晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

真保裕一 『アマルフィ』

2018-11-10 | 日本人作家 さ
この作品は、映画化されたと記憶していて、たしかその時に
作者の真保裕一さんが「俺の名前をスタッフロールに入れて
くれるな」とかなんとかあったような。

さて、物語は、黒田康作という外交官が主人公。

冒頭、黒田はギリシャに。なぜギリシャにいるのかというと、
ある環境保護活動団体を追っています。ギリシャで行われる
環境会議で派手な抗議活動やデモを計画していて、その中に
日本人がいるということで、本来は外交官に捜査や逮捕の権
限はないのですが、違法で入国している日本人を地元の警察
に告発する権利はあるということで、団体の船に乗り込んで
捕まえて地元警察に引き渡します。

この黒田の肩書は「特別領事」という、テロ対策・邦人保護
のスペシャリスト。そんな黒田の携帯に、事務次官の片岡か
ら電話が。外務大臣がイタリアに外遊に行くので、ただちに
イタリアへ向かってくれ・・・

黒田がイタリア大使館に着いて早々、火炎瓶が大使館内に投
げこまれます。ギリシャで捕まえたような過激な環境保護の
団体が日本とイタリアが共同開発する天然資源の掘削事業の
妨害のためにやったのか。

また問題が。母親と旅行に来ていた9歳の女の子が行方不明
だと旅行会社から連絡が来ます。火炎瓶の件は別の職員に任
せて、黒田は安達という女性職員と母子の宿泊先のホテルに
向かいます。

母親は矢上紗江子、34歳。娘の名は(まどか)。

観光を終えてホテルのロビーに戻り、娘がトイレに行くとい
って突然消えたというのです。防犯カメラを見せてもらった
のですが、娘の姿は見当たりません。
すると紗江子の携帯に娘から電話が。

相手はイタリア語で「娘は預かってる」と言います。電話を
変わった黒田はイタリア語で話すと相手は「10万ユーロを
明日の朝までに用意しろ」と要求。

こういう場合、大使館としては、地元警察に通報するか相談
します。その国の警察のレベル、つまり本気になって捜査し
てくれるかどうか。マスコミがかぎつければ騒ぎが大きくな
る可能性も。しかし通報せず身代金さえ払えば人質は解放さ
れるというケースも少なくありません。
娘の身の安全を考え、紗江子は警察に通報はしないことに。

ここで黒田は紗江子が外資系銀行の東京支店に勤務している
ことを知ります。
しかし、そこにイタリアの警察が到着し「娘が誘拐されたと
いう日本人はどこですか」と・・・

どうやらホテルが通報してしまったようで、仕方なく黒田は
紗江子を大使館へ連れて行きます。そこに犯人から電話が。
金を持って、翌朝10時15分ローマ発ナポリ行きのユーロ
スターという高速鉄道に乗れ、と。

紗江子はこのチケットを持っているのです。聞けば、娘もこ
のチケットは持っているはずで、イタリア南部のリゾート地
のアマルフィに行く予定だったのです。
黒田もチケットを買い、現金10万ユーロを持ってナポリへ、
そしてアマルフィに向かったのですが、地元警察の失敗で取
引は失敗してしまい・・・

まどかは無事戻ってくるのか。行く先々で紗江子の行動がま
るで監視されてるようなのはなぜか。犯人の目的とは。

常々、フォーサイスやダン・ブラウンのようなアクションミ
ステリの日本版を読みたいと思ってはいるのですが、日本を
舞台に、あるいは日本人を主役にするとどうしても不自然感
が拭えないといいますか。
しかしこの作品(「外交官シリーズ」というシリーズになっ
てるんですね)はそこらへんの不自然はあまり感じられず、
楽しめました。

が、

この誘拐犯グループの犯行の主目的というのが、まあなかな
かヘビーなテーマでして、それとこの物語の雰囲気というの
がちょっとアンバランスと言うか、なんか急に場違いなの持
ってきちゃったなあという感じでした。
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笹沢左保 『花落ちる 智将・明智光秀』

2018-06-02 | 日本人作家 さ
笹沢左保さんの作品は何を隠そうこれが初めて。

まあそこまで大げさなカミングアウトでもありませんが、
「そろそろ読んでもいい頃」だなと思ったんですね、な
んとなく。

この作品は、本能寺の変、三日天下でおなじみの、明智
光秀の歴史小説。歴史の教科書に出てくる史実のみでこ
の人を評価すれば「主君を殺した裏切り者」となるので
しょうが、まずこの評価は戦国時代というバックグラウ
ンドを考慮に入れてではないということ。じゃあ信長は
裏切りをしなかったのか?この時代の武将は大なり小な
り裏切りでもしなければ生き残ることは困難。

