晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

パトリシア・コーンウェル 『警告』

2012-06-04 | 海外作家 カ
すごくハマってる!というわけではないのですが、検屍官ケイのシリーズを
読み始めてようやく10作目、あとがきによると、このシリーズは10作で終わり
になると作者が話をしていたそうで、でも書店にはこのシリーズは10どころか
20作くらい並んでいるので安心。

前作で、ケイの心の支えになっていた元FBIのベントン・ウェズリーがずっと
追っていた凶悪犯に殺されてしまって、冒頭、ケイ宛てのベントンの遺書から
はじまります。

悲しみに打ちひしがれているなか、ヨーロッパから来た貨物船に死体が発見さ
れて、港に急行します。しかし現場には顔なじみの警察はおらず、いるのは新顔
の女性刑事。
なんでもケイに対して対抗心というか挑発的で、話をきけば、なんとマリーノ
(シリーズ1作目から登場するリッチモンド市警察の警部でケイとともに難事件
に取り組んできたパートナー)は刑事から制服警官へと配属を変えられてしまった
のです。

女性刑事のアンダーソンは、新しく赴任した女性副署長ブレイの覚えめでたく、それを
いいことに態度がでかいのですが仕事はからっきし役立たず。

貨物船の中の死体はほとんど腐っていて、奇妙な刺青、高価な服装、見たことのない
細い毛、そして「狼男」というフランス語が死体の入っていた箱に書かれています。

そこでフランスにあるインターポールに問い合わせてみることに。ところでこの
死体の検屍をしようとしますが、さきほどの女性刑事、アンダーソンがちょっかい
を出してきたり、検屍局のモルグ主任は鬱陶しく、仕事になりません。

なんでも最近の検屍局内では備品の盗難が相次いで起こっていて、なんとひどい
ことに、誰かがケイの名前を騙ってネットのチャットルームであることないこと
書き込んでいるのです。
それを新任のブレイ副署長が問題にして、ケイを追い出そうとしているとの噂が・・・

単なる女性同士のやっかみなのか、あるいは背後にもっと厄介な陰謀があるのか。

「狼男」の正体が依然わからないままでしたが、インターポールから、というよりも、
なぜか上院議員から連絡があり、ケイとマリーノはフランスのインターポール本部へ
向かうことに・・・

シリーズの主要人物であるケイの姪ルーシーは、フロリダで麻薬組織のおとり捜査
という危険な任務に。いよいよ一網打尽、というところで失敗していまい、あろう
ことかルーシーはいっしょに捜査にあたっていた相棒を撃ってしまい・・・
こちらのトラブルもまたケイの悩みの種に。

そしてこの10作目で、ケイに新しいロマンスが・・・?それも曖昧なままで終わって
しまったので、次作へ持ち越しということでしょうか。

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A・J・クィネル 『ヴァチカンからの暗殺者』

2012-05-24 | 海外作家 カ
かつてのスパイスリラー、アクションといえば、アメリカやイギリスの
「自由陣営」対共産圏、主にソ連との対決が描かれていたことが多く、
しかしソ連も解体され、東側の共産圏も次々民主化し、フレデリック・
フォーサイスはイギリスの諜報部で、かつては優秀なスパイだった男の
悲哀を描いた中編3部作、なんてのもありました。

この『ヴァチカンからの暗殺者』での「敵」はソ連邦の書記長という
バリバリの「西対東」、この当時のローマ法王はポーランド出身の
ヨハネ・パウロ2世、法王に就任してから暗殺未遂があり、それがソ連
側の仕業ということがわかり、じゃあ相手側の親分である書記長、アン
ドロポフを「消して」しまおう、という話。

話は、ポーランドのSBという秘密保安機関からはじまります。少佐の
ミレクは、SBの事務所へ行って、上司を射殺。
そして、教会へ逃げ込みます。この教会は西側の人間をソ連へ送ったり、
また東側の人間を西側に送ったりしていて、その取締りをしていたのが
他ならぬミレクだったのです。
そしてミレクは神父に会い、ある司祭のところへ行きたい、と告げるの
です。

