晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

マイケル・オンダーチェ 『イギリス人の患者』

2009-07-07 | 海外作家 ア
「イギリス人の患者」はブッカー賞受賞作品で、映画化されて
アカデミー賞9部門を受賞するという快挙を成し遂げました。
映画のタイトルは本作の原題「The English Patient」で、小説
のほうもできれば原題カタカナ表記のほうがしっくりくるのにな
あ、なんて思ったものです。なんだか「イギリス人の患者」だと
小説のタイトルとして雑な感じがするんですよね。

第2次世界大戦中、カナダ出身のハナはイタリアで看護婦と
して来る日も来る日も負傷兵の治療にあたり、絶望感に打ち
ひしがれます。そんな中、北アフリカの砂漠で飛行機の墜落
で瀕死の重傷を負った男が運び込まれてきます。
ハナの勤める病院も危険が迫り、みんな移動しますが、この
イギリス人と思われる患者は移動が困難ということで、ハナは
廃墟を病院がわりにして男の治療に努めます。
ほかにも、ハナの父親の友人で泥棒のカラバッジョ、インド出身
で爆弾処理の工作員キップもいて、4人で共同生活をします。

このイギリス人と思われる患者は、ほんとうにイギリス人なのか、
彼がなぜ砂漠で飛行機に乗って墜落し、イタリアまで運ばれてき
たのか、時間をさかのぼって描かれてゆきます。
カラバッジョとキップ、そしてハナも廃墟に来るまでの経緯が描か
れております。

物語性というよりは、幾編もの詩を紡ぎ合わせて小説に仕立て
あげたような作品。
4人それぞれの過去、そして廃墟での毎日、読むうちに不思議と
文中の世界観に誘われ、街外れの小さなカフェテアトロで退廃的
な雰囲気を醸し出す演劇を観ているような錯覚にとらわれてしまう、
そんな印象が残りました。

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エリエット・アベカシス 『黄金と灰』

2009-06-10 | 海外作家 ア
読書が趣味という人の大半は、仕事や家事の合い間や休日に、
あるいは就寝前の1時間くらい本を読んでいるわけで、ある種の
息抜きタイムにもなるので、小難しい文章を並べ立てられている
ようなものはなるべく避けたい(時間が有り余ってる学生はせい
ぜい小難しい作品でも読んで苦悶すればいい)のではないでしょ
うか。

この『黄金と灰』という作品、テーマがユダヤ人の贖罪、悪とは、
絶対悪とは何か。そして、作者が二十代にして教授資格所有者
のせいか翻訳者のせいか、文章が小難しい。
「形而上学的の視点」がどうのこうのと、論文を読んでいるようで、
息抜きどころか、ちょっとした学術研究です。

ドイツ人の神学者で歴史学者のルドルフ・シラーが、上半身と下
半身を切断された状態で発見され、上半身は見つからず。
フランスの歴史学者ラファエルは記者で友人のフェリックスとこの
事件の真相を探そうとします。
生前のシラーと親交のあったパリ在住のユダヤ人ぺルルマン家
を訪ね、ラファエルはぺルルマン家の娘リザに好意を持ちます。

シラー殺しとして、はじめはリザの兄が疑われ、やがてリザの元
恋人が逮捕されます。
ラファエルとフェリックスは別に真犯人がいると確信し、ある映像
に残っていた、かつてナチス親衛隊が書いたとされる手帳にその
真相の鍵が握られていると思い、探すのですが見つかりません。
第2次大戦時のフランスの政権、ナチスドイツ、アウシュビッツ収
容所、これらがシラー殺害に絡んでくるのですが・・・

文中、物語の進行の腰を折るように、ラファエルの妄想というか、
抽象的な心理描写があるのですが、正直息苦しさを覚えました。
それはあまりに抽象的で、ユダヤの受難を憂うかと思えばヘビが
自分を睨んで云々。

「悪の起源」とは、そしてシラー殺害の犯人は。
そういえば、ある女優さんが映画の舞台挨拶でふてぶてしい態度
でバッシングされ、後日テレビで涙の謝罪をするというのがあった
のですが、その時その女優さんは「諸悪の根源は私にあります」
といいました。
ユダヤ受難の歴史もコソボ紛争もクルド人難民問題もあんたのせ
いかよ、とひとりテレビに向かってツッコミ入れた記憶があります。

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カズオ イシグロ 『わたしを離さないで』

2009-05-21 | 海外作家 ア
イギリス文学界の最高峰の賞のひとつであるブッカー賞を
受賞した作家ということであれば、さぞかし面白いだろうな
あ、という単純な想像をしてしまうのですが、カズオ・イシグ
ロはまだ読んでおらず、ブッカー賞受賞作『日の名残り』は
映画だかドラマだかを以前テレビで見ただけ。

