晴乗雨読な休日

休日の趣味レベルで晴れの日は自転車に乗ってお出かけ。雨の日は家で読書。

浅田次郎 『日輪の遺産』

2011-12-17 | 日本人作家 あ
浅田次郎の作品はどれもこれも面白いのですが、中でも
好きなのが「きんぴか」と「蒼穹の昴」のふたつ。
「きんぴか」は、元ヤクザと元自衛隊員と元官僚という
チグハグな3人が、世話好きの刑事に集められて、ちょ
っとした(世の中に復讐)をする、まあコメディーのよ
うな。
そして「蒼穹の昴」は、西大后の時代の清朝末期、科挙
と宦官の出世と、この時代の清国を取り巻く情勢を描い
た一大スペクタクル時代小説。

で、どうやら、この『日輪の遺産』は、「きんぴか」の
テイストを残しつつ、さらに「蒼穹の昴」の原点となって
いる、とあり、こりゃ読まねばと久しぶりにワクワク。

まず冒頭、昭和20年、終戦のちょっと前くらいでしょうか、
東京の女学校が出てきます。勉強なんてさせてもらえず、「お
国のため」に工場で働いています。
(私)のクラスの担任の野口先生は、反戦的というほどでは
ないにしても、自由主義的で、官憲から睨まれています。

そんなある日、いきなり軍の小泉中尉と名乗る男が、野口先生の
クラスの生徒の全員、工場の仕事をやめて、別な任務の手伝
いをしてほしいとお願いに来ます。
しかし、何をするのか細かいことは教えてもらえず、車で移動
し、外を見ると、都心から甲州街道を下り、府中から南に向か
っていることを(私)は確認します。

そして話はバブル崩壊後の日本、府中競馬場。丹羽という不動産
会社の社長が、年末の大レース、有馬記念に大金を賭けようとし
ています。そこに真柴と名乗る老人が話し掛けてきて、なんやか
やで丹羽は馬券を買えなくなり、代わりに丹羽の予想で小額の馬券
を買っていた真柴老人は、なんと的中。

真柴がどうしても奢るというので丹羽は仕方なく飲みに行き、会社
の経営が危なくて、このままでは社員の給料も払えず、なけなしの
金で競馬で一攫千金を目論んでいたと身の内話をする丹羽。
それを聞いていた真柴は、もっと大金をあなたにあげると言い、ある
手帳を渡します。
尋常でないペースで酒を飲んでいた老人は、「これで肩の荷が下りた」
とつぶやき、席を立とうとしてふらつき、床に倒れ・・・

救急車で病院に運ばれるも、息を引き取った真柴老人。なぜかそこに
一緒に来てしまった丹羽。そこに、生前の真柴を知る、介護のボラン
ティアの海老沢が病院に駆けつけます。話を聞くと、なんと海老沢も
真柴から手帳を受け取ったらしいのです。

霊安室での寝ずの番を丹羽にまかせて海老沢が帰ろうとしたとき、
ちょうど、この病院のある市一帯の有力者である金原がやって来ます。
金原は土地持ちで、自分の所有するアパートに真柴は住んでいたよう
で、丹羽は金原と話を進めていくうちに、真柴から手帳を渡された
と告げると、いきなり金原の表情が一変し・・・

現代の話と、終戦間近の昭和20年の話がクロスして進行し、真柴は
この時代では陸軍少佐。エリートです。そこに東部軍から呼び出され、
大蔵省から軍の経理部に出向していた小泉中尉と落ち合い、軍曹とも
いっしょに3人で陸軍大臣室に入り、この3人に軍のトップから、
ある「命令」が下されるのですが・・・
ここで、冒頭の女学生と話がつながってくるのです。

昭和20年8月、大本営はポツダム宣言を受諾するのか、それとも
一億人が本土決戦に備えるのかで紛糾、この重苦しい話と、現代の
金原、丹羽、海老沢らの話の対比が、もうお見事。

戦争が終わり、マッカーサーが登場するのですが、終戦の話を描くに
あたって当然出てくる重要人物というだけでなく、その前の、マッカ
ーサーが父子の2代にわたってフィリピン総督をしていた時にまで
関係してくるのですが、これが、横浜大空襲のときに、ニューグランド
ホテルだけは焼け残ったという話と絡んできて、虚実の混ぜ方が最高。

「きんぴか」のテイスト、ということですが、金原と丹羽と海老沢が、
きんぴかに出てきたヤクザと官僚と自衛隊員と、ちょっとだけカブります。
コメント
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