そのミレクが会いたがっている「ベーコン司祭」ことヴァンバラ司祭は、
ローマ法王が韓国行きのさいに暗殺計画があると知り、大司教、枢機卿
の3人で「ノストラ・トリニタ(われら3人組)」を結成し、法王の命を守る
ため、なんとソ連邦の書記長、アンドロポフを逆に暗殺してしまおう、と
いう計画を立てます。

その「使者」に選ばれたのがミレクで、ミレクはそもそも上司を撃って
ポーランドから逃げたのには、アンドロポフへの個人的な恨みがあるらしく、
ベーコン司祭はミレクに暗殺を依頼。

しかし、はいわかりました、というわけにもいかず、ミレクは北アフリカ、
リビアにあるテロリスト育成キャンプでトレーニングをします。
そして、ベーコン司祭らは、より成功の確率を高めるため、ミレクには
「妻」を同行させようとします。まさか暗殺者が夫婦で行動するとは思わ
ないだろう、というわけで、「妻」役に、敬虔な修道女、アニアを選びます。

ハンサムで女性の扱いには慣れているミレクはアニア美しさに目を奪われま
すが、アニアは偽の法王からの特命状(ある計画によって、一時的に夫婦の
「ふり」をしてほしい、というもの)はあるものの、決して体を許しはしません。

そんなふたりがハンガリー、チェコ、東ドイツ、ポーランド、そしてソ連へ
密入国にようとするのですが、どうやらその情報はKGBに漏れていたのです・・・

はたしてふたりはソ連に入国できて暗殺を遂行できるのか、ミレクのアンドロポフ
に対する恨みとは、ふたりの愛の行方は。

ロマンス、スリル、アクション、どれをとっても素晴らしい傑作です。

 


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エラリイ・クイーン 『Yの悲劇』

2012-03-25 | 海外作家 カ
十代のころから文学青年で名作を読み漁っていればよかったの
ですが、生憎、数年前から本の面白さに目覚めたので、「読んで
おかなければ」いけないような名作をほったらかしにしてきて、
そんなわけで、今さらですが『Yの悲劇』を読むことに。

ニューヨークでは有名な、頭のおかしい一家という意味で有名な
「ハッター家」のひとり、ヨーク・ハッターが水死体になって発見
されます。
ヨークの妻でハッター家の中でも悪名高いというか、この家の中で
もっとも「頭のおかしい」エミリー夫人は、夫の死にこれといって
悲しいそぶりもみせず「あ、そう、死んだの」くらいの態度。

ヨークとエミリーのあいだには1男2女の子どもがいて、長女の
バーバラは詩人、ハッター家にあって唯一“まとも”とされてい
ます。長男のコンラッドは、マーサとのあいだに2男をもうけま
すが、母の頭のおかしさを色濃く受け継いだように、常に酔っ払い
評判は悪く、次女のジルも兄に負けず劣らず評判が悪い、といった
ところ。

そしてこの家には他にも、エミリーが前夫(ヨークとは再婚)との
あいだに生まれたルイザ・キャンピオンという、耳と目が不自由な
女性がいて、そのルイザの住み込み看護婦、家政婦と夫、コンラッド
の子どもたちの家庭教師がハッター家に住んでいます。

こんなハッター家で事件が。ルイザが飲もうとしていた卵酒の中に
毒が仕込まれていたのです。ルイザはそれを飲むことなく無事だった
のですが、コンラッドとマーサの子どもジャッキーが悪ふざけで飲み、
ゲエと吐いてしまって、毒が混入していたことが分かったのです。
何者かがルイザを殺害しようとしている・・・?

