8月に入ってから、ちょっとしたきっかけでPANTA関連のアルバムのレヴューを
書いていました。「KISS」以降のレヴューは殆ど書いていなかったので、
丁度いい機会かなと。こちらの方は疎かになってしまいました。
PANTA、頭脳警察関連の記事は、少しづつ手直ししていこうかなと思います。
まずはPANTA&HALの「マラッカ」からです。
やはりバンドでの活動をしたいと思ったPANTAは、PANTA&HALを結成します。メッセージ性だけでなく音楽性も重視するという構想のもとで、PANTAもメンバーの一員として活動するというコンセプトでした。頭脳警察やソロのようにワンマンな形は取りませんでした。
最初のきっかけは、フライングドッグのレーベルを経営する立場の高垣健さん。後にサザンオールスターズを世に送る事になる人物です。そこから紹介されたのが、ギターの佐藤宣彦さん。(この人も後にジギーやリンドバーグをプロデュースします)その友人関係でドラムの浜田文夫さん、ベースの村上元二さん、そしてギターの今剛さんが集まり、最初のHALが結成されます。しかし佐藤さんはすぐ脱退し、代わりに平井光一さんが合流し、『マラッカ』のレコーディングメンバーが揃います。今までの中で一番の実力者が集まったと思いますが、暫くの間は、ライブとリハーサルに専念します。実力のあるメンバーにバックを任せられて、PANTAは随分余裕が出来たと語っています。
『マラッカ』を製作するにあたり、サウンド・プロデューサーを立てる事になりました。今まではそういう事は考えてなかったようです。そして白羽の矢が立ったのが、ムーン・ライダースの鈴木慶一さんです。PANTAとはっぴいえんどは、ある時のいざこざで仲が悪いとされ、はっぴいえんど派とされる鈴木さんと上手くいくのかという声があったのですが、話してみるとすぐに打ち解けたようです。その時は、PANTAのロック葬で別れの挨拶を任される程の付き合いになろうとは思わなかったでしょうね。
『マラッカ』のテーマは『オイルロード』。マレー半島とスマトラ島を隔てているマラッカ海峡は、巨大なタンカーが通過する重要な地点。赤道直下の南国という事でサンバのリズムが使われています。そこまで深い意味はないようですが。タイトル曲の『マラッカ』は、ライブで歌われたら大合唱となる人気曲です。因みにアルバム発売の辺りで第2次オイルショックが起こっていたとか。ここでも時代とシンクロしていますね。
続く『つれなのふりや』は、古の和歌をタイトルにしたものです。そしてこちらはレゲエのリズムで歌われます。これもライブでは人気曲ですね。
そしてPANTAのバラードの中でも人気の高い『裸にされた街』。荒川少年少女合唱団が歌うコーラスは美しいです。まるでレクイエムのようです。
それ以外にもミスなしで演奏するのが難しい難曲の『ネフードの風』、亡くなったTレックスのマーク・ボランに捧げた曲の『極楽鳥』等、捨て曲のない名作アルバムですね。レコーディングには3か月をかけ、実験的な試みを続け、挙句の果てに鈴木慶一さんは胃潰瘍になったといいます。実力のあるメンバーが一致団結して作り上げたこのアルバムは、確実に日本のロックの名盤の一つに数えられます。
余談ですが、この『マラッカ』のプロデューサーの候補には、あの坂本龍一さんの名前も上がっていたそうです。しかしながら打ち合わせの段階で、ナショナリズムへと向かうのではないかと思われ、実現はしませんでした。もしも実現していたら、どんなアルバムになっていたのでしょうね。
そして『つれなのふりや』は、作家の五木寛之さんが気に入ってくれて、自分の全集のCMにこの曲を使ったという事です。また五木さんは、PANTAの自伝『歴史からとびだせ』の最初の発売時の帯文も書いてくれています。
ギターの今剛さんは、アルバム1枚でHALを去る事になりますが、やはりフュージョンをやりたかったのでしょう。『AGATHA』を松原正樹さんと演奏しているライブは素晴らしい出来です。
また今剛さんは、色々な方のバンドに参加していますが、井上陽水さんのバックでも演奏していました。ギターソロのインパクトが凄いです。
そして大ヒットした寺尾聡さんの『ルビーの指輪』でギターを弾いているのも今剛さんです。今更思うに、凄い人たちが集まっていたんだなと。