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晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

鷺沢萠 『途方もない放課後』

2017-11-29 | 日本人作家 さ
書棚の整理をしていたら、未読本が出てまいりました。

この作品はエッセイ集で、著者の作家デビュー十周年で
出されたそうで、おもに雑誌の連載ですので、それぞれ
は短いです。

いきなり最初のタイトルが「三十路の誓い」。デビュー
十周年で三十路ってことは二十歳に作家デビューという
ことですね。

当時はおそらく史上最年少とかだったのでしょうか。
その後、現役高校生がナントカ新人賞受賞という話も
チラホラありますね。

そういえば三十路で思いましたが、あるアメリカの
ドラマで、主人公の女性が三十歳の誕生日の前日に
「三十までにはすでに結婚してて子供もいる予定だっ
たのに(独身ってことですね)」ものすごく落ち込ん
でて、友人が「でも、三十代の女の人生はバラ色って
言ってたわよ」と励まし、「誰が言ったの?」と訊く
と友人「四十代の女」というシーンがあって、ブッと
噴いてしまいました。

前に著者の小説はいくつか読みましたが、正直ハマる
というほどではありませんでした。まあ数作しか読ん
でないのに作風を語るのはアレですが、なんといいま
すか、色、空気感、距離感、そういったものが自分に
フィットしなかったんですね。

で、このエッセイを読んで、なんとなくですが、なる
ほどと思いました。そして、小説よりも、エッセイの
方が、読んでて心地良かったな、と。

著者にとって「居心地の悪い」モノ、場所、雰囲気、
そういったものが(普通の人)にとっては「居心地の
良い」もの、といったらまるで著者が普通ではない
みたいになっちゃいますが、このエッセイを読むと
「ああ、この人、良くも悪くも(普通)を捨ててる
なあ」なんて思います。

あと、ときたま「すげえ」といった表現をされるのに、
個人的趣味ですが、ドキッとします。ときたま。
常に「ウッセンダヨー」「テメーザケンナヨー」とか
言ってたらゲンナリしますが。
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佐伯泰英 『吉原裏同心(九)仮宅』

2017-11-23 | 日本人作家 さ
今作のテーマは「仮宅」。前作「炎上」での当ブログでは
「仮見世」と説明しましたが、まあ意味は同じですね。

吉原は、幕府公認の(色里)なわけでして、吉原の郭内が
火災に遭ったら、他の場所での営業が許可されます。
お金持ちの(大見世)などは繁華街の浅草界隈に臨時で
営業できますが、中小規模ですと、浅草から離れた場所、
さらには大川の東側、本所深川に見世を出すことに。

吉原の外での営業となりますので、吉原で行われていた
面倒な(しきたり)は省かれるので、売上げは大幅アップ
なんだとか。

さて、(三扇楼)という中規模の見世のトップ、花蕾と
いう遊女が仮宅に帰ってきません。
どこかに逃げたというのでしょうか。神守幹次郎と吉原
会所は花蕾を探すのと各所の仮宅の見回りに。
すると「吉原に恨みがある」と突然刃物を突き付けてく
る者もいれば仮宅に火を付けようとする者もいて、これ
は田沼一派の残党の仕業なのか。

すると、炎上騒ぎのゴタゴタの中、花蕾が布団に巻かれ
て連れ去られたのを見たという人がいて、話を聞くと、
実行役で(そうざ兄ィ)と呼ばれている男がいて、その
近くに頭巾をかぶった武士がいた、というのです。

ところが、今度は別の見世で遊女がいなくなり・・・

こちらの本筋とは別に、吉原の焼け跡で火事場泥棒を
見つけた幹次郎、主犯格は、火災を機に廃業した見世
の息子で、床下に埋められた小判を探していたという
のですが・・・