表紙デザインのカセットテープがまずインパクト大(文庫は
わかりませんが)。そして物語の内容なのですが、序盤部
分から謎めいた世界観。登場人物のキャシーという女性が
介護職なのはわかるのですが、その介護される対象はとい
うと「提供者」という表現をされていて、なにを提供してなに
を介護するのか。

そして話は、キャシーの子ども時代になり、同年代の子ども
達が住む施設での友情や暮らしが描かれます。
そして、彼ら彼女らの残酷ともいえる運命が待ち受けている
のですが、ちょっと残酷なのかなと思うのですが、文章があま
りにも淡々と流れるように進み、だんだんとその世界観も露わ
になってきます。

完璧なサイエンス・フィクションということでもなく、かといって
完全なアナザー・ワールドでのお話でもなく、今の現実の世
の中がそれこそ指1本分だけ横にずれていたらこうなっていた
かもしれない、といった世界。

なんだか読んでいる最中、ずっと曇り空の中を歩いていた、と
いったような感覚になりました。かといってそれが不快でもな
かったんですけど。
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ジェフリー・アーチャー 『めざせダウニング街10番地』

2009-05-04 | 海外作家 ア
著者のジェフリー・アーチャーは自身、英国国会議員経験があり、政治
の内実に詳しく、たびたび登場人物で「政治家」の信念、「政治屋」の
陰謀などが描かれており、その対峙が読むものを退屈させなかったり
するのですが、『めざせダウニング街10番地』は、日本でいうところの
総理官邸、ここを目指す3人の同期の国会議員という話。

貴族階級出身、中流階級で弁護士、労働者階級で肉屋の息子という
身分の違う3人が1964年にそれぞれ当選し、国会議員になります。
イギリス国会は保守党、労働党という2大政党によって天下獲りに躍起
になって、その都度、与党で実力を発揮できたと思ったら総選挙で野に
下り、その反対に野党で影の内閣(政権交代に備える野党の対抗組織)
で評価を得て、与党になればポスト就任、という時には仲間を欺きもし、
出し抜くこともしばしばというゲームを展開していきます。

物語では、マーガレット・サッチャー女史の退任後、エリザベス女王が
高齢を理由に王位を息子のチャールズ3世に継承します。
ここで、下院の総選挙で労働党、保守党の議席がまったくの同数となり、
選挙は国王布告で実施されるのと同様、首相の任命も実質は儀礼として
行われており、このような同数になった場合、どちらに任命するかは国王
の決断いかんによるところとなるのですが・・・

実在の政治家、実際に起こった事件に3人の議員が関わり、労働党党首
には肉屋の息子であるレイモンド・グールドが、保守党党首には、貴族階
級出身のチャールズ・ハンプトンと弁護士のサイモン・カースレイクが争い、
最終的にサイモンが党首に選ばれます。

イデオロギーに明確な違いのある政党政治であれば時代や景気を見て、
国民が「当面はより良い国つくりをしてくれそうな」政党を選ぶこともできる
のでしょうが、日本のように、超強大保守与党に対抗できるのはその与党
からの残党兵か脱走兵みたいな集まりで、その政策は「機を見て」決める
という日和見主義。
こういう海外の政治小説や、実際の海外の政治を見ると、一方我が国では
2世3世の世襲議員の制限をしようじゃないか、なんてレベルの低い議論が
巻き起こるのを見ると、恥ずかしく思います。
やっぱり「国民主権」を標榜しているくらいですので、その国の政治家のレベル
が低いのは、その飼い主である国民つまり有権者のレベルの問題。
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ジェフリー・アーチャー 『メディア買収の野望』

2009-04-03 | 海外作家 ア
ジェフリー・アーチャーの小説には、貧しい不幸な境遇から、
努力と才能で成り上がる人と勝ち組エリートとの、それぞれの
人生と両者の交錯を描く長大な物語、という作品がいくつかあ
り、『ケインとアベル』や『チェルシーテラスへの道』などが
まさにそうなのですが、本作『メディア買収の野望』も、この
形式で描かれております。

チェコの山村のユダヤ人一家に生まれたルブジ・ホッホは幼い
頃から商売の才能の片鱗を見せ、やがてナチスに捕らえられて、
収容所から脱走し、ヨーロッパを南下して港の船に潜り込み、
着いた先はイギリスでした。そこでいろんな経緯があり、イギ
リスの軍隊に入隊します。このときルブジは、名前をリチャー
ド・アームストロングと改名、以後この名前で生きていきます。
軍隊の中でも目から鼻に抜ける活躍で、どんどん出世し、第2
次大戦終了後、ベルリン統治下におけるイギリス軍の広報新聞
の編集を任されることになります。

