共和党党大会で副大統領候補に指名されたJ・D・バンス上院議員=ロイター
16日の米株式相場は大幅上昇。ダウ平均は前日比742ドル高で終わった。
9月の利下げ観測と景気軟着陸期待を背景に買いが入った。市場ではトランプ前大統領の政権への返り咲きへの期待から「トランプ・トレード」に引き続き市場の関心が向かう。
同時にこのほど副大統領候補に正式に指名されたJ・D・バンス上院議員を巡る資本市場の先行きにも注目が集まっている。
「トランプ・バンスは勝利の響き」。テスラ創業者のイーロン・マスク氏は自身の会社Xのサイトで大統領選での両候補指名を歓迎するコメントを投稿した。マスク氏はトランプ氏を支援する政治団体に毎月4500万ドル(約71億円)程度の献金を計画しているとのメディア報道も話題になり、副大統領候補の正式指名で本格的にトランプ政権の誕生を支持する構えだ。
著名ベンチャー投資家ピーター・ティール氏もトランプ支持者であると同時に、バンス氏へも上院議員選挙などで資金を支援。
バンス氏が社長を務めたベンチャー投資会社もティール氏所有だった。同じく有力ベンチャー投資家のデビッド・サックス氏は共和党党大会で演説をし、トランプ・バンスのコンビをたたえた。
マスク、ティール、サックスの各氏に共通するのは支払い決済大手ペイパルの創業や初期の運営に携わったという点だ。
創業者のティール氏を中核にした元ペイパル社員はその後多数のベンチャー起業家として業界をリードし、「ペイパル・マフィア」と呼ばれるようになった。
米メディアによると、米大統領選で元ベンチャー投資家が候補になるのは、2012年の選挙でオバマ大統領に敗れたミット・ロムニー氏以来という。市場関係者の間ではバンス氏が副大統領になることで米企業にどんな影響を及ぼすかに関心が集まっている。
興味深いのはバンス氏がグーグルやアマゾン・ドット・コムといったビッグテックと呼ばれる企業に必ずしも甘いわけではないということだ。
米連邦取引委員会(FTC)委員長のリナ・カーン氏を支持する発言をしたことは、それを反映する。カーン氏はバイデン政権が任命し、「反トラスト強硬派」で知られる。
昨年秋には反トラスト法違反でアマゾンを提訴した。バンス氏は巨大テック企業の解体を目指すカーン氏について「バイデン政権の中でも優れた仕事をする数少ない人材の1人」と発言している。
自由競争、規制緩和を標榜するトランプ氏の政策とバンス氏の姿勢がどう調和するのか。もっともバンス氏は時と場合によって日和見的な立場を見せることでも有名だ。今後、立場を変える可能性は十分ある。
同氏のベストセラー著書「ヒルビリー・エレジー」の中に面白いエピソードがある。バンス氏が育ったオハイオ州のミドルタウンという町は、アームコという製鉄所を中心に栄えた企業城下町だったが、グローバル化の波で衰退した。
アームコの生き残りに貢献したのは1989年の当時の川崎製鉄(現JFEスチール)との提携だ。バンス氏は「競争力を失った米製造業生き残りのために事業構築のチャンスを川鉄が与えてくれた」と述懐している。
しかし、現在進行中の日本製鉄によるUSスチールの買収には反対の立場をとる。一筋縄ではいかない思想・政策を持つバンス副大統領候補の発言はしばらく市場関係者にとって最大の関心事になりそうだ。
(ニューヨーク=伴百江)
日経記事2024.07.17より引用