いずれにせよ、起きてしまったことはどうしようもない
ので、本能寺の変から天下統一のバトンは秀吉に渡され、
その後アンカーの家康がゴールインしたのは、そうなる
ようになっていたのです。

信長をメインに描くと、どうしても光秀は「のちに謀反
を起こすヤツ」という描き方といいますか、その伏線を
人物に盛り込んでしまい、例えば「知恵は回るが、戦は
からきしダメ」といったような。
これは光秀が茶の湯や歌などにも通じていたことで彼に
「教養豊かな知識人=ひ弱なイメージ」を持たせようと
すればできます。
ですが、実際には優秀な武将で、丹波の攻略の最中にも
ほかの戦の援軍に出て行ったりもしていることから分か
るように、信長は武将としての光秀をけっこう頼りにし
ていました。

そしてなにより、信長の部下としての最大の功績はとい
えば、将軍足利義昭とのセッティング。まあこれが彼を
「智将」と呼ぶにふさわしい部分かなと。

この小説は、明智光秀ともうひとり、名倉助四郎という
人物を中心に書かれています。
架空の人物で、設定は、もともと光秀に恨みを持つ敵方
で、僧に化けて光秀に近づきます。すると光秀は、別に
おれのこと殺してもいいよ、抵抗もしないよと言います。
助四郎はこれで復讐心が消え、光秀に仕えることに。

光秀は助四郎を側に置くようにして、ふたりだけになる
と、心の内を話します。

本能寺の変の数年前、佐久間信盛、林道勝というふたり
の信長の家臣が追放されます。佐久間信盛に関しては、
いくら信長の父親時代からの家臣とはいえ、あまりにも
「使えない」ということだったのですが、林道勝は、こ
ちらは信長の父信秀が二十年以上前に亡くなった時に家
督争いで道勝は信長の弟を推挙したのが許せんという、
急に思い出したから。気まぐれ、思いつき。
これは部下からしたら、たまったものではありません。
韓国の財閥のナッツ姫だの水ぶっかけだのと同レベル。

さらにちょうどこの頃、足利義昭は、信長のおかげで、
将軍位に返り咲けたというのに、他の武将に信長討伐の
手紙をせっせと送っていて、これにキレた信長はもはや
用無しとばかりに義昭をポイ捨てします。
ここで問題が。義昭との会談開催の尽力者は光秀。しか
し、もう信長にとって足利将軍という権威は用済み。
こうなると次に追放されるのは・・・

ここで信長の人物像。この小説では「信長は(変人)で、
変人というのは自意識過剰タイプ。ただ陰性の変人は殻
の中にこもって自己満足させてるだけだから問題ないが、
信長は陽性の変人で、自己過信、自己中心、自己顕示、
つまりエゴイスト」と、後世の評価では非常に革新的な
やり方で(建設のための破壊)だというが、それは結果
の判断にすぎない、と。
先人が用いた流儀は踏襲したくないので、他人の力を頼
りにしない。誰にも頼らないということは誰も信じない。
自分以外の他人は敵と認定して殺すか従わせるかの二択。

馳星周さんの小説で登場人物が「狂った世の中で、一番
狂ってるやつが一番マトモ」というのがとても印象に残
っていますが、まあ戦国時代はどう考えても狂った時代
で、その中で一等賞になろうという人は狂気が無かった
ら無理だったでしょう。
そう考えると、彼のやった「悪魔の所業」として有名な
比叡山焼き討ちや、荒木村重の家臣たちの女房子どもら
五百人以上を焼き殺したことも納得できなくもないので
すが、いずれは天下人になる人がこれでは遅かれ早かれ
しっぺ返しが来るわけで、これが本能寺の変だったので
しょう。

こんな状況で、光秀の心中に芽生えてきたものとは自分
が天下を取ってやるという欲だったのでしょうか。

本能寺の変があってのち、当然ですが「主君の仇」にな
り、信長の家臣たちは光秀討伐に向かいます。いちおう
光秀にも勝算のプランというものはあったのですが、そ
のすべてが裏目裏目に出てしまいます。
光秀は助四郎にある命令を出します。それは「もう帰っ
てこなくてよい」というものだったのですが、はたして
助四郎は・・・

