晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

ディーン・クーンツ 『ドラゴン・ティアーズ』

2013-03-31 | 海外作家 カ
久しぶりにクーンツを読みました。なんでもあとがきによれば
この『ドラゴン・ティアーズ』が日本で発売される前に出版権
でなんかいろいろあったそうで、それまで文春文庫から出ていた
のが、「超訳」でお馴染みの出版社から出て(「インテンシティ」)、
そしてこの作品は新潮から。

まあ、読むほうとしては面白ければ別にいいんですけど、そういえ
ば他にも「超訳」の出版社から出ることになって遺憾、みたいなのが
ありましたね(グリシャムでしたか)。

それはさておき、『ドラゴン・ティアーズ』という作品タイトルから
ドラゴンつまり龍的なのが出てくるかと思いきや、出てきません。
まったく関係ないわけではなく、ある登場人物の話す格言として龍が
出てきます。

カリフォルニア警察の特別プロジェクト警官であるハリーは、パートナー
のコニーとパトロールの途中に昼食に寄った店で、突然、従業員を殺して
銃を乱射する男に遭遇。応戦しますが、男は裏のキッチンからビルの上階
へ逃げます。

ビルの上階には、マネキンがずらっと並んでいて不気味。男はどこに隠れて
いるかわかりません。なんと犯人の男は手榴弾を投げつけてきて爆発。
すると、どこかから「エルヴィス!」という叫び声が。
そして、エルヴィス・プレスリーの有名な歌のタイトルを叫びだします。
「ドント・ビー・クルエル(冷たくしないで)」、「アー・ユー・ロンサム・
トゥナイト?(今夜はひとりかい)」といった、まるで犯人の男のメッセージ
とも受け取れます。
そこにコニーが同じくプレスリーの歌のタイトルで返事をします。
しばらくそんなやりとりがあって、男はハリーめがけて銃を発射、しかし
間一髪助かって、男はその場で撃たれて息絶えます。

この事件現場に「野次馬立ち入り禁止」のテープが貼られますが、ハリーが
野次馬たちを見ていると、一人の青年がふらふらとテープをくぐって中に
入ってこようとします。それを乱暴に押し戻すハリー。

そんな、とんでもない事件が片付いたあと、ハリーは不気味な浮浪者に出会い
ます。その浮浪者は人間ぽくなく、「チクタク、チクタク、お前は夜明けには
死ぬ」などと意味不明なことをハリーに向かって言い放ち、突然目の前から
消えます。
あんな事件の起こった後で心がどうかしたのかとハリーは思い、かつてのパー
トナーで友人のリッキーの家に行きます。

その浮浪者は神出鬼没、リッキーの家から帰ろうとしたハリーの車の中、警察の
オフィスにいきなり現れて、例の「チクタク、チクタク」という声。
とにかくハリーに何か恨みを持ってるらしく、「お前の大切にしてるものを片づ
けてやる」と・・・
そして、ハリーが家に帰ったとき、その浮浪者が家に現れます。銃を撃つハリー。
しかし相手は撃たれたはずなのに倒れず、それどころか家に火を放ちます。

さて、この”不気味な浮浪者”ですが、じつはカリフォルニア界隈にすむサミー
というホームレスと、ジャネットとマーコというホームレス親子のもとにも現れて
おり、ハリーに言ったのと同じように「お前はもうすぐ死ぬ」と・・・

家が燃えてしまったハリーは、コニーに謎の浮浪者のことを話します。はじめは
まったく信じなかったコニーですが、嘘をつくような性格ではない彼を信じることに。
家を燃やされ、次に「お前の大切にしてるもの」は何か考え、ハリーは家族のもとへ
向かおうとしますが、その頃、リッキーの家では奇妙なことが起こって・・・

いったい「チクタク、チクタク」という浮浪者は何者なのか。その謎を解く、一人の
女性が。その女性は目が不自由で入院していて、そこに見舞いに来るブライアンという
青年がいるのですが、女性の担当看護師は、好青年に見えるブライアンを女性がなぜ
そんなに恐るのか分かりません。

このブライアンは、幼い頃から、ある「特殊な能力」があったのですが、それは・・・

もう、怒涛のホラーといいますかスリルといいますか、強烈。小説で超能力とか
宇宙人が出てくると「んなアホな」と思いがちですが、その前に物語にのめり込ませ
気持ちを萎えさせずに最後まで読ませきる、クーンツの力。