一方、大見世では郭内で行われていた「花魁道中」
の真似事をやろうと計画します。見回りをしていた
幹次郎は、いつぞや刃物を突き付けてきた男がいる
のを人ごみの中に見つけますが逃げられます。
どうやらその男は、馴染みの遊女がいたのですが
罪を犯してしばらく江戸には入ってこられず、その
間に馴染みの遊女は別の男に落籍されたのです。
そこで吉原会所は遊女の身の安全を考えて自死した
ことにしたのですが、どうやらその男は遊女が生き
ていることを知ったようで・・・

前作「炎上」で幹次郎がトップの遊女(薄墨太夫)の
命の危険を救い、太夫を背負って炎の中から逃げ出て
きたことは吉原関係者では伝説となっていて、前から
幹次郎にはからかい半分でちょっかいをかけてきた
薄墨太夫ですが、もはや堂々と妻の汀女に向かって
「幹次郎様とのあいだにお子が生まれないなら私が産む」
と言う始末。

遊女失踪(誘拐?)事件でも、もうひとりのトップ遊女
の染井太夫と幹次郎がちょいと仲良くなろうものなら、
薄墨さん、ジェラシーを隠そうともしません。

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佐伯泰英 『吉原裏同心(八)炎上』

2017-10-28 | 日本人作家 さ
この「吉原裏同心」シリーズにはサブタイトルがついて
いまして、今作は「炎上」。五社英雄監督の「吉原炎上」
という映画がありましたが、映画の方は明治時代だった
かな、裏同心は江戸時代ですので別の大火ですね。

そもそも吉原と火事との付き合いといいますか因縁と
いいますか、もともと吉原は現在の日本橋のあたりに
ありまして、これが明暦の大火で浅草寺裏の日本堤に
移転します。ですので移転後の吉原を「新吉原」とい
うのはこのためなんですね。

その後もたびたび火災に見舞われます。なにせ「不夜城」
というくらいですから、一晩中ロウソクの火を灯していた
わけで、しかも木造住宅ですから、そりゃ危ないですね。

さて、今作の「炎上」では、じっさいにあった天明七年
(1787)の大火がテーマになっております。

前作では老中・松平定信の側室(お香の方)を奥州白河
から無事に江戸まで運ぶことに成功した神守幹次郎。
剣の腕を鈍らせないために、下谷にある津島道場で稽古
をしています。するとそこに武芸者の三人組が。そのう
ち一人の肩には猿が乗っています。

どうやら道場破りをしているらしく、さらに「この道場
に神守幹次郎という人がいるはず」と。幹次郎は「それ
がしにござる」と名乗り、立ち会うことに。
幹次郎は「この三人のうち誰が頭目なのか」と考え、そ
してひとつの答えを見出し、男の肩に乗っていた猿を
殺します。たちまち動揺する相手。そして「次は命を
貰う」と捨て台詞を残して去ります。

その後、吉原内で遊女が獣に首を噛まれて死んでいるの
が発見されます。あの三人組の仕業なのか。しかし猿は
幹次郎が殺しているはず。

猿を連れた三人組が方々で道場破りをしているという
知らせを聞く吉原会所。どうやら猿はもう一匹いるよう
です。その三人組を探していると、そこに女頭領が率い
る白衣の集団が幹次郎らの邪魔に入ります。

そんな中、郭内の筆頭遊女の薄墨太夫が幹次郎を呼び
ます。なんでも、先日の客が、失脚した田沼家が江戸
を騒乱の渦に巻き込んででも幕閣に返り咲いてみせる
と意気込んでいると・・・

猿を連れた三人組も白衣集団も田沼派の仕業なのか。
手っ取り早い(騒乱)といえば、一番怖いのが火事。
それだけは避けたいので、これはなにがなんでも現
老中の松平定信に伝えなければならないと考え、
幹次郎と妻の汀女は松平定信の下屋敷に、お香の方
に会いに出かけます。
そこで、お香の方に老中に取り次いでもらいたいと
お願いするのですが、お香の方は政事に関する一切
ノータッチだといいます。策は尽きたと思っている
と、廊下から「お香、命の恩人が来てるというのに
酒も供してないのか」と男の声が・・・