会社の業績が良ければ、周りはトップを「カリスマ社長」
などと褒めそやします。スポーツでもそうですね。
ですがふたを開けてみたらセクハラパワハラ何でもアリ
というのはよくあること。
信長も、なまじ戦の能力が優れていたばかりに天下取り
の一歩手前まで行きましたが、では彼が幕府を開いたら
その後どうなっていたのか。

過去は振り返らないという未来志向もけっこうですが、
過去から何も学ばない人はかえって未来に盲目なのです。
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佐藤雅美 『槍持ち佐五平の首』

2018-05-22 | 日本人作家 さ
だいぶ間をあけての投稿となってしまいました。

というのも、今月に入ってから、やたら眠くて、
だいたい夜の7時ごろ夕飯を食べて、それから
なんだかんだで9時ごろにはもう布団に入って
そのままスヤーといってしまいます。

読書タイムは基本的には就寝前の1時間ぐらい。
本が面白くてどうしようもないときには2時間
や3時間になってしまうこともありますがここ
しばらくは読書タイムが取れないので、移動中
や病院での待ち時間にちょこちょこと読む程度。

ま、そんな個人的な話はさておき、佐藤雅美(
まさよし)さんの作品ははじめて。

この作品は時代小説の短編集で、簡単にまとめ
てしまえば全部いやーな話。
全編、江戸時代の武士の陰湿な、狡猾な部分を
描いていて、江戸時代はいい時代だった、武士
はみんないい人、そんな風に思ってる方には逆
な意味で「面白い」作品だと思います。

ある旗本の娘の嫁ぎ先を探すために旗本家の用
人が奔走し・・・という「小南市郎兵衛の不覚」。

陸奥相馬藩の家来は参勤交代の宿を予約します
が、あとから格上の会津藩が宿を横取りしてき
て・・・という表題作の「槍持ち佐五平の首」。

江戸末期の旗本、近藤重蔵という人物記の「ヨ
フトホヘル」。このタイトルは、近藤がかつて
蝦夷地取締り役だったことを、当時のスター、
太田南畝が「近藤はじつはロシアの回し者で、
酔うと吠える(ヨフトホヘル)という」と付け
た、とか。

幕府の御役「小普請組組頭」に入った新入りに、
先輩が陰湿な嫌がらせを・・・という「重怨思の
祐定」。

先輩の夜食のお粥に灯油を入れたというなかなか
ブッ飛んだ矢部駿河守定謙を描いた「身からでた
錆」。

とにかく見栄っ張りな津軽藩の当主、右京太夫が
息子に(よかれ)と思ってしたことが・・・とい
う「見栄は一日 恥は百日」。

農家の嫁に乱暴し、それを止めに入った亭主の腕
を刀で斬ってしまった大名、井上河内守正甫の話
の「色でしくじりゃ井上様よ」。

天保の改革でお馴染み水野忠邦が家来に水野家の
家譜編纂を命じたところ、八代目当主の忠辰とい
う人物が「十四歳で家督を継ぎ、二十九で病を得
て卒す」とだけで、詳しく調べると座敷牢で亡く
なったことが分かり・・・という「何故一言諫メ
クレザルヤ」。

井上河内守の話は池波正太郎さんの短編に架空の
大名としてありましたね。
この作品に限らず、江戸時代の幕閣あるいは大名
家の権謀術数、または末端武士の悲劇などはよく
書かれてきましたが、この『槍持ち佐五平の首』
の読後の「やりきれない」感はなんともいえず、
強烈です。
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真保裕一 『ダイスをころがせ!』

2018-04-14 | 日本人作家 さ
真保裕一さんの作品はけっこう好きです。なぜ「けっこう」
なんて言葉をチョイスしたのかというと、まだ5作品しか
読んでないのに好きだファンだいうのはちょっと。

真保裕一さんといえば江戸川乱歩賞でデビュー、「ホワイ
トアウト」が映画化され一躍有名に、ということでミステ
リ、サスペンス、アクションといった作風なのかと思いき
や、前に読んだのは、ミステリではありながらもコメディ
タッチで、幅が広いなあと感心したものでした。