物語の重要な部分として、コニーのバックグラウンド、そしてジャネットとマーコの
ホームレス親子の飼っている犬、これらが話に深みと面白さを加えています。

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パトリシア・コーンウェル 『女性署長ハマー』

2013-02-20 | 海外作家 カ
この作品は、パトリシア・コーンウェルの「検屍官ケイ」シリーズの
合い間に、といいますか、別の作品でして、この『女性署長ハマー』
で3作目となるのですが、まあ講談社文庫さんも紛らわしいといいま
すか意地悪といいますか、「検屍官」シリーズと同じ青の背表紙で
出版順の番号に混じっていて、表紙の構図も同じ。「ハマー」シリーズ
の第1作「スズメバチの巣」は、はじめてっきり「検屍官」シリーズ
かと思って読み始めたら違ってビックリしたものです。

まあそれはさておき、登場人物のジュディ・ハマーはリッチモンド市の
警察署長で、今作からはバージニア州の警察署長に。

ところでケイ・スカーペッタはバージニア州の検屍局長ということで、
このふたり、地位のある独身女性という”共通点”があって、まあ
境遇は違うんですけど。で、前作では名前だけ出てきましたが、今作
ではケイががっつりと登場します。

バージニア州の警察署長に就任したハマー、はじめは記者として警察の
捜査を取材していたアンディ・ブラジルも”本物”の警察官になって、
同じくバージニア州警察に移動します。

ここ最近、連続して起こっている殺人事件。どうやらその犯人一味の
ボスは、前作で逮捕された悪ガキのスモーク。スモークは刑務所を
脱獄して、今作ではそのスモークの”彼女”が登場。
「ユニーク」と名乗るまだ10代の女性は、外見こそ可愛らしいのですが、
考えてることは悪魔といいますか、感情が悪魔に支配されています。

さて、ブラジルはというと、「トルーパー・トゥルース」というペンネーム
を使って、ウェブ上で州警察のコラムを書く事に。これは署長のハマーしか
しらない秘密事項。
このコラムが大反響になって、ハマーのことを面白く思ってない州知事は
コラムを拡大解釈して、どういうわけかハマー失脚のシナリオを描こうと。

ところが、そんな中、体に「トルーパー・トゥルース」と傷の掘られた
女性の死体が見つかって大変。もちろん犯人はブラジルではなく・・・

スモーク一味は、ハマーの愛犬を盗んで、手下のポッサムは犬の世話を
しているうちに情がわいてしまい、犬を無事に返そうとします。

はたして、警察はスモークとユニークを捕まえることができるのか。

けっこう話があっちこち飛んでごちゃごちゃしている印象で、ましてや
「ハマー」シリーズは第1作から読まないとわかりにくいですね。
文中のコラムはアメリカに関する雑学がふんだんに盛り込まれていて、
面白いですね。
ところで原題の「Isle of Dogs(犬の島)」とは、タンジール島のことで、
「検屍官」シリーズでも登場します。島民の数は少なく、カニが名物の、
一種独特の”文化”が育まれてきたのですが、それがこの作品の不思議さ
のアクセントになっています。
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A・J・クィネル 『サン・カルロの対決』

2012-12-17 | 海外作家 カ
この本(文庫ですが)のあとがきに、クィネルが”仮面”を脱いだ
理由と、彼の経歴が書かれていて、そもそも実名も写真も公開しな
かった理由としては、ある人によってはかなり”ヤバイ”ネタを小説
のテーマにしている、ということだったのですが、『サン・カルロの
対決』も、中南米にある架空のサン・カルロという国で起こったクー
デターの話ですが、ここらへんの国々では、いつ同じようなことが
起きても不思議ではない、というか、どこかの国をモデルに書いたの
では、なんて思ってしまうほど。

中南米の小国サン・カルロで、革命軍「カマリスタ」が首都を攻撃、
アメリカ大使館までもカマリスタに制圧され、大使のピーボディは
とらわれてしまいます。

学生戦士のリーダー、フォンボナはピーボディを今すぐにでも殺した
くて仕方がないのですが、そこに現れたのは、キューバ情報局のホルヘ・
カルデロン。

ピーボディはキューバでも「反共主義者」として名前が通っており、
情報局の持っている、カストロ暗殺計画をピーボディが知っているの
では、ということで、彼を尋問することに。

カルデロンは、拷問による聞き出しを好まず、対象者の”心”を掌握
し、ネタを吐き出させることに快感をおぼえるタイプで、手荒なことは
しません。が、じわじわとピーボディを追い詰めます。

しかしピーボディも、心の底から憎んでいる共産主義に屈してたまるか
という意地と、アメリカ合衆国の外交官というプライドにかけて、なか
なか口を割ろうとはしません。

ところがここで問題が。カマリスタの指導者が首都制圧してからという
もの、はやくも独裁者じみてきて、カルデロンが連れてきた愛人に手を
出している様子。しかも尋問の期限はあと少しで、もし話を聞き出せな
ければ、ピーボディをフォンボナに引き渡す、と・・・

