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上場企業が一転最高益 25年3月期、金利上昇で金融好調

2024-11-24 12:10:43 | 日本経済・金融・給料・年金制度


2025年3月期は非製造業が企業業績をけん引する(東京証券取引所)

 

上場企業の2025年3月期の純利益は前期比2%増となる見通しだ。8月時点の1%減益予想から上振れし、一転して4年連続で最高益となる。

金利上昇が追い風となる金融で上方修正する動きが相次ぎ、全体を押し上げた。他の非製造業も堅調だ。半面、企業からはトランプ次期米政権の経済政策を見極めたいとの声が聞かれ、先行きはなお不透明だ。

 

日本経済新聞が東証プライム市場に上場する3月期企業約1000社(親子上場の子会社など除く)の業績予想を集計した。会社予想がない場合は市場予想を使った。

今期の純利益(2%増の約47兆円)は前期の20%増から伸び率が縮むものの、5年連続で増益となる。

 

21年3月期に新型コロナウイルス禍による落ち込みから復調して以降、改善が続く。今期は円高進行を警戒する企業が多く、期初時点では2%減益予想だったが、8月時点で1%減益、今回で増益転換と上振れしてきた。

 

 

 

今期予想が上振れした要因は金融の好調だ。金融の上方修正額は8056億円と4〜9月期決算時としては08年の金融危機以降で最高となり、全体の上方修正額(1兆8905億円)の4割を占めた。

金利上昇や少額投資非課税制度(NISA)を追い風に業績を伸ばす企業が目立つ。

 

三菱UFJフィナンシャル・グループは今期の純利益見通しを前期比17%増の1兆7500億円と、2500億円上方修正した。

2年連続で最高益となる。国内金利の上昇による利ざや改善や政策保有株の売却加速が寄与する。

 

SOMPOホールディングスは今期に政策保有株を2000億円売却する方針だったが、4000億円に倍増させる。政策保有株の売却益などにより、今期の純利益見通しを従来予想から1700億円引き上げた。

 

 

 

上場企業の今期予想を製造業と非製造業で分けると、けん引するのは非製造業だ。

純利益は前期比10%増と5年連続で増える。19業種中、7割に当たる13業種が増益を見込む。銀行(22%増)や保険(24%増)、証券(33%増)などの金融のほか、海運(60%増)や建設(12%増)などが堅調だ。

 

海運は大手3社が共同出資するコンテナ船会社「オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)」の収益が伸びる。

中東情勢の緊張でコンテナ船運賃が上昇しているためで、大手3社の純利益合計は前期比64%増となる見通しだ。

 

建設は再開発や設備投資など旺盛な需要を背景に採算が上向く。受注時の採算確保を徹底するほか、人手不足や物価高で上昇するコストの価格転嫁を進める。清水建設の純利益は3.5倍に拡大する見込みだ。

一方、利益全体の5割弱を占める製造業は苦戦が続く。今期は5%減と2年ぶりの減益となる見通しだ。17業種中、8業種が減益を見込む。

 

不振が鮮明なのが自動車(26%減)だ。前期と比べた減益額は2兆748億円と、製造業全体の減益額(1兆2099億円)よりも大きい。

主戦場である中国や米国で採算が悪化し、円安効果で補えない。ホンダは純利益予想を500億円引き下げ、前期比14%減の9500億円とした。

 

鉄鋼も31%減益と振るわない。中国で余った鋼材が周辺地域に流れ込み、あおりを受けて採算が悪化している。日本製鉄JFEホールディングスの2社が今期の純利益見通しを下方修正した。

 

 


22日までに上場企業の決算発表がほぼ出そろった(東京証券取引所=共同)

 

 

企業の先行きへの警戒感は強い。全体の通期予想から24年4〜9月期(上期)実績を差し引いて24年10月〜25年3月期(下期)予想を求めると、下期は前年同期比11%減益となる計算だ。上期実績(15%増)から急ブレーキがかかる。

懸念材料の一つは米国経済の動向だ。ソニーグループの十時裕樹社長はドナルド・トランプ氏が次期米大統領に決まったことについて、「米国が世界経済に与える影響は非常に大きい。

 

地政学の影響も大きく、ビジネスに関連してくる」と注視する。仮に新政権下で輸入品の関税が引き上げられれば、輸出企業にとってコスト増となり業績を下押ししかねない。

 

 

 

日本郵船は上期決算が好調だったが、25年3月期の純利益予想を据え置いた。曽我貴也社長は「米政権の行方など変動要素があることを踏まえて保守的にみた」と話す。

中国の事業環境もなお不透明だ。自動車部品大手のアイシンは今期の顧客自動車メーカーの生産台数について「中国市場のリスクを踏まえ保守的に考えている」とする。

 

半面、米中経済や市場環境が変調しなければ、企業業績はもう一段上振れする余地も残る。

野村証券の北岡智哉チーフ・エクイティ・ストラテジストは「為替相場は企業の為替前提よりも円安で進むのではないか」と話す。足元の為替相場は1ドル=154円前後と139円台を付けた9月半ばよりも円安で推移する。

 

企業業績の動向は伸び悩む日本株や来春の賃上げにも影響する。企業が経営環境の変化を捉え、事業再編やM&A(合併・買収)など機動的に経営判断できるかが注目される。

(久世真由美)

 
 
 
 

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

 

 

 

 

 

田中道昭のアバター
田中道昭
立教大学ビジネススクール 教授
 
ひとこと解説

日本企業の純利益は増益予想へ転じましたが、米国企業との対比では課題が鮮明になっています。

米国では高金利下、AI、再生可能エネルギーといった成長分野への集中投資が奏功し、企業価値が中長期的に向上しています。

一方で日本は、金融セクターの一時的な収益や政策保有株売却益が主な牽引役で、製造業の競争力低下が目立っています。

トランプ次期政権の通商政策や地政学リスクが輸出産業全体に新たな圧力をかける可能性が高く、企業には収益多様化やサプライチェーン再構築が急務です。

両者のギャップ縮小には、日本企業も 金利が上がっていく中、金融依存ではなく、成長分野への投資加速でのイノベーション実現が必要だと思います。

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