さて、この『ダイスをころがせ!』は、選挙小説です。
選挙とはいっても、特に堅苦しくはありません。それどこ
ろかミステリ要素もあります。

会社を辞めて妻と子に出ていかれた駒井健一郎。再就職先
を探しにハローワークに行った帰り、偶然に高校の同級生
の天知達彦が声をかけてきます。話を聞けば天知も勤めて
いた新聞社を辞めたのです。なんと達彦は次の衆議院選挙
に出ようかと思ってると言い出し、さらに、健一郎に達彦
の選挙活動を手伝ってほしいとお願いします。街中で偶然
再会したというのはウソで、じつは達彦は健一郎が就職活
動中だというのを噂に聞いていたのです。

ところがこのふたり、高校時代に女性関係でちょっとした
揉め事が。しかし卒業してからもう10年以上、お互いに
34歳といい年で人生経験もそれなりに積んでいます。

立候補はふたりの地元の静岡県秋浦市の選挙区から出馬し
ようと考えていますが、そもそも立候補しようと思った
きっかけは、市の公共事業である疑惑があり、それを追求
しようと健一郎は新聞社を辞めたそうなのですが、じつは
その秋浦市の公共事業というのは達彦が前にいた会社での
プロジェクトだったのです。

はじめは老人ホーム建設の計画だったのですが計画は中止、
代わりに大規模な再開発になったのです。達彦は中止の責
任を取らされ子会社に出向させられる前に辞表を出します。
で、この老人ホーム建設が中止になるとスクープ記事を出
したのが健一郎でした。

それからなんだかんだで結局達彦は健一郎の(秘書)にな
ります。実家に戻っている妻と子とはまた一緒に住みたい
と思っていますが、就職活動どころか友達の選挙の秘書と
はフザケルナといったところ。
ですが、一応給料は健一郎の少ない貯金から出してくれる
し、選挙が終わるまでという期間限定でなんとか許しても
らいます。

地元に戻ったふたり。無所属で立候補の予定なので選挙の
お手伝いは基本的にかつての仲間たち。知名度も無ければ
カネも無し。はたしてどのように戦ってゆけばいいのやら
・・・。

天知達彦は、祖父が静岡県知事だったのですが、戦時中に
突然辞任し、その理由を誰にも告げないまま亡くなります。
どうやら建設会社との癒着があったという噂なのですが、
それを明らかにしたいというのも立候補したきっかけのひ
とつでした。

どうにかこうにか形は整ってきて、この時点でまだ衆議院
は解散してないので、当面は「政治活動」をしていこうと
するのですが、駅前で街頭演説をしはじめると、2日目に
いきなり「汚職知事の孫が・・・」などというビラがまか
れます。その後も嫌がらせはエスカレートし・・・

次の衆院選に出馬予定の政治活動と並行して市の再開発の
問題を調べていくのですが、はたしてどのようなカラクリ
が出てくるのか。
さらに、高校時代に達彦と健一郎が揉めることになった、
同級生のサキ。どうやら彼女は秋浦に帰ってきていて、
健一郎と会っているのか・・・

文中で、選挙というのは、当選させて国会に送り込んで、
地元に補助金や公共事業という名の五穀豊穣を祈るお祭り
なんだ、というのがあって、たしかにそう考えると、選挙
でやたら楽しそうな人がいますが、祭りの血が騒ぐという
のもあるのでしょうが、なるほどそっちの一面もあるの
かと腑に落ちました。
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佐伯泰英 『夏目影二郎危難旅(二)代官狩り』

2018-03-21 | 日本人作家 さ
このシリーズの第一巻「八州狩り」はついこの前読んだ
ばかりですが、そもそもまだ「吉原裏同心」シリーズの
途中なのになぜ別のシリーズものを読んでしまったのか
といいますと、たしか裏同心の12巻を買いに行ったら
無くて、それで別のシリーズを買ったんでした。

でもこの投稿の3つ前に裏同心の12巻を投稿していて、
それでまたこの「狩り」シリーズということは、察しの
いい方ならお分かりだと思いますが、「裏同心」13巻
を買いに行ったら無かった、ということですね。

それはさておき、軽く説明しますと、主人公の本名は、
夏目瑛二郎といいまして、大身旗本の妾の子として生ま
れ、実母が亡くなり本宅に来るも義母にいびられ無頼の
道へ。ですが剣術は免許皆伝の腕前・・・と、どこかで
聞いたようなことがあるような気もしますが、女性を
めぐって十手持ちを殺してしまい遠島の罪となりますが、
そこに瑛二郎の父親が来て、勘定奉行である父の隠密
になってくれるなら釈放してやる、と・・・