さて、この事件はアメリカでも問題になっていて、はやいところ解決し
なければ、ということで大統領補佐官は、陸軍大佐のスローカムに、大使
奪回作戦の指揮をとってもらうことに。
しかしスローカムは、補佐官の持ってきた作戦案を聞いて愕然。これでは
前線の兵士たちが無駄死にではないか、と怒り、なんと直接大統領に自分
の立てた作戦で行かせてほしい、と提案します。

なかなか口を割らないピーボディ、あせるカルデロン。そして期限の日が
・・・

はじめは、あれ、ちょっと読みにくいな、と思ったのは、この小説のほと
んどが、ピーボディとカルデロンとスローカムの「一人称現在形」で書かれ
ていることです。
ですが、読み進めていくうちに、この文体こそが緊迫感をこれでもかと盛り
上げていると気づいてからは、もう夢中になってしまいます。

ピーボディとカルデロンのせめぎ合いは、ひらたくいえば「話せ」「いやだ」
の繰り返しなんですが、それこそ超一流の剣士の決闘を見ているよう。

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A・J・クィネル 『メッカを撃て』

2012-11-12 | 海外作家 カ
クィネルの作品には、派手なアクションや、リアルな(当人にとっては
耳の痛い)政治スキャンダルなどの合い間に、ほどよくロマンスが織り
込まれていて、決して本筋の邪魔になることなく、話の奥行きといいま
すか、幅が拡がって読み応えがあるように仕上げていて、そこらへんが
上手いなあ、と思って最近ハマっております。

さて『メッカを撃て』ですが、メッカとはイスラム教の聖地でイスラム
教徒なら一生に一度は訪れるべき場所で、シーズンともなれば世界中から
わんさか人が集まりますね。
そんな聖地に、アメリカの”ひも付き”である預言者(マハディ)を送り
こもう、という計画が立ち上がります。
CIAのある人物が、今は引退してマレーシアの山奥の豪邸に暮らしている
元スパイのもとを訪ねます。
そこで、老スパイは、混乱を極める中東をコントロールしようと、預言者を
”こちら側で作り上げる”計画を提案。
この話にイギリスの諜報組織MI6が加わって、”ミラージュ計画”が実行
されます。

まわりから、ちょっと頭の弱いと思われていますが、本人はいたって敬虔な
イスラム教徒で、数日、洞窟に入って瞑想をして町に戻って、を繰り返して
いるアブ・カディルという男がいます。
彼に、特殊効果で”神の声”を聞かせて、預言者にさせようというのです。

それを、アラブ人の実業家が「預言者が現れた」と口コミで話を徐々に拡げて
いきます。
というのも、イスラム教国家では、「自分は預言者」だと言いふらすと罪に
なるのです。
そこで、本人(預言者)が特定されないように、でも預言者が現れて、しかも
イスラム暦のキリの良い年にメッカに登場し、政府が止めようもない状況にまで
持っていこうとします。

さて、この「隠密行動」を嗅ぎつけたソ連のKGB。アメリカとイギリスが
サウジアラビアで何かを計画しているところまでは分かったのですが、中東
情勢では西側よりもリードしていたいソ連。そこで、イギリスにスパイを
送り込むことに。

ソ連の名門バレエ団のプリマドンナ、マヤを、バレエ鑑賞が趣味というMI6
の人間に近づけさせ、「自分は亡命したい」と話を持ちかけ・・・

いわば「仲間外れ」状態だったKGBも”ミラージュ計画”を知ってしまい、
これからどうなるのか。マハディはメッカまでたどり着けるのか・・・

アメリカ、イギリスの諜報にソ連まで加わって預言者を「でっちあげる」
という、まあなんとも小説というか映画の世界といいますか、突飛なアイデア
ですが、話の元は、あとがきによると1979年に「ネオ・マハディ主義」を標榜
する原理主義がメッカのモスク襲撃事件を起こし、これをもとに描かれたと
いうのです。

翻訳者の解説には、ほぼ全部「これが最高傑作」と褒め称えています。まあ
それだけインパクトが大きくて、前に読んだ作品を凌駕してしまう、純粋な感想
なんでしょうね。ものすごく同意。ほんとにそう思いますね。
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パトリシア・コーンウェル 『審問』

2012-10-05 | 海外作家 カ
なんだかんだで、この「検屍官ケイ」シリーズを11作まで読み終えました。
しかしすでに20作くらい出てる(今年も最新作が出た?らしい)ので、道のり
はまだまだ遠いですね。

