22日、米フロリダ州で会談したトランプ次期米大統領㊧とルッテNATO事務総長=NATO提供
【ウィーン=田中孝幸】
トランプ次期米大統領は22日、米欧の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長と米フロリダ州で会い、安全保障問題について協議した。
ルッテ氏はトランプ氏が国家安全保障担当の大統領補佐官に指名したウォルツ下院議員らトランプ陣営の幹部とも会談した。
トランプ氏は14日に同州の邸宅でアルゼンチンのミレイ大統領と非公式に面会して以降、法的な制限を理由に外国の首脳や要人と来年1月の就任前には会わない姿勢を示してきた。
それだけに、今回の会談はルッテ氏が持つ特別な関係を印象づけた。
NATOの23日の発表によると、トランプ氏とルッテ氏は会談で「同盟が直面している世界的な安保問題」について協議した。会談時間の長さや議題などの詳細は明らかになっていない。
ルッテ氏は7日、記者団に近くトランプ氏と対応を協議したい脅威として「ロシア、北朝鮮、イランそして中国のウクライナ問題におけるロシアとの連携」と列挙した。会談ではロシアのウクライナ侵略や緊張が高まる中東情勢などで意見交換したとみられる。
トランプ氏は第1期政権時から、欧州の加盟国が防衛費を十分に負担していないとしてNATOを批判してきた。
今年2月には「防衛費を十分に負担しない加盟国にはロシアの好きなように侵攻させる」と在任中に欧州首脳に語ったと明らかにした。
事務総長として加盟国間の調整役を担うルッテ氏は、米国と他のメンバー国の防衛費負担の協議が激しくなる前にトランプ氏と会って、妥協点への道筋を探ろうとしたとの見方も浮上する。
トランプ氏が早期停戦を掲げるウクライナ戦争でも、ロシアに安易な妥協をしないようトランプ陣営に最新情勢を説明した公算が大きい。
ウクライナ問題では22日、トランプ氏がNATO懐疑派のグレネル元国家情報長官代行を担当特使に充てると報じられ、欧州各国に懸念が広がっていた。
欧州の伝統的な中道勢力の一員であるルッテ氏の政治的立場は、米国の強硬な保守層を支持基盤にするトランプ氏とはやや異なる。
それでも大統領選後に初となる欧州要人とトランプ氏の会談が実現した背景には、オランダ首相として連立政権を約14年率いたルッテ氏の高い調整力と、トランプ氏との個人的な人脈がある。
ルッテ氏はトランプ政権の1期目、NATO内でトランプ氏と欧州主要国の仲立ち役を幾度も演じ、「トランプ氏のささやき役」との異名を取っていた。
2018年7月のNATO首脳会議ではトランプ氏の国防費増額要求にドイツやフランスの首脳が強く反発して緊張が高まる中、トランプ氏の顔を立てる発言をして同氏を満足させ、その場をおさめたこともある。
こうした経緯もあり、トランプ氏はルッテ氏への好意を隠さないようになった。トランプ氏の扱いにたけていて、政策面では原則を曲げてすり寄らないルッテ氏への欧州主要国の期待は高い。
イタリア外務省の元高官は「トランプ氏の猛獣使いは、プライドが高い独仏首脳にはできない役割だ。
こうした難しい芸当ができたのは、第1期政権でトランプ氏と仲良くなりつつ、外交面で時にリードした安倍晋三首相(当時)しかいなかった」と語る。
日経記事2024.11.22より引用