かくして夏目(影)二郎は、密命の旅へ。

前作では、関東取締出役「八州廻り」の腐敗を成敗しに
出かけ、道中では国定忠治や二宮尊徳らも登場。

深川の悪所である「極楽島」で、勘定奉行の役人が死体
となって発見されます。尾藤という役人は、この極楽島
で何者かを見つけ、それが殺される原因となったような
のですが、さっそく聞き込みに向かった影二郎は、尾藤
の幼馴染みだという女性に話を聞いていると、彼女の猫
の首輪からなにやら紙が。そこには代官と郡代の名前が。

不正の疑いがある三人の代官、郡代を調べに中山道へ。
それとは別に、浜西という新任の八州廻りが行方不明
になっているのでそちらの調査もするのですが、浜西
は八州廻りの管轄外である信州に来ていたのです。
浜西はどうやらアヘンの密売を調べていたようですが、
そこに加賀藩が関係しているようなのです。
参勤交代で国許に戻る加賀藩の行列を追う影二郎です
が、そこに僧衣の暗殺集団が・・・

影二郎の旅の供は、犬の(あか)。さらに今作では、
浅草の水芸をする女芸人(おこま)もいっしょですが、
どうやらこの女芸人は勘定奉行である父の命で影二郎
に同行しているような・・・

このシリーズの時代は江戸末期の天保年間で、あと数
十年もすれば江戸幕府は終わるのですが、もちろん当時
の人はそんなことは知りません。が、もはや江戸幕府は
破綻寸前、将軍おひざもとの江戸深川に「極楽島」など
というバットマンのゴッサムシティのような、吉原や
大名下屋敷の博奕よりもさらに過激な享楽の提供場所が
出来てしまう、といったもの。

日本に限らず古今東西、大変革のちょっと前はもはや
人間の浅知恵などではどうにもならない「時代のうねり」
のようなものが起こるのですね。
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鷺沢萠 『失恋』

2018-03-03 | 日本人作家 さ
何年か前、鷺沢萠さんの小説をまとめ買いして、
別に放置してるわけじゃないんですけど「そうい
えばまだ読んでないのあったっけ」と思い出し、
本棚の(日本人作家・サ)を見ると・・・
とうとうこれでまとめ買いした分は全部読みました。

タイトルからして、そんなに好んで読むジャンル
ではない恋愛系。いや、でも(失恋)といっても、
読まず嫌いはよくないよくない。

「欲望」は、悠介という男性と黎子という女性の話。
ふたりは大学からの友人で、友達以上恋人未満とい
いますか、悠介は映画のコラムなどを書いたりして
います。黎子はというと、大学時代の仲間で水島と
いう証券マンと結婚しますが、時はバブル全盛で、
水島は日に日に崩壊していき、ふたりは離婚します。
その後バブルは崩壊し、なんと水島は行方不明に。
そこで、方々から金を借りまくってるということが
分かりますが・・・

「安い涙」は、クラブのホステスの幸代の話。
高校卒業を待たずに田舎から上京し、そんな女の子
に満足な働き口などなく、水商売の道に飛び込み、
気が付けば三十代、店の経営も任され、とうとう
郊外にマンションを買っちゃいます。そんなずっと
張り詰めた生活の中・・・

「記憶」は、大学の博士課程の樹子の話。あるころ
から、医学部の政人と仲良くなりますが、ふたりの
関係は恋人なのか、政人にとって樹子は都合のいい
存在と周囲は思っています。それは樹子も分かって
いるのですが・・・

「遅刻」は、バーで出会った信吾と勢津子の話。
マニアックなウィスキーを知ってる勢津子に信吾は
ナンパというわけでもなく話しかけ・・・

昔からよく言われる「愛はまごころ、恋はしたごころ」
というやつ、つまり漢字の「心」の場所なのですが、
これ、じつによく言い当ててるなあと思いますね。

あとがきでも「失恋という言葉はあるけど(失愛)は
無い」と書いてまして、恋とは失う時点で有限のモノ
であって、(~してあげたい)というのは自分勝手な
欲望なのか?