この作品『審問』は、前作の続きとなっていて、ちょっとおさらいしますと、
アメリカ、バージニア州検屍局長のケイ・スカーペッタの恋人でFBI心理
分析官のベントンが、キャリーという悪の権化に殺され、ケイの姪ルーシー、
リッチモンド警察の警部でケイの”相棒”マリーノらはキャリーを追い詰め、
最終的にキャリーの乗ったヘリコプターは海上で爆発。

さてこれで事件は一段落と思いきや、ヨーロッパから来た貨物船の木箱の中
から腐乱死体が。箱の内部には「狼男」という謎のメッセージが。
新しく赴任したリッチモンド警察の女性副署長のブレイは、どういうわけか
ケイとマリーノを陥れようと画策します。ところがそのブレイが”狼男”に
よって惨殺されるのです。

殺人現場に残された謎の毛を調べていくうちに、シャンドンという男の名前が
浮上、フランスのインターポールへ向かうケイとマリーノですが、ケイはインター
ポール職員のタリーと一夜をともに。

ジャンは奇形児として生まれて、闇のビジネス界の大物の家では隠されて育て
られます。全身を毛で覆われているジャンは”狼男”と名乗るようになって、
どういった方法か、アメリカへ渡ってきます。
そしてとうとう、ケイの家に侵入してきて、駆けつけたルーシーはシャンドンを
撃とうとします。それを止めさせるケイ・・・

で、ここからが『審問』となります。

いわゆる「PTSD」になったケイは、精神科医のアナ博士の家に住むことに
します。
数年前にニューヨークで起きた女性の殺人事件が、シャンドンの犯行ではないか
というこちで、ニューヨークの女性検事、バーガーがシャンドンの身柄をニュー
ヨークへ移送。
そうこうしているうちに、なんとバージニア州検察が、ケイをブレイ副署長殺害の
容疑にかけようとしているという話になっていて、ケイは誰も彼も信じられなく
なります。

さらに、マリーノの息子(別れた妻が引き取った)で弁護士のロッキーが、シャンドン
の弁護を担当するという衝撃のニュース。

もう検屍局長を辞めよう、と思うケイ。

そこに、姪のルーシーが、ATF(アルコール、たばこ、火器局)のエージェントを
やめて、元同僚とニューヨークで新しい仕事を始めるということを聞きます。
その仕事とは、私立の捜査機関「ラスト・プリシンクト(最終管区)」で、ケイも
誘われますが、とりあえずは検屍局長として残った仕事をやることに。

そんな最中、次々と起こる殺人。うらぶれたモーテルで殺された男は不可解な死に方
をしていて、このモーテルには、前にシャンドンが来ていた可能性が・・・

ベントンの残したファイルを探して、読み始めるケイ。なんとそこには、「ラスト・
プリシンクト」の文字が。そして、ベントンは生前ブレイに会っていたのです・・・

いろんな情報が押し寄せてきて、しっかり頭の中で整理しながら読み進んでいかない
と、うっかり置いてけぼりになってしまいそうな、かなり話が複雑にこんがらがって
いますが、最終的に「そうだったのか!」と合点がいきます。

さて、検屍局長をやめることになるケイですが、長年”連れ添ってきた”マリーノは
「あんたがやめたら俺はどうなるんだ?モルグへいっても、あんたがいると思うから、
あのいやったらしい場所へいくんだぞ、先生。あんたがあそこで唯一の救いなんだ。
ほんとだよ」
と、言葉を詰まらせ、泣く寸前で語ります。初対面のときは、あからさまに女性蔑視
だったマリーノ。ジーンときます。
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A・J・クィネル 『血の絆』

2012-09-19 | 海外作家 カ
クィネルの小説は、実際に起こった出来事、事件などが題材になっていたりして、
それがかなり核心をついているとかで、”本物”に狙われるんじゃないだろうか、
ということで、顔写真も本名も所在地も非公開にしていた、などと言われていたり
しましたが、この『血の絆』でも、舞台が(だいぶ後半ですが)ザンジバル辺りと
いうことで、ここで起こった革命の裏話などは、かなり当人たちにとっては耳の痛
いことが書かれているんじゃないの、と。

ニューヨークに独りで暮らす女性、カースティ・ヘイウッド。しかし、都会の喧騒
とは距離を置いていて、どこか寂しげ。
というのも、まだ30代後半で夫に先立たれ、さらに息子は勝手に”自分探しの旅”
に出て行ってしまい、消息不明。