警視は、元俳優で探偵のドルリイ・レーンにこの事件の捜査協力を
依頼。ヨークの死からルイザの殺害未遂といった中、なんとエミリー
が殺されてしまうのです・・・

凶器は、楽器のマンドリン。犯人はこんなものでエミリーの頭を殴り、
それが直接の死因ではなかったにせよ、なぜ部屋の中には暖炉の火かき
棒など殺傷力のある凶器もあったのにマンドリンなのか。
そして、部屋の床じゅうに巻かれたパウダーのため、誰かが歩いた足跡
が。その靴の型からコンラッドの靴と判明はしたのですが彼にはアリバイ
があり、ルイザのために用意された果物カゴの中には、家政婦が見たとき
には洋なしが2つしかなかったのに、現場には3つ。そのひとつを調べて
みると、毒が混入してあったのです・・・

どこまでも奇怪な事件。それを探偵レーンはひとつずつ解明していくの
ですが、ちょっと展開に強引さがあるにはありますけど、それにしても
あまりにも複雑な筋をスッキリと読ませる、収納の達人のような構成の
力には、さすがミステリの金字塔と評価されるだけのことはありますね。

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ジョン・グリシャム 『謀略法廷』

2012-01-15 | 海外作家 カ
グリシャムの作品は大好きで、他にもスコット・トゥローやリチャード・
ノース・パタースンといった、現役の弁護士で作家の書くリーガルサスペ
ンスを読むたびに思うのが、アメリカの裁判制度の功罪といいますか、
「そんなの自分のミスだろ」ということでも企業を訴えて、それがまた
驚くことに企業側がそんな「屁理屈」に負けて巨額の賠償を支払わされ、
しかし、極端な例はさておき、訴訟というのは、市民の持つ当然の権利
でもあって、それを考えると、多少のセクハラは目をつぶるのが「社会」
「大人」ってもんじゃないのかね、なんていう日本の風土は、よその国
を笑ってなんかいられない、と考えさせられるのです。

『謀略法廷』は、ミシシッピ州(グリシャムのホームグラウンドですね)
の架空の郡、架空の街で起こった、工場の汚染で、市民対企業の裁判が
はじまり、市民の勝訴、企業側は巨額の損害賠償の支払いをせよ、という
判決が出たところからはじまります。

ボウモアという小さな街にできた、クレイン化学という会社の農薬工場は
長年にわたって、有害物質をきちんと処理せずに、裏山の穴に捨てていて、
それが地下水に侵食、土壌、水質汚染はひどくなり、やがて市民の中から
がん患者が大量に出ます。

主人と子どもを相次いで亡くした未亡人、ジャネットはウェスとメアリの
夫婦の弁護士を立ててクレイン化学を提訴、クレイン化学の親会社である
トルドー・グループは全米屈指の大金持ちで、この裁判は5年におよび、
ウェスとメアリは破産寸前、銀行から金を借りてまで裁判費用を工面し、
ようやく判決が下りたのですが、相手側は上訴するのは分かりきっていて、
4,100万ドルという損害賠償はジャネットにも弁護士夫婦の事務所に
も入ってきません。

ニューヨークの高級マンションに住むトルドーはこの知らせを受けて怒り
狂い、会社の株価も自分のセレブリティ価値も急降下、こうなれば何が
何でも最高裁で逆転判決を出さなければならず、トルドーはマイアミに
飛び、あるコンサルタントの男に仕事を依頼。

そのコンサルタントとは選挙の工作で、ミシシッピ州の最高裁判所の判事
は、任期を終えるか任期途中で欠員が出た(亡くなったり)場合に、選挙
で投票して判事が決まるのです。
最高裁での判決は、今までに企業側に不利な判決が出た場合、その票は
たいてい5対4(判事は9人)になるケースが多く、つまり保守的な判事
とリベラルな判事はほぼ半々、そこで、保守系の判事を当選させることが
狙いとなるのです。
そして、コンサルタントは巨額の選挙資金をバックに最高裁判事の選挙に、
ある男を立候補させるのですが・・・

ウェスとメアリは事務所に仕事が入ってきて、小額ですが銀行の借金を
返していきます。しかしそこにもトルドーの悪企みが入ってきて苦しめます。

ジャネット側が勝てば、勧善懲悪でめでたしめでたし、トルドー側が勝てば
こんなにつらい話はないですね。
しかしそこはさすがグリシャム、どちらの結末にしたのかは読んでのお楽しみ
ですが、久しぶりに震えが来るくらいの上質な構成です。
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パトリシア・コーンウェル 『業火』

