2023年4月の起訴時に罪状認否に臨むトランプ前大統領=AP
トランプ前米大統領が不倫の口止め料を不正処理したとされる事件の初公判が15日、始まる。
米大統領の経験者で初めて、刑事事件の被告人として法廷に立つ。他にも3つの刑事裁判を抱えており、11月の大統領選に向けて訴訟は重荷になる。
公判は東部ニューヨーク州の裁判所で15日午前(日本時間15日夜)に始まる。
今回の事件は、トランプ氏が当選した2016年大統領選の直前に、不倫関係にあったポルノ女優に交際の事実を公表しないよう口止め料を支払ったことなどが問題になっている。
自身が経営するトランプ・オーガニゼーションの弁護士を通じ13万ドル(約2000万円)を渡した。口止め料を払うこと自体は違法ではないが、トランプ氏は「弁護士費用」と計上した。
州地検は「自身の選挙に悪影響を与える情報を隠す意図」で虚偽の情報を事業記録に記したと指摘している。
選挙法や税法にも抵触したとして、州刑法の「第1級事業記録改ざん罪」に当たると主張する。1年以上の懲役刑もあり得る「重罪」だ。
トランプ氏は23年4月に起訴された際、34件の罪状すべてを否認し、無罪を主張した。女優と不倫関係があったことも否定している。
15日の公判ではニューヨーク市民から陪審員を選ぶ。陪審員の選定には数週間かかる場合もある。
公判は1カ月半〜2カ月続く見通しだ。トランプ氏は民主党支持者が多い同市の市民が陪審員になるのは不公平だと批判している。
金融犯罪に詳しいニューヨーク市立大学のデービッド・シャピーロ特別講師は、検察がトランプ氏の財務記録の改ざんだけでなく選挙法や税法での違反も立証できるかが、罪の認定のカギになると分析する。
仮に有罪判決が出ても「初犯のため、ほとんどの場合に執行猶予がつく」と予想する。
有罪の場合、他の訴訟で不利に働く可能性があると指摘する。
トランプ氏は、21年1月の支持者らによる連邦議会の占拠を扇動したとされる事件や、南部フロリダ州の邸宅に機密文書を不正に保管していた事件などほかに3件の刑事裁判を抱えている。
シャピーロ氏は、口止め料訴訟で問われる罪は他の事件に比べて軽微だが「前科が付けば初犯という『メリット』がなくなり、信用を損なう」と分析する。
有罪になっても大統領選への出馬は可能との見方が大勢だ。米憲法は大統領選に立候補する条件を米国生まれ、35歳以上、米在住14年以上と定める。
それでも選挙戦と同時進行する4つの裁判はトランプ氏の重荷となる。
一つ目は訴訟に関わる莫大なコストだ。トランプ氏はこれまでに集めた政治献金のうち、少なくとも5300万ドルを裁判関連費用に回した。
トランプ氏が抱えるのは刑事裁判だけではない。直近には、一族企業の金融詐欺に関する民事訴訟で敗訴し、控訴に向けた保証金として1億7500万ドルを支払った。
1月には作家のジーン・キャロル氏に対する性的暴行を否定し、名誉を毀損したとして懲罰的な損害賠償を含む8330万ドルの支払いを命じられた。
裁判に時間を割かれるのも痛手となる。今回、トランプ氏はニューヨーク州裁判所に出廷する。
大統領選では支持拡大に向け、選挙運動で全米を行脚する必要があるが、公判が本格化すると出廷を求められる機会が増える。
訴訟の行方が、支持率に響く可能性もある。
ロイター通信などが4月に実施した世論調査では、口止め料訴訟の起訴内容を「深刻だ」と捉えている有権者は6割に達した。熱狂的な岩盤支持層は裁判を気にかけていないが、共和党の穏健層や無党派層が離れるリスクがある。
南部ジョージア州当局に圧力をかけて投票結果を改ざんしようとした事件や議会占拠事件は7割を超える有権者が深刻だと考えている。
大統領選の勝敗はわずかな票差で決着する激戦州が左右する。トランプ氏にとっては選挙運動に割けるお金や時間が減ったり有権者の心証が悪くなったりして1ポイントでも得票率が下がれば、選挙結果に直結しかねない。
トランプ陣営は、選挙戦への影響をできるだけ小さくするため、証拠を精査する時間を追加で求めるなどして公判の開始を遅らせる戦術をとってきた。
今回の訴訟以外の3件の裁判は初公判の日程が確定していない。口止め料訴訟についても、今後トランプ陣営の様々な引き延ばし戦術が予想され、大統領選の前に判決が出るかは不透明だ。
(ニューヨーク=弓真名、朝田賢治)
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日経記事2024/04.15より引用