ま、それは各自で考えていただくとして、冒頭に書いた
(恋愛小説は読まない)というのは、なんていうんで
しょうね、恋愛小説だと、男性作家の描く女性、女性
作家の描く男性というのに満足できたためしがないん
ですね。まあだからこそ恋愛小説はいつまでもあり続け
るんでしょうけど。
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佐伯泰英 『吉原裏同心(十二)再建』

2018-02-23 | 日本人作家 さ
当ブログでは、メインが「素人書評」ということですので
個人的なことを書くのは極力控えているのですが、この
「吉原裏同心」シリーズを読んでいて、ふと思い出すこと
が多いのです。

といいますのも、私の生家は昔吉原があった、今でいうと
東京都台東区千束ですね、町名でいいますと(隣の隣)で
して、今は(吉原)という住所は無く、ですが吉原公園や
吉原神社、見返り柳の石碑がある交差点の信号機には「吉
原大門」と看板があります。その交差点から小説で幹次郎
と汀女の夫婦が住んでる近くの五十間道になり、(大門跡)
があります。

それこそ、観光ツアーのイベントで花魁道中をやってるぐ
らいですから、アンタッチャブルな歴史というまでのもの
でもないのでしょうが、あの近くに生まれた者からします
と、ああいう職種の方たちを茶化したり見下したりの言葉
を見たり聞いたりしますと、とても悲しくなります。
これは憐憫とか同情とかではなく「白い目で見るのはやめ
ましょう」ってこと。

さて、火事で全焼した吉原ですが、公儀からは「五百日
までは仮宅商いを許可する」ということで、妓楼は浅草や
深川など方々で臨時営業をしていましたが、ようやく再建
となります。

まだ本格的に引っ越しのはじまる前、吉原に出向いた会所
の四郎兵衛と幹次郎は、ふたりの遍路を見かけます。稲荷
社に行ってみますと、風雨にさらされた地蔵が置いてあり
ます。その遍路を捕まえて聞いてみますと、火事で亡くな
った(小紫)という遊女の祖父と妹で、地蔵は弔いのため
に在所から持ってきたといい、さらにまだ幼い(おみよ)
という妹ですが、吉原で買ってくれ、というのです。

禿修業ということで、大籬の三浦屋で預かるということに
して、四郎兵衛は祖父の又造に三十両を渡します。

ところが、小紫がいた花伊勢という妓楼の主が、火事の後
に小紫を見た人がいるというのです。
小紫が火事で亡くなったというのは、池に沈んでた判別の
できない遺体が小紫の持ってた打掛を着ていたので亡くな
ったことになっていたのです。
小紫と仲の良かったお蝶という朋輩の馴染み客の大工が、
江ノ島で小紫を見かけ、向こうもその大工のことは知って
るはずなのですが、目をそむけて逃げたというのです。

聞き込みをしていますと、火事の中、湯屋で働いていた女
と小紫が話していたという目撃情報が。ということは、池
で見つかった小紫と思われる遺体はひょっとして身代わり
の遺体なのか。さっそく江ノ島に向かう幹次郎。そこで
驚きの情報が。なんと江ノ島に住むある女性宛に三十両
の為替が江戸から送られてくるというではありませんか・・・

こっちのトラブルが解決し、いよいよ吉原の再会、という
ときに、亀鶴楼という妓楼の主が、うちの瀧瀬という女郎
の命が狙われてると・・・

瀧瀬の元亭主というのが絡んでくるのですが、この元亭主
の名前が「剣客商売」に出てくる秋山小兵衛の友人の名で、
ちょっとびっくり。
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佐伯泰英 『夏目影二郎始末旅(一)八州狩り』

2018-02-11 | 日本人作家 さ
佐伯泰英さんの「吉原裏同心」シリーズはまだ読み終えて
いませんが、別のシリーズに手を出してしまいました。
とはいっても「裏同心」に飽きた、とかそういうあれでは
なく、11巻まで読んで、12巻を買いに行ったら無くて、
このシリーズの1巻を買ってきた、かような次第。

主人公の名は夏目影二郎。父親は幕府の勘定奉行、常盤豊
後守秀信。といっても秀信と女中の間に生まれたのが本名
瑛二郎。母が亡くなって秀信の本宅に引き取られるも義母
にいじめられ、無頼の道へ。それでも剣術の修業は続け、
鏡新明智流の桃井道場で師範代を務めるまでに・・・

どこかで聞いたことがあるような気がしなくもないですが、
それはさておき、影二郎はあることで十手持ち(岡っ引き)
を殺してしまい、普通なら死刑のところ、相手の(聖天の
仏七)というのも相当悪い男で、八丈島に遠島と決まりま
すが、牢屋にいた影二郎のもとに、父の勘定奉行、秀信が
やって来て、ある頼みを影二郎にします。