そんな息子、ギャレットですが、かなり特殊な血液型の持ち主で、カースティは、
ちょっと神経過敏になって子育てをして、それが結果的に息子を縛り付けていた
ことに後になって気づくのですが、親子はいがみ合い、息子は父親の信託遺産を
受け取れる年齢に達するやいなや旅に出かけてしまうのです。
そんな息子から、手紙が届きます。

「旅を続けていくうちに、母の自分に対するのが純粋に愛情だったことを理解する
ようになった。もう憎しみは消えた。」

喜びも束の間、警察から「ギャレットがインド洋上で溺死」と報告が。

しかしカースティは、息子が死んだことを認めず、絶対に生きていると確信。
インド洋に行こうとしますが、カースティの恋人、会社の社長から反対されます。
しかし決意は固く、家も財産も売り払い、一路アフリカへ。

カースティは、ラセルという船長の船にギャレットが乗っていて、そこから海に
落ちて死亡したという詳細を聞きますが、彼女は、直接ラセルに聞くまで納得い
きません。

ここから話は変わって、インドの貧しい中年、ラメッシュという男が登場。
本の虫だったラメッシュは冒険願望を密かに持っていて、ある日「マナサ号」
というオンボロ船を見つけて、何を思ったのか即購入します。
うだつの上がらない暮らしに別れを告げて、まともに航海技術も無い(本で
得た知識のみで)まま、船の修理をして、ラメッシュは大海原へ・・・

石油掘削人のケイディは、ちょっとしたことで上司をぶん殴って仕事を馘に。
以前から趣味であった釣りをしようと、インド洋に旅立ちます。
途中、セーシェルへ向かう船の中で、カースティはケイディと出会います。
カースティは旅の目的をケイディに話し、彼も一緒に息子を探しに行くことに。

マナサ号は途中で小さな島に寄って、ラメッシュは水や食料を買い出しに上陸
します。そこで売店にいた少女、ラニーと出会います。
彼女はラメッシュの船旅の話に興味津々で、船を見物に行きます。
買い出しも済ませて、島を離れてから、ラメッシュは船室に潜り込んでいた
ラニーを発見して・・・

そこからいろいろあって、この4人が合流して、マナサ号で悪名高いラセル船長
を追うことになります。

はたして、ギャレットは生きているのか。生きていたとしたらどこにいるのか・・・

途中、マナサ号のエンジンが壊れ、元イギリス海軍という”噂”のジャック・ネルソン
という男にラメッシュは修理を依頼しますが、ネルソンは偏屈で、偏見に凝り固まり、
売り言葉に買い言葉でラメッシュもネルソンを罵倒。

しかし、どういったわけか、ネルソンはマナサ号にやってきて、エンジンを見てやる、
というのです。お互い謝罪して和解し、古いエンジンはネルソンにとって見慣れたもの
で、さらに機械系に強いケイディも加わって、エンジンを修理します。

ネルソンとラメッシュの友情の話は、最後にホロリときます。

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A・J・クィネル 『燃える男』

2012-09-04 | 海外作家 カ
この作品はクィネルのデビュー作で、元傭兵の謎のアメリカ人
クリーシィが主人公の、その後シリーズになる作品なのですが、
先にシリーズ第3弾「ブルー・リング」を読んでしまっていて、
そこで語られていた妻と娘に関することが、この『燃える男』を
読んで「ああ、なるほど」と。

フランス外人部隊で凄腕の傭兵として有名だったクリーシィも、
その後アフリカやベトナムなど戦地を渡り歩き、今では酒浸りの
毎日。
そして、フラフラと船に乗り、南イタリアのペンションへと向かう
のです。このペンションのオーナー、グィドーもまた元フランス外人
部隊で、クリーシィとは親友でした。
数年ぶりに再開するふたりでしたが、かつての凄腕の傭兵の姿は見る
影もなく、ヨレヨレのアル中のおじいさん。

このままではいかんと、グィドーはミラノに住む弟に仕事を相談します。

さて、話は変わり、ミラノの実業家、バレット家では、深刻な問題が。
紡績業で財をなしたバレット家は、ここ近年、外国産の安価な生地に
市場を奪われて、会社がピンチで社長のエットレは資金繰りに奔走。
しかし妻のリカは、名門バレット家の妻たるべく、浪費をやめようとは
しません。あげく、ひとり娘のピンタをスイスの学校に転校させようと
いうのです。スイスの学校は無理としても、ミラノの学校に通わせるの
なら、ボディーガードを付けてほしい、と。