この本筋の他に、吉原の中規模の見世で深川の岡場所
出身の遊女をスカウトしてきてたちまちナンバーワン
になります。その遊女が毒殺未遂に遭ったというので
大騒ぎ。ところが、その遊女がいつの間にか消えて・・・

さらに幹次郎と汀女が菊見に出かけていると、どこぞの
旗本の息子とかいうのが町娘に乱暴をしようしていたの
で、幹次郎はそいつらを池に放り投げます。後日、そい
つらが幹次郎に復讐を・・・

吉原では、火事になると(仮見世)といって他所での
営業をするのですが、そのさい、吉原での面倒くさい
(しきたり)は無くなって、結果、売り上げが大幅に
アップとなって、復興も早いんだとか。
ですので、経営不振の見世なんかは「火事になって
くれないかなあ」などと不謹慎なお願いをする者も
いたとか。現代にもあるような話ですね。


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島本理央 『ナラタージュ』(再読)

2017-10-22 | 日本人作家 さ
ボーっとテレビを見ていたら映画のCMをやってまして、
そのタイトルが「ナラタージュ」と聞いて「あれ、この
小説を読んだぞ」と思い出し、部屋の書棚を見てみると
ありました。

が、まったくストーリーを思い出せません。

外してなかった本の帯に「一生に一度しかめぐり会えない
究極の恋」とあったので、ははあ、これは恋愛小説だな、
と天才的推理をしたんですが。

で、読み始めますと「あーはいはい、高校教師と元生徒の」
「そうそう、演劇部の」と、だんだん思い出してきました。

大学生の工藤泉に電話がかかってきます。相手は高校時代の
先生、葉山。要件は、顧問をしている演劇部が少人数なので
卒業した先輩に手伝ってほしい、とのこと。

しかし、泉は葉山に「それだけの理由ですか」とたずねます。
すると葉山は「ひさしぶりに君と話がしたいと思った」と。

泉と、同じく卒業生の志緒と黒川の3人、そして助っ人として
黒川の大学の友人、小野玲二という演劇経験者も。
毎週末に高校に行って芝居の稽古をした帰りなど4人で行動す
る機会も増えて(志緒と黒川は恋人同士)、しばらくして小野
は泉に「好きだ」と告白します。しかし泉は、葉山への想いが。

ですが、葉山は葉山で、泉のことを想ってはいるのですが、
(教師と生徒)みたいなモラル的なことでブレーキをかけてい
るわけではなく、何か理由があって泉のことは好きなんだけど
恋人にはなれないというのです。

その後、なんだかんだあって、泉は小野と付き合うことになった
のですが・・・

基本的に恋愛小説はあまり読まないのですが、面白かったです。
冒頭の意味深な会話が「ああそういうことだったのね」と、いや
らしくない伏線っていうんでしょうかね。

思春期を描くと淡いとか甘酸っぱいだけではなく悩みや残酷な
こともあったりしますが、そこまでガッツリそういった部分を
描く必要は無かったんじゃないの、とは思いましたが。
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佐伯泰英 『吉原裏同心(七)枕絵』

2017-10-14 | 日本人作家 さ
秋ですね。読書タイムは基本的にベッドに入って
寝入るまでの1時間ぐらいなので、ついこの前まで
の熱帯夜ですと、本を読むのもウンザリするほど
でなかなか問うブログの更新も捗らなかったので
すが、朝晩ヒンヤリとしてきまして、こうなって
きますと読むスピードも上がってきて、更新ペース
も上がってくる・・・はず。

さて、裏同心。今回のテーマは「枕絵」。「春画」
とも言いますが、ようはエロ絵画。

吉原の用心棒(裏同心)、神守幹次郎は、髪結床
に行きます。亭主と雑談中に「そういや、老中様
に禿(かむろ)を贈ったんですが、今頃どうして
るんですかねえ」と。

この時代から十年以上前、現老中の松平定信が
白河の養子になって、いわば(飛ばされた)の
ですが、この背景には、当時の老中、田沼意次
が若くて優秀と評判だった田安家の定信青年を
恐れて、という噂もありました。

