月の裏側〜reprise〜

捻くれ者が音楽を語ったらどうにも収拾がつかなくなった件。マニアックな作品紹介と自分自身の音楽関係の思い出話を中心に。

NO.288 頭脳警察「絶景かな」

2025-01-18 00:34:03 | 頭脳警察、PANTA関連

某所で書いていた『パワーソング』をテーマとしたエッセイらしきものを上げてみます。一時期よく聴いていた頭脳警察の『絶景かな』を取り上げてみたものです。一般的な題材ではないですので、殆ど読まれる事はなかったのですが。

 

…………………………………………

 

長年、音楽を聴いていると、落ち込んだ時や力を出したいような時に聴いてみたくなるような曲、所謂『パワーソング』というものが何曲も浮かんでくる。
 自分が好きな曲というのは、ロックやフォーク、ニューミュージック、はたまたクラシックやジャズ、サントラやアニメソングまで、色々なジャンルにわたっている。勿論、苦手なジャンルもあるけれど。まぁ人によって色々な『パワーソング』があるという事だ。
 その中で今回は、2023年7月7日に亡くなった、自分が最も敬愛するアーチストであるPANTAに関するものをあげてみたい。

 PANTAが亡くなる寸前まで制作をしていたアルバムである『東京オオカミ』。残念ながら制作の途中でPANTAが亡くなったので、一部は未完成の部分もあるが、万が一の事を考慮してPANTAの歌入れを最優先していたので、中途半端な仕上がりではない状態なのはありがたい。PANTAの体調や体力を考慮してか、全ては新曲ではなく、昔に作った曲を再録音したものもあるのは仕方ないか。更に他の人に作詞や作曲を任せたものもあったりする。
 そのアルバムの最後に収められている曲が『絶景かな』。この曲は元々、頭脳警察結成50周年を記念して製作されたドキュメンタリー映画のエンディング用に作られた曲で、限定でシングルも発売されてもいます。

 色々な事があったけれど、今は君と一緒に見ている未来、それは『絶景かな』と。
 石川五右衛門が南禅寺で桜を見て言った言葉、『絶景かな、絶景かな……』が浮かんできたのだと、PANTAは言っています。
 PANTAはかねがね、いつかルイ・アームストロングのように『What a wonderful world』を歌えるような価値のある人間になりたいと思っていたそうです。そして『絶景かな』を録音してから、これが自分にとっての『What a wonderful world』じゃないのかと思えたそうです。晩年になってからの思い入れは強かったのだと思います。

 自分がこの曲を初めて聴いたのは、アルバム『会心の背信』にて。コロナ過真っ最中の時期の2020年9月26日に長野のライブハウスにて行われた、無観客でのライブを収録している。本来なら観客を入れてやるはずが中止になってしまったものである。別に無観客なら、わざわざ現地に行かなくてもいいと思うのだが、これはアーチスト側の拘りがあるからとの記事もありました。映像も限定で配信されていました。
 オリジナルメンバーのPANTAとトシに加えて、50周年頭脳警察でもギターを担当している澤竜次さんがサポートをしています。勿論、無観客だからといって手を抜く事はしない。最初から『革命3部作』、そして『ふざけるんじゃねえよ』といったハードなナンバーを続けざまに演奏するなど、近年屈指の演奏とレパートリーだったのが嬉しい。
 そして聴き慣れない曲が何曲かあり、その中の1曲が『絶景かな』だった。シンプルなアレンジだったが、自分の心を撃つような曲。メロディも歌詞も自分に響いた。後から限定のシングルを販売していたのを知り、当然ながらすでに入手は不可能だった。ああ、失敗したなぁと思ったのは言うまでもない。

 また、PANTAの最後のライブとなってしまったイベントでの音源、『東京三部作』、ここでも演奏されています。『会心の背信』ではアコースティックでしたが、この時はバンドバージョンで。更に音の厚みが増して、その分凄味も増した感じだ。CD化されたものは何度も聴いている。3週間後には、この世から飛び立っていったものとは思えない迫力が感じさせられた。恐らく執念、だろうな。

 そして決定的だったのは、PANTAのお別れの会ともいえる『ライブ葬』。残念ながら現地へ行くことは出来なかったのですが、ライブ配信が急遽行われるという事で、手続きをしたわけです。亡くなったアーチストに縁のあるアーチストがお別れの会にてライブ演奏をするって言う事はたまにありますが、亡くなったアーチストが演奏している映像にバンドのメンバーが演奏をシンクロさせるっていう試みは前代未聞じゃないだろうか。演奏の曲目を聴いて、前述の『会心の背信』の時の音源とわかったけれど、まさかこんな展開になるとは予想もつかなかったなぁ。
 これが完成形というべき『絶景かな』を聴いて涙が溢れそうになったのを覚えています。

 そしてアルバム『東京オオカミ』にて再録音されたバージョン。PANTA自身、全力で歌う事には無理があるので、スピード感のあるハードなナンバーはないけれど、嘗て発表された曲も再録音したりした。結果的に『絶景かな』はラストに収められたが、実はこの曲のイントロ部分では、発売中止になった事もあるファーストアルバムの1曲目の『世界革命戦争宣言』に似た感じとなっている。所謂、セルフオマージュというものか。PANTAの頭脳警察の歴史は、『世界革命戦争宣言』で始まり、『絶景かな』で終わる。何だかとても奇麗な流れだなと。

 2024年7月7日のPANTAの一周忌である日、『ライブ葬』のDVDが発売されました。PANTAにとっての最後の雄姿は、ずっと保存していきたい。
 久しぶりに見る最後の『絶景かな』。最後の最後まで『ロック屋』だと感じさせる。
 果たして自分にも『絶景かな』と言えるような日は来るのだろうか?

 

 頭脳警察『絶景かな』 2020.3.28 渋谷Lamama