というのも、最近ミラノでは誘拐事件が多発しており、この前ピンタの
学校の生徒も誘拐されたばかり。しかし父エットレは、そもそも誘拐とは
プロの犯行で、火の車の状態である会社の社長の娘なんぞ誘拐なんてされ
ないと妻の心配を一蹴。
しかし、それでは妻の機嫌がおわまるはずもなく、とりあえず期間限定で
ボディーガードを雇って、何もなければお払い箱にする、ということで、
この求人を聞いたグィドーの弟が兄に話をして、クリーシィはミラノへ。

女の子のボディーガードなんて、と嫌々でしたが、とりあえずバレット家に
行くと、採用されます。
無口で、ナポリ訛りのイタリア語をしゃべる(外人部隊の時代にグィドーから
教わった)アメリカ人は、はじめリカとピンタに警戒されます。
そしてクリーシィもまた、必要以上に関わりあいを持ちたくないと無愛想。

しかしある日、リカの買い物に付き添ったクリーシィは、市内で銃撃戦に
巻き込まれます。とっさにリカをかばう元傭兵。
しかし、かつての機敏な動きはなりをひそめ、クリーシィは自己嫌悪に
陥ります。
そして、ピンタにも徐々に心を開きはじめ、ようやくクリーシィは自分で
このままではいけないと酒を控え、トレーニング(広大な敷地のバレット家の
庭の手入れや柵の取り付け)をはじめます。

ところが、いつものように車で迎えに行くと、ちょうどピンタが何者かに車に
押し込まれているところで、クリーシィはすぐ銃で男を撃ちますが、残りの犯人
に連れ去られてしまいます。
そしてクリーシィは犯人に撃たれて重体。

そして数日後、聡明で魅力的だった少女は無残な姿で発見されるのです。

クリーシィは、グィドーの亡くなった妻の実家のあるマルタのゴッツォ島で
リハビリとトレーニングを開始。
ピンタの誘拐、殺害に関わったミラノのマフィアへの復讐心を燃やします。

そこで、ナディアという女性に出会い、クリーシィは、今は女にうつつを
抜かしている状態ではいと分かっていながらも、その事情をナディアも知って、
ふたりは結ばれます。

フランスの武器商人から大量の兵器を買って、いよいよイタリアに戻ることに
なるクリーシィ。
巨大な組織であるマフィアにひとりで戦いを挑むのですが・・・

シリーズ3作目「ブルー・リング」に出てくるイタリア憲兵隊の大佐(警察官)
マリオ・サッタが登場します。腐敗、汚職にまみれきったイタリアの役人の中
にあって正義感のある男。サッタはミラノで立て続けに起きているマフィアの
連続殺人事件の実行犯を探します。
そこで、数ヶ月前にあったバレット家の娘の誘拐殺人事件を思い出し、その時に
銃で撃たれて重体だったボディーガードの名前が浮上してきます。

同じくマフィアの間でも、あの時のボディーガードの犯行と分かり、独自の
情報網で、クリーシィという名前までバレてしまい・・・

はたしてクリーシィは、最終的にマフィアのボスのところまで行けるのか。
そして、復讐は遂げることができるのか。

ゴッツォの美しい自然、そして島の魅力のひとつでもある素晴らしい住民たちの
描写部分は、その後に起こる復讐劇とは対照的に清涼感あふれています。

久しぶりに「痛快!」と心の底から思える作品。

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A・J・クィネル 『ブルー・リング』

2012-08-23 | 海外作家 カ
この小説は、クリーシィという凄腕の元傭兵のシリーズ第3弾で、
残念ながら最初と第2作はまだ読んでいません。
ただ、文中のはしばしに、前にどういうことが起こったのか、そして
クリーシィにはマイケルという養子がいるのですが、どういった経緯
で縁組になったのか、ある程度わかるようになっていますので、迷子
になるようなことはありません。

ヨーロッパのあちこちで、若い白人の少女が行方不明になるという事件
が発生していて、デンマークの刑事イェンスは、現地に行って捜査したい
と上司に告げますが、警察は出張を認めてくれません。

そうこうしてるうちに、誘拐された少女たちは、麻薬漬けにされて、今
にも海外に運ばれようと・・・

一方、クリーシィとマイケルは、ベルギーのブリュッセルにある高級娼館
の経営者から、「ブルー・リング」という、謎の組織のことを聞きます。
ところがクリーシィは古傷が傷んで入院することに。そこでマイケルは
前に「ブルー・リング」について聞き込みにきたデンマークの刑事のもとへ
向かいます。

イェンスはマイケルから話を聞いて、デンマーク警察の正式な出張ではなく、
休暇を取って、マルセイユに行くことに。

マイケルは、クリーシィの退院を待つことなく、自分でもやれるんだという
ところを見せたいという気持ちからか、マルセイユで聞いた怪しい組織の
アジトに乗り込もうとしますが、情報は筒抜けになっていて捕らわれてしまい
ます。