それは、勘定奉行の仕事のうちに、関東取締出役の差配、
というのがあり、上野、下野、常陸、上総、下総、安房、
武蔵、相模の現代でいう1都6県エリアに置かれた警察の
ようなもので、通称「八州廻り」と呼ばれ、そんな八州
廻りが権力を笠に着て私利私欲に溺れ腐敗しまくりで、
特に、上州にいる国定忠治という侠客が八州廻りと結託
して荒らしまわっているとのことで、もし罪状が明らか
ならその場で始末してきてくれ、という密命。

一文字笠を頭にかぶり、南蛮外衣という黒い長合羽(
信長が着てたやつですね)を身にまとい、(法常寺佐常)
という太刀を落とし差しにし、始末の旅に・・・

時代は天保七年(1836)、幕府の弱体化は明らかで、
追い打ちをかけるように大飢饉が。民百姓が飢え苦しん
でいるというのに、幕府は将軍に日光へ参拝してもらっ
て世の不安を取り除こう、と割とマジでこんな考え。
将軍が日光往復の旅でもすれば何千何万両という莫大な
費用がかかります。影二郎が関東を旅している最中に、
どうやら国定忠治は日光参拝途中の将軍を襲う計画を企
てている、という噂を聞いたのですが・・・

旅の途中、(あか)という子犬を拾い、旅の供に。
国定忠治は出てくるわ、二宮尊徳も登場し、水戸藩の学者
藤田東湖という藩主徳川斉昭の腹心、さらに伊豆韮山代官
の砲術家、江川英龍も出てきます。あとエピソードとして
大坂の大塩平八郎も。

このシリーズは全14巻。時代としてはあと30年で江戸時代
が終わってしまいますが、さてどうなるんでしょうか。
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佐伯泰英 『吉原裏同心(十一)異館』

2018-01-17 | 日本人作家 さ
小説にせよマンガにせよ、敵と戦う系のシリーズもの
だと、回を重ねるごとに敵側がパワーアップしていき、
人間離れを通り越して最終的には「アンタ人じゃない
じゃん」ってのと戦って、ということは主人公側も回
を重ねるごとにパワーアップしていくというのは仕方
がないのかなと思いつつも、この「吉原裏同心」シリ
ーズはそういう方向に行ってほしくないなあと願うの
であります。

さて、今作は『異館』。神戸に「異人館」があるのは
有名ですが、つまり、外国風の、見慣れてるものとは
異なる館、ということですね。

天明八(1788)年、京都で未曾有の大火事が発生しま
す。四条大橋近くの「団栗辻子(どんぐりのづし)」
から出火したということで、「どんぐり焼け」などと
呼ばれたそうな。ちなみに「辻子」とは図子とも書く
そうですが、京都の小さな通り、生活道路で、こちら
は通り抜けができる通り。一方「路地」は行き止まり、
袋小路になってる通りのことを指すそうです。

前作「沽券」で、引手茶屋の乗っ取り問題の首謀者を
追って、神守幹次郎は相模の真鶴まで行って、帰って
きたところからスタート。吉原会所の仮宅で報告を済
ませ、帰り道にいきなり「そなたが吉原裏同心か」と
言って海坂玄斎と名乗る男が勝負をしかけてきます。
そこに会所の人が来て海坂は消えますが、これも吉原
乗っ取りの一味なのか。

幹次郎が江戸にいない間に、古一喜三次という上野(
現在の群馬県)桐生の織物職人が会所の四郎兵衛に面会
を求めてきます。桐生は東の織物の一大産地ですが、近
年は京織物と肩を張るほどに品質が向上してきていて、
京といえばこの度の「どんぐり焼け」で織物の生産がで
きなくなり、職人が桐生に移ってきています。
そこで古一は江戸に桐生織物の店を出し、さらに吉原の
花魁衆に桐生織物を着てもらおうと申し出に来たのです。

吉原は現代でいう「風俗街」なだけではなく、当時のあ
らゆる文化流行の発信地でもあったので、そこで花魁が
西陣織ではなく桐生織物を着て花魁道中でもしてくれれ
ば売上げアップ間違いなし。ところが薄墨太夫は申し出
を断ります。
古一という男がどうにも胡散臭いので、幹次郎は古一の
店に行くと、なんと相手は幹次郎の顔も名前も先刻承知。