髪結いの亭主の話によれば、定信が白河に行って
数年後に吉原が禿(花魁になる前の少女)を贈った、
というのです。定信は徳川吉宗の孫にあたります
ので一応は(将来の将軍候補生)なので、吉原と
しては「早目に唾をつけて・・・」ということだ
ったのでしょうか。

吉原に着いた幹次郎は、吉原会所の四郎兵衛に
「ちょっと白河まで行ってほしい」と頼まれます。
白河といえば、さっきの髪結いの話に出た老中の
松平定信の藩。

白河までの旅の目的は、松平定信の側室(お香の
方)を江戸に呼び寄せたいのですが、秘密裏に、
とのこと。
この(お香の方)こそ、吉原が贈った禿で、白河
に向かった当時、何者かに襲われて命からがら城
まで着いたそうで、今回も、定信に追いやられた
旧田沼派の残党が刺客を用意しているはずで、前
よりもさらに危険。しかも道中に、幹次郎の妻の
汀女も同行するというのです。

幹次郎と汀女、吉原会所の仙右衛門、前作「遣手」
で信州行きにも同行した宗吉の4人でさあ白河へ。
道中、一行が泊まっていた宿屋でいきなり火事に
遭ったり、(女六十六部)という女性と出くわし
たり・・・

白河に行く前に、幹次郎と汀女のかつての同僚、
足田甚吉が結婚するのですが、その仲人をやる
ことになります。で、甚吉と結婚相手(おはつ)
はおはつの実家に挨拶に行ったのですが、ふたり
とも帰ってこず、幹次郎は吉原会所の若い男と
江戸郊外の戸越村へ・・・

そのほかにも、吉原内で秀次というからくり提灯
の職人が殺され、秀次の部屋を捜索してみると、
数枚の枕絵が出てきます。どうやら秀次は襲った
女性の枕絵を描いて、それで脅すという卑劣な男
で、そうなってきますと容疑者は枕絵に描かれた
うちのだれか・・・

このシリーズで、幹次郎はたまに俳句を詠みます。
妻の汀女は吉原で遊女たちに書や俳句を教えていて、
幹次郎は汀女に「ヘタですが・・・」と披露します
が、そこは年上女房、「幹どのらしく素直な句です」
などと褒めてくれます。

テレビ番組でタレントが俳句を作ってビシバシと
ダメ出しをする(毒舌先生)こと夏井いつきさんは
どういった評価をするのでしょうか、ちょっと気に
なります。

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佐伯泰英 『吉原裏同心(六)遣手』

2017-09-15 | 日本人作家 さ
今作のテーマは「遣手」。(やりて)と読み、現代ですと
「やり手ババア」なんて言葉が残ってますが、もともとは
吉原で妓楼にいる元遊女の役職で、主に遊女の指導・監督、
ならびに客の手配などをします。
優秀な遣り手がいるかいないかで売り上げに関わってくる
ぐらいの重要なポストではあります。

客の素性や懐具合を見てどの遊女をあてがうか、客の要望
どうりにはいかない場合もあったり、遊女にも厳しくしつけ
をしたり、けっこう恨みを買ったりもしたそうです。

さて、夜明け前、神守幹次郎は吉原から呼ばれます。
吉原内では大きな遊女屋(新角楼)へ行ってみると、楼の
遣り手(おしま)が、帯で首を括ってぶらさがっています。
よく見ると、首には絞められた跡が。つまり殺された後に
自殺に偽装工作をしたようなのです。

