原子力発電の燃料となるウランの国際価格に再び上昇圧力が強まってきた。ロシアが濃縮ウランの対米輸出の一時制限に踏み切ったことがきっかけだ。
人工知能(AI)など電力を大量消費する技術の普及などを背景に原発が再注目され、需要が高まりつつあることも重なり、需給逼迫のリスクが意識されている。
ロシア政府は15日、公式ホームページ上で濃縮ウランの米国への輸出に一時的な制限を導入したと公表した。
「米国が導入したロシア産のウランの輸入禁止法に対抗しプーチン大統領の指示で実施された」とした。プーチン大統領は9月にニッケルやチタンと共にウランの輸出制限の可能性に初めて言及していた。
ウラン調査会社のUxCによると、指標となる「ウラン精鉱」のスポット(随時契約)価格は11月15日に一時1ポンド83ドルと週初比で8%上昇した。
米国はロシア産ウランの輸入禁止法を5月に成立させ、8月から発効していた。もっともロシアは濃縮ウランの生産能力で世界シェアの約4割を握り、即時発効は米国内の原子力産業に悪影響を及ぼしかねない。
23年12月の米国下院報告書によると米国は濃縮ウランの20%以上をロシアからの輸入に頼る。
そこで米国は28年1月まで猶予期間を設け、特別に輸入を許可。猶予期間中に濃縮ウランの「脱ロシア」を進める計画だった。
ロイター通信によると、ロシア国営の原子力企業のロスアトムは18日、全ての顧客に通常通りウランを供給しており、米国への供給は特別な免除措置を受けた上で、引き続き行われる可能性があると表明した。
ただロシア当局による免除措置が続くかは不透明感が強い。
米国のウラン濃縮サービス企業のセントラス・エナジーは18日、米国証券取引委員会(SEC)に対し、濃縮ウランの供給元であるロスアトム子会社が「ロシア当局からの輸出許可を取り消され、許可を再取得する必要が生じた」とする臨時報告書を出した。
セントラスは米国だけでなく、日本も含めた海外の需要家向けにもロシア産の濃縮ウランを再輸出している。
UxCのジョナサン・ヒンズ社長は「セントラスがロシアと米国の両方の免除措置を得ることができなければ、将来の引き渡しができなくなる。
ロシアから米国への供給が大幅に減少すれば、短期的に供給不足が生じることは確実で価格上昇圧力がかかる」と指摘する。
一部の米国の電力会社は、ロシア以外からの供給に頼る可能性があり、市場の需給に影響を与えやすい。
ウラン精鉱のスポット価格はロシアが輸出制限を公表した直後に急騰した後、25日時点では77ドル台に戻した。
年初に1ポンド106ドルと07年以来の高値に上昇した時点からは2割程度低く、市場は落ち着いているようにも見える。
ただ、ウラン市場の指標である精鉱以外の価格に目を向けると様相が大きく異なる。
ウランは原発で使われるまでに化合物への転換や濃縮といった工程をたどる。
転換(六フッ化ウラン)や濃縮ウランは精鉱よりもロシア産のシェアが高い。転換はウクライナ戦争開始直前の22年初比で5.4倍、濃縮は3.1倍と精鉱(1.8倍)に比べ大きく上昇している。
後工程の価格高騰は最終的に原料のウラン(精鉱)の需要増加につながり、価格を押し上げる可能性がある。
海外電力調査会の鍋島正人上席研究員は「輸出制限が長引けば、スポット価格は年初の1ポンド100ドル超の高値を上回るリスクがある」と警戒する。
今回の輸出規制が即座に原発の発電コスト高や燃料不足につながるわけではない。
「燃料費が原発コストに占める割合は約2割と天然ガスや石炭など火力発電の6〜8割と比べて低い」(鍋島氏)ほか、ウラン燃料は一度入れたら頻繁に替える必要がないためだ。
電力会社の多くは必要なウラン燃料の調達を長期契約へシフトしている。
ただ長期契約の価格は上昇傾向で、今後スポット価格が急騰すれば長期契約も一段高となる可能性がある。
原発は電力需要の拡大のほか気候の影響が少ない安定電源として世界で再評価が進んでいる。
今回のロシアによる規制は米国で原発の再稼働計画が立ち上がりつつあった矢先に起こった。
米国はインフレ抑制法(IRA)を通じ米国内の濃縮工場の新設などに27億ドルを拠出する。ロシアへの依存を減らすのが狙いだ。
(浜美佐)
報道陣に公開された準天頂衛星「みちびき」6号機(27日、神奈川県鎌倉市)
三菱電機などは27日、同社の鎌倉製作所(神奈川県鎌倉市)で日本版全地球測位システム(GPS)を担う準天頂衛星「みちびき」の6号機を報道陣に公開した。
米国の測位システムに依存しなくて済むように、2026年度にも7機体制の運用が始まる。
みちびきは内閣府が運用する測位衛星で、三菱電機が初号機から開発を担当している。
5〜7号機の開発費は計約1000億円。運用中の4機の設計をベースに、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が新たに開発したシステムを搭載して性能向上を図っている。
6号機は24年度内に、5、7号機は25年度に国の大型基幹ロケット「H3」でそれぞれ打ち上げられる予定だ。
みちびきは18年に現在の4機体制での運用が始まった。日本の上空に常に1機が存在する状態で、日本列島とオーストラリア大陸の上空を8の字軌道で周回している。
GPSを補う信号を出しており、GPSと併用することで、約10メートルあった位置情報の誤差を最小約6センチメートルに抑えられる。
7機体制になると、みちびきだけで安定した高精度な測位が実現できる。車の自動走行や農機の遠隔制御、災害時の安否確認といった幅広い分野で活用が期待されている。
三菱電機宇宙システム事業部の市川卓事業部長は「活動分野の広がりも見据えて、利用方法の開拓や拡大を支援したい」と話した。
みちびきは30年代後半に11機体制まで拡充される計画で、測位精度の向上や利用可能な地域の拡大、バックアップ機能の強化を図る。
内閣府宇宙開発戦略推進事務局の三上建治・準天頂衛星システム戦略室長は「みちびきは国民の日常に溶け込んでいるサービスで、しっかりと整備していきたい」と話した。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が手掛ける大型ロケット「H2A」や新型ロケット「H3」、イーロン・マスク氏が率いるスペースXなど、世界中で官民が宇宙開発競争を繰り広げています。
ロケット開発や実験、衛星など最新ニュースをまとめました。
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日経記事2024.11.27より引用