岩屋外相㊨は、欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表と初の日EU外相戦略対話を開いた
(1日、都内)
日本と欧州連合(EU)は1日、インド太平洋地域で初の安全保障・防衛のパートナーシップを結んだ。アジアと欧州の安保が「不可分」と定義し、サイバーや防衛装備の分野などで協力を広げる。
ロシアや中国、北朝鮮が軍事や経済安全保障でつながりを深める動きを共通のリスクとみて対応する。
岩屋毅外相とEUのボレル外交安全保障上級代表が1日、都内で初めて外相戦略対話を開いた。日本とEUは経済連携協定(EPA)を締結するなど経済面の協力が先行しているが、安保環境の変化を受けて連携の幅を安保まで広げる。
岩屋氏は共同記者発表で「安保、防衛に関するあらゆる分野での対話と協力をさらに発展したい」と強調した。ボレル氏は戦略対話の冒頭で「ウクライナで起きたことが台湾に影響を与える、その逆もしかりだ。政治、経済、安保の変化は国境にとどまらないからこそ、この会合が非常に重要だ」と語った。
日本が対中国、EUが対ロシアで積み上げてきた外交・安保上の知見を生かして相乗効果を狙う。EUの欧州委員会はロシアによるウクライナ侵略を機に、年内発足を目指す新執行部で防衛担当の欧州委員を任命するなど安保にも比重を置き始めている。
新たな枠組みに基づく具体的な協力案件として、民間企業などが防衛装備品の共同研究・開発に取り組みやすくなるように環境整備を進める。EUが日欧企業の共同プロジェクトに資金提供することを想定する。
日本企業にとっては、欧州との協働によって研究開発費を減らしたり、技術レベルを向上させたりする効果を見込める。欧州の同志国に装備品を販路拡大できる利点もある。EU側は日本企業が持つ専門技術の習得に期待する。
ウクライナ侵略後に世界でミサイルなどの装備品不足が深刻になった。日本と欧州がともに開発に関わった装備品が増えれば供給不足を補うこともできる。英国はEUに加盟していないが、日英イタリアで次期戦闘機の共同開発も進んでいる。
新たな安保上の課題であるサイバーや偽情報対策でも連携する。EUはロシアから、日本は中国や北朝鮮発のサイバー攻撃や偽情報への対応に日々追われている。双方でどのような事案が起こったのか情報を共有し対処法に生かす。
海洋安保分野はアフリカ、中東地域での海賊対処で共同訓練を促進する。フランスやドイツなどはインド太平洋地域に軍の艦艇を送るなど、部隊間の共同訓練も増えている。
日本は同盟国の米国、英国、オーストラリアなど「準同盟」と呼ばれる国に続き、EU加盟の欧州諸国との関係を重視する。10月には北大西洋条約機構(NATO)の国防相会合にも日本が初めて参加したばかりだ。
欧州諸国は近年、インド太平洋地域の安保環境にも関心を強めている。中国が新型コロナウイルスの感染拡大時に重要物資のサプライチェーン(供給網)を寸断させる威圧的な行動をしたことで対中国への懸念を深めたのがきっかけだ。
中国の軍事力が米国に次ぐ規模になり、サイバーや宇宙、人工知能(AI)などの新たな領域で能力を集中的に高めていることも背景にある。
EUは21年4月にインド太平洋地域での協力のための戦略を採択し、同地域との連携を目指し動いてきた。
アジアと欧州の安保が直接結びつく事例が増えてきた。北朝鮮はロシアとの相互の軍事支援に向けた条約を結び、ロシアに多数の兵士を派遣した。
ウクライナ侵略への関与も指摘されている。
北朝鮮はロシアに対して砲弾や弾道ミサイルなどの武器を提供してきた。ロシアはその見返りとして北朝鮮に対する戦術や技術での協力を進めているとみられる。
EU高官は「北朝鮮によるロシア支援が示すように、欧州とインド太平洋の安保は密接に関わっている」と語る。
EUは経済の枠組みから安保分野での協力に発展する途上にある。日本もウクライナ情勢など地域の安定に向け、米欧と足並みをそろえて対応する。(馬場加奈、ブリュッセル=辻隆史)
日経記事2024.11.01より引用