんの件は、“権利者の正当な権利を不当に害するような利用行為”にあたるか、という観点から見た場合、実は結構境界事例なのではないかなー、と思います。


立法経緯の観点から見た場合、現行の著作権法は昭和45年法に次々と改正が加えられているもの。
当然LINEもFacebookもYoutubeもInstagramも想定されていない。スマホはおろか携帯電話だってこの世になかった。
乗り合わせた一般の乗客が「報道」をする事態なんて法は予定していなかったはず(このことは上記引用分と同じスタンス)。
少なくとも現行法にいう「報道」は、やっぱり“いわゆる「マスコミ」”を想定したものだと思う。

合目的的に解釈する立場から、CGM(=Youtubeやらブログやら)による発信も本法における「報道」と捉えるアプローチも全くおかしいとは思わないが、
そうすると「報道の目的」とはなんぞや?という疑問にぶち当たる。

もし「報道の目的」が、“こんな面白いことがあったからシェアするよー”ということで「正当な範囲内」とされるのであれば(今回のケースはこれにあたる)、
例えばライブ会場において何等かハプニングやサプライズがあって、それを観客が動画撮影を行いアップロードすることも41条の範囲内と言えてしまう。

つまるところ、
・「報道」を定義するか、
・「報道の目的」を定義するか、
・「正当な範囲」を定義するか、
のいずれかをしないと、個人によるアップロードは事実上何でもOKになってしまう。
だって、個人が世の中の出来事をアップするときの動機って、「面白いからシェア」以外にないでしょ?これは「報道」なのか?あるいは「報道の目的」として正当なのか?
…まあそのあたりを掘り下げだすと、報道機関だって動機は一緒なのかな…?

「社会通念上妥当な範囲」とか色々運用上の線引きはあるけども、もともと定義がなかったから無制限に拡大解釈するというのは、立法者は予定していなかったことではないかと。

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