2011-12-28 | 海外作家 カ
バージニア州の検屍局長、ケイ・スカーぺッタのシリーズ9作目『業火』
では、シリーズ5作目から出てきた殺人鬼ゴールトと、そのパートナー、
キャリー・グレセンとの最終対決になります。

いちおう前作ではゴールトはニューヨークで追い詰められ、地下鉄に轢か
れて死亡、キャリーも逮捕されますが、死刑にはならず、犯罪者精神医学
センターという施設に入れられます。

そして『業火』の冒頭ですが、ケイの自宅にキャリーから手紙が届くところ
からはじまります。しかしその内容は分かる部分もあり意味不明な部分も。
何よりも心配なのは、かつてキャリーはFBIに所属していて、アカデミー
でケイの姪、ルーシーと同性愛の仲になっていて、その後キャリーはFBI
を辞め、ルーシーも同性愛の中傷などもろもろあって辞めて、現在は、同じ
政府の機関ですがATF(アルコール、タバコ、火器局)に勤務していて、
そのルーシーに危険が及ばないかと不安。

リッチモンド市警察の警部、マリーノにも報告し、今は恋人“同然”となった
元FBIの心理分析官のベントンといっしょに休暇に旅行へ行くはずでしたが
キャンセル。しかしベントンにとっても、何せ手紙にはベントンのことが書い
てあるわけですから他人事ではありません。

とりあえず別行動のほうがいいと、ベントンは旅行へ。そしてケイとマリーノ
は、ATFからの要請で、新聞社オーナーで馬主でもあるケネス・スパークス
の自宅の火事の捜査と検屍に出かけることに。

そこでルーシーと会い、現場の捜査のなか、キャリーからの手紙を知らせます。
現在ルーシーはワシントンで恋人のジャネットといっしょに住んでいて、キャリー
はそのアパートの住所は知りません。

さて、ケネスの自宅の火事ですが、家主のケネスはロンドンへの出張のため
留守にしていたため無事、しかしバスルームには女性の焼死体が。
出火原因がわからず、しかし死体の燃え方は強く、バスルームのは火元となる
素材も見つからず、これは事件性が強いということに・・・

そんな中、なんとキャリーが脱走したというのです。精神医学センターは陸地
から一本の橋のみで行き来できる島にあり、もちろん橋には警備がいるはず
ですが、どうやって脱走したのか分からず。そしてキャリーは、自分は正常な
のに精神病にされて死刑にされそうだ、といった手紙を全米の主要メディアに
送りつけ・・・

基本的には勧善懲悪といったかたちをとってるシリーズものは、小説にせよ漫画
にせよ、回を重ねていくほどその「敵」がパワーアップしていて、最終的には
人間レベルを超えた敵になっていく、というのはよくありますが、今回もキャリー
が脱走したというのは、後にその方法は説明があるんですけど、それにしても
「キャリーは容易に他人を操れるから」という理由なのが、ああ、検屍官ケイ
シリーズもそうなのか、という気持ち。

ケイとマリーノも、シリーズ1作目の時点でけっこう設定年齢が高めだった
ので、お互いすでに「あと数年で定年」くらいの年に。
暴飲暴食をやめないマリーノ、それを心配するケイという関係は変わりません。

この『業火』で、次回のシリーズから、内容がだいぶ変わってくるような、
驚くべき、悲しい、あまりにも惨い展開が。いつかそうなるだろうとは覚悟
してましたが、まさか9作目でとは。

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ゲーテ 『若きウェルテルの悩み』

2011-12-01 | 海外作家 カ
手塚治虫先生の「火の鳥」未来編で、猿田博士が人造生物を作
ろうとして培養液の中でサルとヒトの中間みたいな生物ブラド
べリィが、この本を読んでいました。しかしブラドべリィは培
養液の外に出るとたちまち泡となって死んでしまい、そのとき
猿田博士は「わしも若い頃これを読んで情熱をかきたてたもん
じゃ」そういったことを呟くのです。