主人や番頭に聞けば、おしまは金稼ぎが生き甲斐のような
人で、およそ自殺するような性格ではない、と。

おしまには夫がいて、吉原の郭内に住む大工なのですが、
話を聞けば、おしまは二百両以上を持ってるはずだという
のですが、部屋には金はありませんでした。

捜査が進んでいくと、おしまには遊女時代の朋輩が最下級
の女郎として現在も吉原にいて、その(おひさ)という遊女
に、(もし自分が死んだら・・・)という書付を渡していた
のです。さらに、おしまは二十数年前に子を産んでおり、そ
の男の子は養子に出されたのですが・・・

なんだかんだでおしま殺しの犯人を捕まえ、おしまの葬式も
終わり、幹次郎は、吉原会所の頭の四郎兵衛と新角楼の主人
の助左衛門とふたりの若衆の五人でおしまの故郷の信州に
おしまの遺髪と遺産を届けに旅立ちます。

ところが道中、いきなり見知らぬ男たちに襲われます。どう
やら四郎兵衛に個人的な恨みを持っているらしいのですが・・・

なんやかやでおしまの故郷に到着しますが、そこでもひと悶着
があります。

この旅物語と、さらに吉原の内外で卑劣な引ったくりが連続
して起き、とうとう死者まで出ます。どうやら犯人は吉原内
に住む人らしく・・・

文中で、神守様の周りは行く先々で何かが起きますなあ、と
誰かがつぶやいていますが、まあ(裏同心)という設定上、
そうなるのも仕方がないのでしょうが、それにしても、男女
の愛欲、一日で千両の金が動くという金銭欲、さまざまな欲
がうごめいて、人間なんてしょせんは薄皮一枚剥げば獣なん
ですから、幹次郎が、というより(吉原が)が正解なんで
しょうね。
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佐伯泰英 『吉原裏同心(五)初花』

2017-08-27 | 日本人作家 さ
さて、今作のテーマの「初花」ですが(花)とは、
俳句では(桜)の意味で、季語は春。
江戸では、寛保年間の頃(1740年代)に、夜桜
見物が始まったそうです。といっても現代のように
電気の照明でライトアップがあるわけではなく、
雪洞(ぼんぼり)という小型の提灯を使っていた
とのこと。

吉原では、春になると、まだ蕾の桜の木を仲ノ町の
メインストリートに植えて、客も遊女もそわそわと
咲くのを待つという、一年のうちで一番晴れやかで
華やかな時期。

のっけから、嫌な事件が。松葉屋という見世の逢染
という遊女が首を吊っているところを発見されます。
なんでも、客と寝ているときに寝小便をしてしまった
というので、客の武士はカンカンに怒りますが、逢染
は粗相をしてないと言い張ります。ですが、見栄と粋
で生きる吉原遊女にとってこんな恥はないと自ら命を
絶つことに。
客は笹目なにがしという武士で、調べが進むと、他の
見世でも最近、自殺した遊女がいたのですが、手口は
大体同じで、こちらの客も武士で、どうやら笹目と
つるんでいるようで・・・

こんな事件を解決したと思ったら、また別件。

神守幹次郎と汀女が墓参りに行くと、汀女が音葉と
いう吉原の元遊女が墓参りをしているのを見かけます。
音葉は落籍されて、現在は川崎の植木職人に嫁いで
います。
音葉は、吉原時代に仲の良かった自殺した青葉という
遊女の墓参りに来ていたとのことで、青葉は落籍を
約束していた客が別の女と結婚し、さらにその客に
今まで稼いだお金を預けていたのです。
幹次郎と汀女が音葉を見た翌日、青葉の客だった男、
忠三郎の死体が発見されます。
もしや犯人は音葉か。そういえば音葉が墓参りして
いるとき、着物の胸元に紙が差し込まれていたのを
汀女は思い出しますが・・・

さて、この事件も解決したと思いきや、幹次郎が
吉原会所に(出勤)すると、なんと雛菊という遊女
が殺人の容疑で面番所にしょっ引かれたというのです。
容疑は、雛菊の出した文、今でいうホステスの営業
メールのようなものですが、これに雛菊は手紙に口紅
を付けていて、手紙をもらった客が「雛菊の紅だ」と
喜んで舐めたところ客は苦しんで死亡。死因は毒。
手紙の口紅に毒が塗ってあったというのです。

