「夜は短し歩けよ乙女」や「有頂天家族」など、一人称で独特の語り口を駆使して、面白くも不思議な世界を描き出す森見登美彦の『ペンギン・ハイウェイ』を読む。
本作は2010年の第31回日本SF大賞を受賞している。
“日本で一番ノートを書く小学4年生”を自負するぼくは、ある朝不思議な出来事に遭遇する。
おしゃべりな妹と学校へ向かっている途中、空地の真ん中に突然たくさんのペンギンが現れたのだ。
あのペンギンたちはどこからやってきたのか。
ぼくはさっそくノートに記録し、ペンギンの研究を始めることに。
次々と起こる怪現象を、同級生のウチダ君とハマモトさんの三人で協力し、謎を究明していくが・・・。
小学4年生にして、既に手が回らないほどの研究を抱えているという、秀才を自認するあおやま君の語りで展開していくストーリー。
時に自身の知識をひけらかし、常に冷静に行動しようとする、鼻持ちならない小学生が主人公という、「20世紀少年」でいうところのケンヂではなく、オッチョを主人公に据えているところは、やはりこの作家にいつも感じるところだけど、主人公に自身を投影してるんだろうねえ。
たぶんこんな小学生だったと思うなあ(勝手に)。
同じ研究好きのちょっと気の弱いウチダ君と、あおやま君に負けないくらいの秀才ぶりを見せる活発な女の子ハマモトさんに、いじめっ子のガキ大将のスズキ君と、よくあるおなじみの学園物の設定に新鮮味はないが、SF映画の傑作「惑星ソラリス」をモデルとして書かれたこの作品は、思いがけず迷い込んだトワイライトゾーンへのワクワクと、魅惑的なイマジネーションを掻き立てる。
そこへあおやま君が憧れを抱くお姉さんを加えることで、初恋の甘酸っぱいテイストがちりばめられる。
このお姉さんに向けられるあおやま君のほのかな恋ごころが、おっぱいを含め執拗に語られ、このくどさが森見節だよなあ、なんてファンを気取ってしまうが、とにかく序盤からなかなか進展がなく、全体的にかなりまったりした感が漂う。
でもこれも作家の計算であり、それまでがすべてフリであったように、ラストへ向けて事態は怒涛の急展開を見せると、読後に訪れる静かなる哀愁に包まれた温もりは、しばらく噛みしめていたくなるほどの素晴らしい余韻を与えてくれる。
上手いなあ。
ただ小学生が主人公ということと、内容がSF風なので、読んでてジュブナイル感が強く、若干対象年齢が低く感じる。
だいたいこんな素敵なお姉さんが小学生など相手にするはずがないのだから(笑)
先日はコメントありがとうございました。ご挨拶が遅くなり、申し訳ございません;
森見さんの作品の主人公たちは並べてみると、作者が浮かんで見えるようで面白いですよね。
20世紀少年のオッチョ……まさにそんな感じです。
映画にあまり詳しくないので、こちらの感想が映画と絡めてかかれており、とても有難いです!
「惑星ソラリス」機会があったら観てみたいと思います。
ただこの作家さんの名前を見るたびに、あることを思い出します。
それは「夜は短し・・・」で直木賞候補になった時、選考委員の林真理子さんに、
「あまりご自分の才に溺れないでほしい。」って書かれていたこと。
渡辺淳一さんにいたっては、「斜めに書く姿勢をよしとしている作風が鼻につく。」 だって(^^;)
作家の世界も厳しいんですねえ。