という記憶が片隅にあって、いつか読もういつか読もうと思い
つつ、ようやくです。

もはやあらすじ説明の必要はないほど有名ですが、まあ簡単に。
舞台は18世紀ドイツ、青年ウェルテルが、とある田舎街で、と
ても美しい女性シャルロッテ(以下ロッテ)を紹介されますがロッテ
は婚約中。
はじめこそ、趣味や価値観などで仲良くなるのですが、ウェルテルは
ロッテへの想いは募るいっぽう。そんな恋心は隠して、ロッテの婚約
者であるあるベルトとも交際をします。

といった内容を、どこか遠くに住むウェルテルの親友、ウィルヘルムに
手紙を送るのです。構成的には書簡形式になっていまして、人の妻
を愛してしまって、どうしようもなくなって最終的に自殺してしまう
のですが、本が全体の3分の1くらいになって突然「編者から読者へ」
と、編者という人物が、ウェルテルがウィルヘルムに宛てた手紙、
ロッテに宛てた手紙を補足説明しつつ話を進めていきます。

こういう構成が当時としては画期的だったのかは、詳しく勉強している
わけではないので知りませんが、とにかく「え?」と驚きました。

それはさておき、この時代にしては、主人公が道ならぬ恋の挙句に
自殺する、という内容はかなりセンセーショナルでショッキングだった
そうで、これをきっかけにヨーロッパ各地で自殺者が増えたそうです。
まあ賛否両論はあったそうですが、ドイツで発行されるやいなや大ヒット
、他の言語に訳されてヨーロッパじゅうでも大ヒット。

若いときに燃えるような片思い(両想いでもいいですけど)をして
その恋が終わって、ああもうだめだ、明日が見えない、なんて思った
ことはあるでしょう。しかし、実際に暴走してほんとに自殺して
しまった人のほうがむしろ少ないでしょうから、思春期の葛藤は普遍
なんでしょうけど、共感、というのはちょっと違いますね。

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ディーン・R・クーンツ 『ウィスパーズ』

2011-11-09 | 海外作家 カ
文春文庫の青い背表紙のクーンツ作品は、大ヒットして映画化されたり、
クーンツファンでも、一番の名作に挙げる作品が多いのですが、あとがき
を読んだりすると、それ以前にハヤカワなどから日本国内で翻訳出版され
た作品のなかに、「ファントム」と、この『ウィスパーズ』が、傑作、こ
れでクーンツはそれまでのB級ホラーから一段階ステップアップのきっか
けになった、と説明されているのです。

で、「ファントム」は先日読んで、それ以前の「B級」時代の作品をあま
り読んでいないので比較のしようがないのですが、確かに面白かったこと
は面白かったです。
そして、作家クーンツが化けることになった『ウィスパーズ』。

のっけから、ハリウッドの豪邸にひとりで住む、売れっ子女性脚本家が
前に取材に訪れたことのあるワイナリーの経営者に殺されかけます。
脚本家のヒラリーは、家のカギをどこかに落としたことを思い出します。
それは、ワイン工場だったのです。そのカギを、社長のフライが拾って、
ワイン畑のあるカリフォルニアの田舎からハリウッドまでやって来て、
なんとヒラリーを殺そうとするのです。

しかし、ヒラリーにとっては、まったく身に覚えがなく、恨みを買った
記憶もありません。なんとかフライを追い出すことに成功するヒラリー。
さっそく警察に電話をかけます。
ところが、現場に駆けつけたトニーは優しく話を聞いてくれるのですが、
パートナーのフランクは疑いのまなざし。そして、警察から、ナパバレー
にあるワイナリーの経営者、フライ氏は、ヒラリーの襲われた時間には
家にいたと地元保安官は聞いた、というのです・・・

フランクは、狂言だと決めつけますが、トニーはヒラリーに心惹かれて
しまったせいか、まったく嘘とは信じられません。
フランクとトニーは、重罪を犯したのに刑期が軽く、つい最近出所した
ばかりのある凶悪犯の行方を追っていて、その捜査の途中、またヒラリー
が襲われたと・・・

フライは、警察がヒラリー邸から出てからしばらく街中を車で流して、
頃合いをみて、ふたたび襲いに向かったのです。しかし今度は、ヒラリー
の持つナイフでフライは腹を刺されます。
なんとか逃げ出し、道端の公衆電話までたどりつき、フライはどこかへ
電話します。その話し相手とは・・・