幹次郎と会所が調べていくと、雛菊の見世で最上位
の鞆世太夫が怪しいとつかみます。人気に陰りが見え
てきた鞆世太夫がなじみ客と結託してナンバーツーの
雛菊を殺したのか。でも証拠がありません。
そして、遊女の文を出す専門の(文使い)という仕事が
あるのですが、例の毒付きの文を出した正五郎という
文使いが殺されて・・・

そして、また別の事件が。今度は郭内で、遊女と客の
男が揃って死んでいるのが発見され・・・

今回は、巨悪ではなく、子悪党がそれぞれの事件に
関係しています。
「文使い」という職業もそうですが、「身代わり」と
いうユニークな職業も出てきます。

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佐伯泰英 『吉原裏同心(四)清掻』

2017-07-30 | 日本人作家 さ
本屋に行きますと、たとえばこの『吉原裏同心』のような
シリーズもの(吉原裏同心は全25巻)が棚にずらっと
並んでまして、でもよく見ると、7巻だけないとかって
たまにあります。

7巻だけたまたま読んでなかった方が買っていったのか。
あるいは「どれにしようかな」のように眼を閉じて指を
さしたのが7巻だったのか。

ついこの前、吉原裏同心を買いに本屋へ行き、3巻まで
は読んで、どうせだったら一気に10巻まで買っちゃえと
思ったんですが7巻が無く、仕方ないので4~6巻の3冊
だけ買ってきました。

まあどうでもいいんですけどね。

さて、今作のテーマは「清掻」。(すががき)と読みます
が、検索してみますと、「江戸初期の箏 (そう) または
三味線で、歌のない器楽曲。江戸吉原の遊女が客寄せのた
めに店先で弾いた。見世 (みせ) 菅掻。」とあり、つまり
インストゥルメンタルってことですね。

江戸の一大遊郭、吉原のボディガードを務める「吉原裏同心」
こと神守幹次郎は、妻の汀女の出先まで送っていき、あたり
を歩いていると剣術道場を見つけます。(津島道場)の主は
幹次郎を迎え入れてくれます。もともといた藩を出奔し全国
を逃亡しながら江戸にたどり着くまでの間、加賀の国の居合
道場でちょっとだけ修業させてもらって以来、久しぶりに
ちゃんとした修業ができるというので幹次郎も汀女もうれし
い様子。

ある日のこと。幹次郎が吉原に出かけると、入り口の面番所
に見慣れない男が。
吉原は(脱走防止)の目的で郭内の出入口は大門1か所のみ
で、大門横に町奉行所の吉原出張所があります。吉原は町方
支配下ですが、吉原には独自の自治組織の(会所)があり、
長年の習慣で(郭内のゴタゴタは郭内で処理してくれ)とい
うように彼らはお飾りだったのです。

ところが幹次郎が見た(見慣れない男)の同心、山崎蔵人は
就任早々に会所頭取の四郎兵衛をはじめ吉原の(顔役)を呼び
つけ、吉原会所の活動停止を言い渡します。
ということは幹次郎の役目も無くなり、しばらくは出入り禁止
に。

これにより、吉原の郭内では掏摸やひったくり、果ては殺人まで
起こるようになり治安は悪化。といって郭内はさほど詳しくない
町奉行所の役人は後手後手に。

そもそも、同心ごときが独断で吉原内をどうにかできるのか、
それに山崎の傲岸不遜な態度はバックによほど大物がいるのか。
ヒマになった会所の人たちと幹次郎は山崎を調べることに。

貧乏御家人の息子が町奉行所同心の山崎家の養子に入ったそう
なのですが、その仲介役になったある人物はどうやら吉原の
利権を狙う一橋治済卿の手のものらしいのです・・・
幹次郎は、山崎がかつて通っていた道場を探り出して行きます。
道場主は「訳あってあいつは破門した」というのですが・・・