それとは別に、吉原の客と思われる武士の辻斬りが発生。
捜索を進めていくと、肥前対馬藩重臣の娘が浮上。この
娘、名を「玉蘭」といい、なんでも男装で吉原に登楼した
ことがあるそうで、幹次郎はなんとなく対馬藩江戸屋敷に
行ってみると、夜中に女性がひとり立っています。すると
「神守幹次郎どのか」といって、斬りかかってきます。
幹次郎は相手の攻撃をよけつつも女の衣を切ります。その
衣の切れ端は白檀の香りがしみ込んでいて、じつは武士の
辻斬りの現場にも白檀の香りが残っていたのです。さらに
衣には金襴が縫い付けてあり、これを見た幹次郎は、この
金襴は古一の見世で見かけたようだと・・・

これはたんなる古一の野望なだけなのか、それとも未だに
田沼派の残党が裏で糸を引いているのか。これに、朝鮮と
の交易が不振で赤字まみれの対馬藩の重臣の娘がどう絡ん
でくるのか。そして幹次郎は異形の館へ・・・

それはそうと、幹次郎は四郎兵衛からあるお願いを頼まれ
ます。それは、老中、松平定信が京の火災の復興計画の指
揮のため京に上るさい、幹次郎を随伴させよとの直々の命
があり、四郎兵衛もいっしょに京へ行くことに。
いつぞやは定信の側室を奥州白河から江戸に移すボディー
ガード役をしたときにもあの手この手の攻撃があったので
すが、今回の道中もそれのさらに上をいく攻撃が・・・
というのが冒頭に書いた懸念。
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佐伯泰英 『吉原裏同心(十)沽券』

2017-12-27 | 日本人作家 さ
このシリーズの一作目を読んだのが、今年の五月。それから
半年ちょいで十作目で、このシリーズが全二十五巻でして、
まだ半分にすら至ってないのですが、まあそれなりのペース
で読んでおります。

さて、今作のテーマは「沽券」。現代ですと「プライド」の
ような意味で「沽券にかかわる」などといった使われ方をし
ていますが、もともとの意味は、土地や家屋、商売の権利と
いった書類、証文を「沽券状」といったそうです。

吉原が全焼し、再建まで仮宅営業を余儀なくされ、なんや
かやあって新年を迎えますが、吉原会所のボディーガード、
「裏同心」の神守幹次郎とその妻で遊女たちに書や俳句の
先生をやってる汀女があいさつに出向くと、新年早々よく
ないニュースが。

引手茶屋の相模屋が商売の権利書である(沽券状)を譲り
渡したというのです。通常吉原では、客は引手茶屋を通さ
ないと妓楼に上がれません(格安の場所は除く)。
今の仮宅営業ですと、この面倒なシステムは省かれて、直
で遊べるというので、妓楼は案外大儲けになりますが、引
手茶屋は商売になりません。しかも相模屋の主人は番頭や
奉公人たちに何の相談も報告もなく勝手に売ったというの
です。

それから数日後、今度は別の引手茶屋が売られます。会所
や幹次郎が調べますと、この件は(身なりのいい老人)が
関わっているようです。さらに、江戸にある小規模の貧乏
道場が次々に買収されています。

そして、品川沖で男女の水死体が発見されます。男のほう
は、行方をくらましてる相模屋の主人、周左衛門だったの
です・・・

(身なりのいい老人)は沽券状を買い集めて、何を目論ん
でいるというのか、そして貧乏道場の買収もこの件と同じ
やつらの仕業らしいのです。これもまた、田沼派の残党が
仕掛けてきているのか。

このシリーズに登場する(身代わりの佐吉)という、江戸
の表にも裏にも精通している男がいて、幹次郎も彼の情報
を頼りにしているのですが、佐吉に会える場所は馬喰町に
ある飲み屋。今作でも佐吉は幹次郎の(知恵袋)として活
躍してくれるのですが、この飲み屋の竹松という小僧が、
前に幹次郎の手伝いをしたことで、竹松を吉原に連れて行
く約束をしていて、今は仮宅だけど遊女に会わせてやると
いって幹次郎が連れてったのは大籬の三浦屋、薄墨の所。
それから竹松はずっとホケーっとしっぱなしで飲み屋の仕
事も手につかず、これには飲み屋の主も「吉原が初めての
竹松に会わせたのがよりによって薄墨花魁とは神守様も人
が悪い」とチクリ。

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