弁理士『三色眼鏡』の業務日誌     ~大海原編~

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【商標】ティラミスヒーロー

2019年01月22日 08時26分20秒 | 実務関係(商・不)
おはようございます!
気持ちの良い冷え具合の今朝の@湘南地方です。

さて、FBでは先予告していた掲題の件。
ネット界隈では、まあ色々言われているようですね。

[事案の整理]
「瓶入りティラミス」で知られるシンガポールの有名店「The Tiramisu Hero」(=①)。
日本でも催事で過去数年にわたりコツコツとプロモーションを展開していた模様。

ところが、
日本において無関係な別の会社(=②)が商標登録の上つい先日店舗をオープン。

(①Hero Holdings Pte Ltdサイト→こちら
(②HERO's サイト→こちら

なお、②の会社は①の会社がシンガポールで使用している「THE TIRAMISU HERO」のロゴを(ほぼ)そのまま日本で商標登録した模様。
日本で「THE TIRAMISU HERO」を使用できなくなった(現状使用できない)①は、新たに「The tiramisu Star」として日本での販売を継続。


[ネット界隈の声(まとめサイトより)]
“有名人起用して海外ならバレないでしょって本家に結局名前やロゴ消しさせて潰してく手口が酷過ぎる…。 ”
“でもこういうのって気付かない人の方が多かったりどうでもいいわって人もいるしやったモン勝ちなのが悲しい。 ”

 ※その他、他社の看板商品についても②の会社が出願している、という指摘もあり。

[所感]
1.まず、良くも悪くも、CGM全開!な時代だなぁ、と思います。
 情報は出し手と受け手が相互に入れ替わって拡散していくので、それを踏まえた発信の仕方をしないといけない。
 加えてこの時代は、事業活動の「ログ」も蓄積されていき、誰でも自由に閲覧できるということを念頭においておくべき。
 ほんの数年前なら、知財に関係のない人がJ-Platpatを使って出願情報を検索するなんてありえなかったことで。
 でも今は、少し使い方を憶えればこの程度のことなら検索できてしまう(一般の方が検索という行為に大いに親しんでいるという背景もある)。

 隠し事はできない。「悪事千里を走る」なんて諺があるけど、今なら千里どころか一瞬で地球の裏側まで飛んで行ってしまう。
 ついでに過去のことまで引っ張り出されて晒されてしまう。怖い時代です。
 
2.で、②の一連の行為が「悪事」なのか?という点。
 …まあ、商売上お客さんにそっぽ向かれたらダメなお仕事でこうなっちゃ、「悪事」かどうかはさておき「悪手」なのは間違いない。
 “違法な行為は何もありませんでした”っていっても、どこかの地方アイドルの運営みたい。

 ただ、「悪手」という点でいえば、“①が日本で出願をしておかなかったこと”も十分「悪手」。
 情緒的には「盗んだ人」と「盗まれた人」とがいて「盗まれた人」を責める人はいない(むしろこぞって盗人を叩く)というのはよくあることだけど、
 顧客を惹きつけるブランドでありながら権利保護を図らないという「不作為」は、
 なんなら自宅の鍵をかけないままにしておくばかりか開けっぱなしにして中にお宝があることを開陳した状態のようなもののわけです。

 だからって勝手に入って盗んじゃだめよ、というのはそうだけど、盗まれた人が悪くないかというと…どうなんでしょうね?
 どっちも「ルール」なり「セオリー」なりを踏襲していない、という点では大差ない、というと言い過ぎでしょうかね。

 たぶん、適法かそうでないか、という点に、世間はそれほど関心はないよな、と。
 「パクる」なんて最低!というところで思考停止しちゃうならそれ以上言を重ねても届かないだろうし。
 実際問題として、②は日本でロゴを商標登録しているけれど、一方で著作物性もあるロゴだと思われるので商標法第29条の規定に基づいて使用はできないと思います。
 で、使用できなければ結局不使用で取消され得るかなぁ、と。
 あと、①は異議期間になぜ異議申立てしてなかったのかなぁ、とか。
 ※改名した「ティラミススター」について、①は2018年10月に出願しています。つまり自社のロゴが勝手に登録されていたことを遅くともこの時点では知っていたわけで、この段階で打てる手段はまだあったことになります。

3.結果、②の会社は、今回の“やり過ぎ”な行為でレピュテーションを大いに下げ、一方①の会社は自社ブランドを一部棄損されたものの需要者のシンパシーを得ることができた、ということになります。適法/違法とは無関係な文脈で救済される状況が、社会の自浄作用とみるべきなのか、それとも群集心理とみるべきなのか、一弁理士としては判然としません。①の会社が国内の会社ではないことも今回の経緯には少なからず影響していることも理解します。ただ、

「大事なものなら、ちゃんとまっとうな手段で守ろうよ」

というのが、知財サイドからの目線ではあります。
議論百出な話題だとは思いますが、今日はこの辺で。

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