ヒラリーが取材をした時には、温厚で紳士的だったフライは、なぜか
金髪の女性を見ると、殺意を覚えるのです。何かトラウマを植え付けられた
女性が、死んでも生き返ってくると脅され、それを信じているフライは、
ヒラリーをその女性の生まれ変わりだと思い、殺そうとするのですが、
はたしてその女性とは・・・
そして、フライの記憶の奥にある「ささやき」とは・・・

ヒラリーの幼少時代の恐怖、刑事、トニーとフランクの過去、これらの
描き方が物語に幅を持たせて、たんなるホラーではない、アクションも
ロマンスもあり、人間ドラマの部分も持っていて、なるほど、のちの
一連のクーンツ作品の特徴といいますか、主筋の邪魔になることなく
話題をほどほどに詰め込んで、かといってスピード感を失わない運び方。


今まで、怖くて夜中ひとりでトイレに行けなくなった、という経験をした
のは、鈴木光司「リング」を読んだときでしたが、『ウィスパーズ』は、
読んでる途中で、何度吐き気を催してきたことか。

フライが金髪の女性を恐れるようになった理由、そしてフライの頭にこび
りつく「ささやき」の正体を知ったら、ちょっと数時間は食欲が失せます。
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パトリシア・コーンウェル 『スズメバチの巣』

2011-10-06 | 海外作家 カ
この作品は、コーンウェルの大ヒット作、検屍官ケイ・スカーペッタ
のシリーズではなく、警察小説で、舞台もおなじみのリッチモンドで
はなく、こちらはシャーロット。まあどちらもアメリカ東部には違い
なく、しかもどちらも治安が良いというイメージはありません。

で、このシャーロット市とタイトルの「スズメバチ」との因果関係
を文中で軽く触れています。なるほど、シャーロットが本拠地の
バスケットボールチーム(ホーネッツ)もハチですね。

話の主軸となっているのは、シャーロット市警察の美人で独身の
署長補佐ヴァージニア・ウェストに、署長(こちらも女性)の
ジュディ・ハマーから、“ある人物”とパトロールの同行をして
ほしいと頼まれます。その人物とは、市内の新聞(オブザーバー)
誌の警察担当記者アンディ。

これには、署長、オブザーバー誌の経営陣、さらに市長の意向が
あるようで、要は(警察のイメージアップ作戦)のようなもの。
というのも、ここ最近で、シャーロットに仕事で訪れたビジネス
マンが立て続けに殺害されるといった事件があり、しかもこれら
のに共通しているのが、人影の無いところの車内で殺されている
のです。そして、死体の股間にオレンジ色のスプレーで謎のマーク
が・・・

ところが、この連続ビジネスマン殺しの犯人探しは主軸となって
はおらず、もっぱらヴァージニアとアンディの、はじめは反りが
合わずギクシャクしていて、そのうち理解し合うようになってい
く、そういった関係、ヴァージニアとアンディそれぞれの家族の
問題、それからハマー署長の家族問題も、あとはその他の人物と
の複雑な人間関係といったところに重点が置かれていて、つまり
これはミステリーやサスペンスと期待して読み始めたら「あれ?」
と肩透かしをくうことになるので、あらかじめそうではないと
知っておいたほうが良いですね。

ビジネスマン連続殺人の犯人、その捜査過程その他諸々、まあ
ずいぶんアッサリと描いていて、やや物足りない感はありますが、
あとがきによると、この作品もシリーズになるようで、第1作は
あくまで顔見せ的スタンスなんだとか。

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ディーン・R・クーンツ 『ファントム』

2011-10-02 | 海外作家 カ
我が家の書棚(翻訳本エリア)には、クーンツがけっこう
増えてきたんですが、青い背表紙の文春文庫が多く、この
『ファントム』はハヤカワで、文春時代が傑作が多いと
クーンツファンは言うのですが、この『ファントム』は、
間違いなく(傑作)に入りますね。

両親を無くし、歳の離れた妹リサを引き連れて、勤務先の
スキーリゾート地、スノーフィールドへ向かう医師、ジェニー。
しばらく会ってなかったので会話もぎこちない姉妹ですが
なんとか打ち解けようとします。