前作「見番」でもあの手この手で吉原をものにしようとした
一橋治済卿ですが、今回は町奉行所から攻めてきたようです。

タイトルの「清掻」はどうした?てなもんですが、三味線の
楽曲は遊郭の開店と閉店のときに弾かれるものなのですが、
清掻の当代一の名手は、八重垣という遊女。
八重垣は遊女としてはあまり客が取れませんが、三味線の
腕は抜群で、このたびめでたく落籍(身請け)されることに。

この吉原の近くに、出羽国本庄藩、六郷家の下屋敷があり、
たまに吉原と間違えて六郷屋敷に向かってしまったなんて
ドジな客もいたそうな。

どういう伝手か、吉原会所の(臨時事務所)は、この六郷
屋敷内に間借りすることに。ここなら町奉行も入ってこれ
ません。現在は隠居している前本庄藩主は、吉原から漏れ
聞こえてくる清掻が好きで、ですが当代一の弾き手は落籍
されると聞き残念なご様子。

このまま吉原を好き勝手にされては困るので四郎兵衛は
ついに反撃開始に。これに六郷屋敷のご隠居様と清掻が
どう絡んでくるのか。

この一橋治済という人物、「剣客商売」でも田沼意次を
暗殺しようとしたり、実際に田沼意次失脚のキーマンと
されていますが、今度は松平定信の失脚にも絡んでいる
ようで、とにかくこの人は「自分が将軍になれないのな
ら一橋家から将軍を出す」この執念ひとすじだったそう
ですね。
そのために必用なのは金ということでこの物語では吉原
の利権を狙う黒幕として描かれています。
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佐伯泰英 『吉原裏同心(三) 見番』

2017-06-23 | 日本人作家 さ
わりとはやいペースでシリーズ3巻目を読了。

さて、今作のテーマは「見番」。
見番とは、(検番)とも書くそうですが、例えば、
料亭でお客さんが芸者を呼びたいと注文があった
とき、料亭は見番に連絡します。見番は、芸者の
所属事務所というかプロダクション的な「置屋」
に「どこそこの料亭で芸者何人ご所望です」と
オファーを出す。つまり見番は複数の置屋を統括
しているということですね。

江戸と上方とではシステムが違ったりしたので
しょうが、基本的には、見番も置屋も唄や楽器、
踊りなどを披露するいわゆる(座持ち)の芸者
の取扱です。

というわけで、遊女と芸者とは違うのですが、
まあそこはあれでして、寄席に出てた女義太夫
などの一部も春をひさいでたりもあったそうな。

で、吉原内では(遊女)がいるわけですが、芸者
の中にもそういうことをするのが出てきまして、
これはいかんと大黒屋という妓楼が見番を創設し、
遊女は遊女、芸者は芸者と区分けしました。

お辰というお針(縫い子)が、吉原内の稲荷神社
で殺されていました。お辰は裏で金貸しをやって
いてだいぶ恨みも買っていたようです。
吉原裏同心、神守幹次郎はさっそくお辰殺しの
捜査に。

ところで、幹次郎の妻(汀女)は吉原で俳句や書
を教えているのですが、ここ最近、生徒たちの
間で遊女たちと芸妓たちとが険悪ムードになって
いると感じていました。

吉原会所の四郎兵衛は「さすが汀女さま」と。
というのも、公儀(幕府)では、老中田沼意次の
失脚、新しく就任した松平定信は腐敗立て直し
で吉原を営業停止に。
これは、表向きは「風紀を正す」ということです
が、じつは吉原が(田沼派)と仲良くしていたの
で、その見せしめなのでは、と。
この裏で、見番を管理してる大黒屋が(反田沼派)
の黒幕、一橋治済とつながりがあるという情報を
四郎兵衛は掴み、これが吉原の営業停止と芸妓の
態度がデカくなっているのは大黒屋が吉原の実権
を握ろうとしているのではないかと・・・