それを聞いたクリーシィはすぐさまマルセイユに直行。組織のアジトに乗り
込んで、捕まっていたマイケルとイェンスを、そして2人の少女を救出。

どうやらブルー・リングとは白人少女奴隷組織らしく、ヨーロッパ、北アフ
リカにまたがっていて、その親玉はイタリアにいるようなのです。

デンマーク人の少女はイェンスと武器商人の紹介の男とふたりで家に送る
ことになり、もうひとりの少女ジュリエットは、クリーシィの幼女となり
ます。つまりマイケルにとっては妹。
ジュリエットを家に置いて、いざイタリアへ・・・

しかし、イタリアじゅうのマフィアはクリーシィを目の敵にしていて、のこ
のことイタリアに来た彼は捕まってしまい・・・
そこで、クリーシィは、マフィアのボスにブルー・リングについて訪ねて
みますが、マフィアのネットワークではないとのこと。

クリーシィはどうにかこうにか救出され、マフィアのボスはブルー・リングに
ついて独自でしらべようとした矢先、暗殺されてしまいます。
どうやら、バチカンが絡んでいるのか・・・そして、解散したはずのイタリア
のフリーメイソン「ロッジァ・P2」の残党が絡んでいるのか・・・

そして、マイケルの幼少時代、学校から帰る時に塀に座っていてじっとマイケル
を見つめる謎の女(のちに母とわかる)は、悪いアラブ人に騙されてマイケルを
産むのですが、育てられずに教会に置いてくることに。
その、マイケルの父親?と思しきアラブ人の正体も、のちに明かされることに。

もう、読み始めたら止まりません。

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パット・コンロイ 『潮流の王者』

2012-07-24 | 海外作家 カ
だいぶ更新が空いてしまいましたが、この『潮流の王者」は(あとがきに
よれば)400字詰め原稿用紙にして1900枚ほどあるそうで、まあつまり
読むのに時間がかかりました。

この作品は、読むまで知らなかったのですが、バーバラ・ストライサンドの
監督、主演作でアカデミー賞7部門受賞の「愛と追憶の彼方」の原作で、
なんと、読み始めてから100ページくらいで、登場人物の構成やら物語のあら
すじやらで、ようやく「この話どっかで見た事ある」と思い出した次第。

アメリカの南部、サウスキャロライナのコレトン郡にあるメルローズという
小さな島に住むトム・ウィンゴが主人公で、トムには双子の姉サヴァナ、兄
ルーク、そして家族に対する愛情を暴力というかたちで表現する小海老漁師の
父ヘンリー、そんな男と結婚したことを悔やみ、自分はこんな貧乏一家の女房
なんかではなく、名士の妻になるはずだったという虚栄心の強い母ライラの
5人家族の物語。

30代後半になったトムはサリーという妻と3人の子という家族がいますが、
高校のフットボールのコーチを首になってからは、仕事をせず妻の収入に頼って
「主夫」になっています。
そんなトムのもとに母ライラから、サヴァナがまた自殺を図ったという知らせが。
しかしこの母と息子の関係性はとても正常とはいえず、とくにトムは実の母を
まるで敵のようにあしらいます。
なんにしても、姉を見舞いにニューヨークへ行くトム。

これが、物語上の「現在」で、それと交互に「過去」つまりウィンゴ家の歴史
が描かれていて、はじめの部分で分かっていることは、トムは南部の地元に
残ったこと、サヴァナは売れっ子の詩人となってニューヨークに住んでいること、
「現在」ではルークはこの世にいないこと、両親は離婚し、ライラは再婚している
、という断片的な情報。ここから、家族それぞれのエピソードがつまびらかにされて
いきます。

サヴァナが自殺を図るのは、高校を卒業したてのころが最初で、それ以前にも自分は
たまに記憶が飛んだりするという悩みがあったのです。
サウスキャロライナという土地、アメリカ南部のすべてを忌み嫌い、ニューヨークで
詩人となって成功を収めますが、心のバランスを崩してしまいます。
3年ぶりに姉と再開するトム。何を話しかけてよいのやら戸惑います。サヴァナの
担当である精神科医のスーザンに話を聞き、原因は家族にあると言われ、そこから
小出しに家族で起きたさまざまな(トムの思い出せる限りの)サヴァナが”こんな”
になってしまった原因、要因を話します。

