ブリットの休日

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筒井康隆『旅のラゴス』あらすじと感想

2014年09月27日 | 本(小説)

 筒井康隆の『旅のラゴス』を読む。

筒井康隆といえば「時をかける少女」しか思いつかず、しかも原田知世の映画を見ただけで本は読んでないという、筒井ファンブーイングの、この作品は筒井作品まさかの初読の本である。

 ある目的のために旅を続けているラゴス。

リゴンドラの南西数キロの牧草地で、放浪する総勢40名ほどの遊牧民ムルダムの集団に加わることになる。

南方諸都市の一人旅は、追剥にあったり殺されたりと危険なためだ。

リゴンドラに到着し牛馬を売った彼らは、降り出した雪に急いで帰郷する支度をする。

リーダーのボルテツが叫ぶ。

「一刻の猶予もならぬ、全員で転移する」

転移とは全員の精神力で、一瞬のうちに別の場所へワープすること。

経験の浅いボルテツのあわただしい指示によって不安が増し、全員の緊張感が高まり精神力が下がってきた時、ラゴスが進み出る。

「俺にパイロットをやらせてくれ」

 まだまだ文明も未熟なある星の世界で、スカシウマにまたがり旅をするラゴスの生涯を描いたお話。

ラゴスが何のためにひたすら旅を続けるのか、目的はここでは明かせないが、危険と隣り合わせの旅の中でつづられる、いくつかの出会いと別れ、そして理不尽なほどの災難に、あたかも自分も一緒に旅をしたような、不思議な疑似体験を味あわせてくれる。

危機的状況に遭遇してなお、そして女性に惚れられしまったときも、あくまでもクールに、知的な立ち居振る舞いで対処するラゴスに、ある種の憧れを感じさせ、読んでいる間ずっと感じる大人感が心地いい。

そしてなにものにも束縛されず、ゆるぎなく目標へ向かって歩み続ける姿に、人生とはを問いかけられる。

現実では束縛のない世界などあり得ないが、知識と経験は自分の意志によって無限に吸収できるんだなあ、なんて改めて思い知らされる。

読後の哀愁感とそれを超える爽快感は、荒涼とした異世界で吹く一陣の風が全身を吹き抜けたような気持ちよさと、不思議な出会いを予感させるちょっぴりのときめき感をも感じさせる、素敵な作品だった。

この作品は雑誌「新潮」に連載されていて、1986年に既に出版されていたんだけど、こんな素晴らしい作品をずっと知らずに今読んでるとは・・・、悲しいなあ(^^;)



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