オーストラリアの新聞社オーナーの息子キース・タウンゼンド
は、イギリスに渡りオックスフォード大学卒業後、父の死後、
新聞社を継ぎ、やがてオーストラリアじゅうの新聞社を買収す
るべく奔走し、その勢いは海のむこう、アメリカやイギリスに
目を向けて、グループ企業として拡大していくのです。

リチャード・アームストロングもベルリン生活からイギリスに
移り、イギリス国内の新聞社を買収しまくり、こちらも一大メ
ディアグループとして拡大の一途。

リチャードとキースの買収の攻防戦、ときには双方犯罪まがい
の手法で乗っ取りを画策するのですが、意地と権力欲のぶつか
り合い、せめぎ合いがとても面白いです。

これは、いわばメディア買収戦争という作品なのですが、実は
マクスウェルとマードックという実在のメディア王をヒントに
描かれています。
単なるサクセスストーリーで終わらないところがジェフリー・
アーチャー作品の好きなところでありますが、ただ、この作品
は、キースとリチャードの対決構図のきっかけ、というのが、
あまり描けていないかな、という印象を持ちました。
ジェフリー・アーチャー作品は、ストーリー展開や伏線の見事
さにいつも感嘆するのですが、ちょっとこの一片が気になった
かな。
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ジェフリー・アーチャー 『ロスノフスキ家の娘』

2009-03-27 | 海外作家 ア
この作品は、ロビタの一番好きな、人生の書といってもいい『ケインとアベル』の、
いわば続編。

『ケインとアベル』は、ポーランドで猟師の息子として育てられたヴワデクは、のち
に地方の城に住む男爵の息子であることが判明しますが、ロシアに攻め込まれて捕虜
となり収容所に連行されます。ヴワデクは収容所から脱走し、モスクワ、トルコ、イ
ギリスを経由し、アメリカに移民として渡ります。移民審査の時、男爵からもらった、
銀の腕輪に書かれていた男爵の名前であるアベル・ロスノフスキと名乗るのです。

ボストンの銀行家の長男として生まれたウィリアム・ケインは、裕福な暮らしながら、
甘やかされず、しっかり者に育ちます。やがて、ハーヴァードを卒業し、父親の銀行に
就職。

アベルは、ニューヨークで仕事に勉強に励み、一流ホテルのウェイターから給仕長に
出世します。その働きぶりが、ホテルチェーンを経営する男の目に止まりシカゴのホ
テルを任されることになります。
ホテルでのトラブルも乗り切り、なんとか軌道にのるかという時に、大恐慌が襲いか
かりますが、匿名の支援者が融資をしてくれるということになり、倒産をなんとか免
れます。
やがて、アベルの経営するホテルチェーンを、男爵という意味である「バロングループ」
と改名し、急成長を遂げます。
ウィリアムも、ニューヨークの銀行と合併し、大銀行の頭取となります。
アベルは、ウィリアムの銀行の株を買い、大株主となりやがてウィリアムを銀行から
追い出すという画策を企てます。双方、株の売り買いの攻防戦を繰り広げている最中、
アベルの娘と、ウィリアムの息子が出会い、恋に落ち、結婚するのです。
当然どちらの両親とも納得せず、娘と息子は西海岸へ渡ってしまいます。

ウィリアムは、アベルではなく、銀行内の抵抗勢力に遭い、頭取の座を奪われます。
それから時は過ぎ、娘と息子夫婦が、西海岸ではじめたブティックのニューヨーク
支店の開店セレモニーをのぞきに行ったアベルは、道の反対側で一人の老人と目が
合い、その老人は帽子をあげて挨拶します。その老人こそウィリアムで、ウィリアム
とアベルが会った最期となり、ウィリアムは亡くなります。
アベルのもとに銀行から連絡がはいり、大恐慌の際の匿名の融資者はじつはウィリア
ム・ケインであり、死ぬまで正体は伏せておくという条件だったことを知り、アベル
は感動と後悔するのです。

・・・とまあ、ここまでが『ケインとアベル』のあらすじなのですが、
『ロスノフスキ家の娘』は、アベルの娘フロレンティナが主役。
ケイン家の息子リチャードと結婚し、経営するブティックは成功し、
おたがいの父親の死後、フロレンティナはホテルの社長、リチャード
はかつて父が頭取をしていた銀行の新頭取に就任します。

やがてフロレンティナは、政界入りしますが、またここから波乱万丈。
ちなみに、またさらに続編というか、スピンオフ作品というか、
『大統領に知らせますか?』という、フロレンティナがアメリカ初の
女性大統領に就任し、その任期中におきたトラブルを描いた小説なので
すが、つまり『ロスノフスキ家の娘』では、フロレンティナは最終的に
大統領になります。

しかしまあ、ようやく2008年になって、あとちょっとで現実世界でも
女性大統領が誕生しかけたわけですから、先見の明というか、もし4年後
ヒラリーが大統領になったら、この作品の話題がどこかで出ることを祈り
ます。
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