この大黒屋の陰謀が、お辰殺しの一件とどう絡んで
くるのか。

シリーズ3巻まで読んでみて、とにかく「読みやすい」
ということです。疾走感がいいですね。
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佐伯泰英 『吉原裏同心(二) 足抜』

2017-05-14 | 日本人作家 さ
シリーズ2作目。ざっと説明をしますと、江戸の遊里、
吉原には公式に町奉行の出張所が設けられていまして、
ですが、彼らはお飾り、廓内の揉め事は廓内で解決して
くださいというスタンス。
そこで、吉原会所(自治組織のようなもの)は、ある
浪人、神守幹次郎を用心棒に、つまり吉原の(裏)同心
に雇います。

この幹次郎という男、じつは汀女という(人妻)を連れ
て九州の某藩を逃げ出して来たのです。
これにはいろいろあったのですが、なんだかんだで江戸
まで逃げてきて、追っ手と幹次郎が吉原でゴタゴタが
あって、吉原の会所名主、四郎兵衛が幹次郎を用心棒に
スカウトしたのです。

汀女は遊女たちに俳句を教えています。

さて、今作では「足抜け」がテーマ。つまりは「脱走」
ということなんですが、遊女たちは、借金を完済する
まで辞めることができません。まあ中には「身請け」
といって、お客さんがお金を払って辞めさせるという
こともあります。

吉原は、周囲を堀で囲まれていて、出入りできるのは
「大門」と呼ばれる1か所のみ。これは「足抜け防止」
の役割でもあったわけですね。

この時代、八月一日を「八朔」と呼び、江戸では天正
十八(1590)年のこの日に徳川家康が関東入り、
江戸城入城したということで、大名や幕臣の旗本たちは
八朔に江戸城に登城するさいは、白帷子を着て将軍に
ご挨拶をするという「式日」で、これが吉原にも伝わり、
八朔に花魁たちが廓内を白い着物を着てパレードをする
というイベントとなりました。

この花魁道中は、ふだん吉原に行かない一般庶民や女性も
観に行ったそうです。

で、幹次郎は四郎兵衛に、八朔の花魁道中をぜひとも見学
してらっしゃいと勧められます。
ところが、なにやら異変が。太夫と呼ばれるトップ遊女の
ひとりが道中に出てきません。

香瀬川という太夫は部屋にもいません。誰に聞いても行方は
知らず、もしや足抜け・・・?

じつは、この年に入って、遊女の足抜けは香瀬川の前にも
二人がいなくなっていました。
これにはなにか組織的なものが絡んでいるのでは・・・。

さっそく、捜査に乗り出す幹次郎たち。

香瀬川の以前に足抜けしたとされる遊女の行方があと一歩
でわかるというところで、遊女とその家族は何者かによって
殺されてしまいます。

この間にも、吉原の近辺で多発していた掏摸事件を解決
したり、赤穂浪士の子孫という武士が店に居座って、お代
の踏み倒し疑惑が出てきたりとあちこちでトラブルが。

そんな中、汀女の紹介で、もうひとりのトップ遊女「薄墨」
に会えることになった幹次郎。そこで、香瀬川の失踪の
手がかりが・・・

足抜けしたとすれば、どのように、どうやって大門の見張り
の目をかいくぐり、外に出られたのか。

江戸の遊里、吉原が舞台となっていますが、会所の名主を
はじめここで働く男たちは「自分たちは所詮、遊女たちの
生き血を吸って生きています」と、吉原を肯定したりは
していません。

香瀬川失踪の件で、幹次郎がトップ遊女「薄墨」に意見を
聞きに行ったさいに、幹次郎は「遊女三千人の頂点に立ち、
比類なき権勢を手中にした天下の花魁がなぜ足抜けをした
のかわからない」と疑問を投げかけます。その問の薄墨の
答えがとても切ないですね。
コメント
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