トムはとりあえずサヴァナのアパートに住むことに。そんなある日、スーザンから
息子のフットボールのコーチをしてほしいと頼まれます。
スーザンの夫は世界的に有名な音楽家で、息子もそうなってほしいと小さい頃から
ヴァイオリンを習わせ、全寮制の名門校に通わせますが、息子が学校でフットボール
をやっている写真を母は見つけます。
しかし厳格な父は当然許すはずもなく、息子に聞けば本気でフットボールをやりたい、と。

妻のサリーから、浮気をしていると突然言われ、離婚をつきつけられているトム。
現実逃避といいますか、そんなこんなで息子のコーチをすることに。

ところが、ニューヨークの公園でスーザンの息子と初めて会ったその時にトムは
「こいつはフットボールなんてやっていない」と見抜くのです。
両親を困らせたいがためにフットボールをやっていると嘘をつく息子。しかし
好きなことだけは本物らしく、学校のチームで一軍に入るのが目標だというので
トムは真剣にコーチをはじめることに・・・

何かというとすぐに妻や子供をぶん殴る父、家庭内で起こる問題にちゃんと対処
しない母、聖金曜日にキリストの苦行を再現し、重い十字架を背負って街を練り歩く
狂信的な祖父や、そんな夫を捨てて都会へ出て行った祖父など、まあどう考えても
良い家庭環境とはいえない状況で子どもたちは育ってゆきます。

サヴァナの心の病気の大きな理由とは何なのか。兄ルークに起きた”あること”とは。
なぜ両親は離婚したのか、その結果、トムは母を心の底から嫌うようのなったのですが
・・・

河や周りの自然の描写は息を呑むほどに美しく、ウィンゴ家の過去と同時に描かれる
当時のアメリカにおける時代背景、第2次大戦、朝鮮戦争、公民権運動、ウーマンリブ
などなど、そして南部の田舎とニューヨークのど真ん中の生活文化の対比、これらを
縦横無尽に(言葉は悪いですがバラバラに)描いている、といった感じで、ちょっと
話の流れがつかみにくいなと思うところもありますが、それもひっくるめて”雑多”
な感じが途中から味わい深いようになってきます。

そして、文中のユーモアも、ともすれば深刻になりがちな話の緩和となっています。
感服したのが、物語後半のトムとFBI捜査官とのやりとり。
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アーサー・C・クラーク 『3001年終局への旅』

2012-06-16 | 海外作家 カ
本をよく読むようになってから、はじめて「夢中で読んで気がついたら朝に
なってた」という経験をしたのが「2001年宇宙の旅」でした。

それから、直接の続編ではないという作者の断りはありますが一応シリーズ
もので「2010年」「2061年」と読んできて、そしてとうとう終局。

ざっと説明しますと、「2001年」は、400万年前に地球に降り立った謎の
物体が、のちに人間となる動物に”知恵”を授けるところからスタート。
この物体(モノリス)が、20世紀後半に月の地下から発見されて掘り出す
と電波を放ちます。その電波の方向は木星。

そこで、かの有名なスーパーコンピュータ「HAL2000」を搭載した宇宙船
が木星に向けて出発するのですが、途中でHALが暴走し、乗組員を殺害し
はじめるのです。
そして、唯一生き残ったデイヴィッド・ボウマンは宇宙船から逃げ出し、
宇宙に吸い込まれ・・・

「2010年」は、そのHALを載せた宇宙船を回収に行きます。
ついでに木星の衛星も探査する予定だったのですが、なんと中国の宇宙船
が先に向かっていたのです。
ところがエウロパに着陸しようとして事故、乗組員が無線で「エウロパには
生物がいる」というメッセージを残すのです。
なんとかHALの宇宙船とランデブーしますが、なんと10年前に脱出したボウマン
の影が現れて「エウロパには人間は着陸してはならない」と警告。
そして例のモノリスが分裂して増殖し、木星を覆い、木星はルシファーという
第2の太陽に・・・

「2061年」になると、50年前の乗組員、フロイドがふたたび宇宙へ。
地球に接近してきたハレー彗星の探査をしていると、フロイドの孫が乗って
いる宇宙船がハイジャックされて、「近寄ってはならない」とされている
エウロパに不時着してしまい、フロイドたちは木星へ向かい・・・

さて「3001年」ですが、1000年前にHALに”殺された”フランク・プールが
宇宙空間を漂ってるところを発見されます。
解凍して生き返ったプール。

「スターチャイルド」という存在になったかつての仲間、ボウマンは一体
どうしてそうなったのか、その目的は、モノリスとは何か。

3001年ということで今から990年後の未来の地球を描いていますが、クラーク
の”予言”はけっこう当たっているので、ひょっとしたら上空2000キロメートル
で生活するようになっているのかも。


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