そして、スノーフィールドに着いたのですが、シーズン前
とはいえ、街はあまりに静か。静かを通り越して不気味。

診療所に入ると、いつも出迎えてくれるはずのお手伝いの
女性がいません。奥に行くと、女性の惨殺死体が。仲の良い
近所の家でも、パン屋でも、住人が殺されています。

分署に向かうと、保安官はいなく、無線機は破壊されています。
どこかの気のふれた奴の仕業なのか、様子をうかがうと、姉妹
は、不思議な“影”のようなものに見られているような気が
します。

なんとか通じている電話を見つけ、警察に電話をします。
500人からの住人が消えた、あるいは殺されたという怪事件
に、保安官は、放射能、細菌兵器、あらゆる疑いをかけて、
米軍の生物化学課チームの派遣を要請。

警察が到着し、姉妹といっしょに街の様子を見てまわっている
と、警察の1人が突然消えて・・・

はたして、街の住人はどこへ消えたのか、誰に殺されたのか。
誰に、ではなく、何に・・・?

とても恐ろしいです。「見えない敵」の心理的恐怖がじわり
じわりと読み手の本を持つ手を震わせ、まさにホラー。
でもただのホラーではなく、人間模様もしっかりと描いていて、
幅と奥行きを持たせています。

途中で出てくる暴走族のリーダーと、殺人犯。何か関係あるの
かどうか、まったく関係ないのか、そういうサイドストーリー
と本筋との絡ませ方も面白いですね(最終的にこのふたりは
かなり関係してくるのですが)。

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パトリシア・コーンウェル 『接触』

2011-08-06 | 海外作家 カ
この「検屍官」シリーズも、『接触』でようやく8作目を
読み終えたことになるのですが、じっさいにはまだまだ
続いているので、先は長いです。

基本設定としては、バージニア州の検屍局長のケイ・スカー
ペッタ(弁護士の資格も持つ)と、リッチモンド市警察警部
のピート・マリーノがコンビを組んで難事件を解決、はじめ
は男尊女卑のかたまりであったピートは、上役にあたるのが
女性で、ケイにあからさまな敵意があったのですが、徐々に
パートナーとしてお互い敬意を持つようになります。
そこにたびたび登場するのがFBIのベントン・ウェズリー。
ロンドンで爆破テロに巻き込まれて死んだケイの最愛の人、
マークの親友だったベントンは、ケイとお互い惹かれあうよう
になりますが、ベントンは妻子持ち、そしてそんなふたりの
仲が面白くないピート。
ケイの姪ルーシーはコンピュータの天才で、現在はFBIに
勤務。

ゴミの処分場から出てきた、手足と首から上の無い、胴体だけ
の死体。これに似た事件が、10年以上前にアイルランドで
起こっており、ケイはアイルランドへ飛び、調べてみることに。

検屍をして、遺体の身元が分かれば一気に事件解決に近づくの
ですが、胴体だけでは難しく塞がっていたところに、ケイ宛に
一通のメールが。送り主はdeadoc(死のドクター)という名前
で、そこには切断された手足の画像が・・・

胴体には、伝染病と思われる“できもの”があり、それが何か
特定できなかったのですが、チェサピーク湾に浮かぶ住民400
人ほどが暮らす小さな島で、天然痘らしき病状で死んだ老婆が。
その体を見てみると、あの胴体だけの遺体にも似たような症状
が・・・

今回は、ただでさえ薄気味悪い犯行で、犯人像もまったく見えず、
そんな中にあってさらにケイが伝染病に感染にた疑いで緊急隔離
されてしまったり、捜査をジャマする刑事が出てきたり、相変わ
らずルーシーは悩み多く、ベントン、ケイ、ピートの熟年三角関係
は・・・もうちょっとネタを絞っても良かったんじゃないの、と
思うくらい、てんこ盛り。

最後に、マークへの思いに整理をつけるために、事故現場に訪れた
ケイは、ベントンから衝撃的な事実を聞かされます。それが次の
シリーズにどう影響していくのか、楽しみ楽しみ。
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