忠治が愛した4人の女 (90)
第六章 天保の大飢饉 ⑦
去年は日照りで不作。今年は長雨にたたられ、2年続きの不作になった。
各地でとうとう、暴動がおきた。
赤城山麓の農民たちが武器を手に、伊勢崎方面へ押し寄せてきた。
若衆を中心に自警団がつくられ、暴徒から村を守った。
忠治も子分たちを率いて、縄張り内を見回った。
暴徒は、国定村と田部井村へやって来た。
しかし、暴徒の数が少なかったため、なんなく撃退することができた。
だが。こんどは境の宿が危険になってきた。
伊勢崎で暴れ回っている暴徒たちの数は多い。しかも勢いに乗っている。
そのままの勢いで、境の宿までなだれ込んでくる可能性が出てきた。
伊三郎が大勢の子分を引き連れて、境の宿へやって来た。
集団の先頭に、裏切り者の助次郎がいる。
いまではすっかり、伊三郎一家の代貸の顔になっている。
「おいおい。何をやっているんでぇ国定一家のお歴々。邪魔だ、邪魔。
おめえらは一家のある百々村でも守ってろ」
「なんだと助次郎。
さんざん世話になった百々一家を裏切っておきながら、よく言うぜ。
俺たちをここから追っ払おうなんて、そうはいかねぇ。
境の衆を暴徒から守るのは、俺たちの務めだ」
「へっ、生意気なことを言うんじゃねぇ。
それっぽっちの人数で、いったい何ができるっていうんだ。
境の宿は俺たちにまかせておいて、おめえらはさっさと百々村へ帰んな」
「なんだと!」
文蔵が、長脇差に手をかける。円蔵があわてて止めにはいる。
「いいからここは、俺に任せておけ」円蔵が、ずいと助次郎の前にすすみ出る。
「お久しぶりですねぇ、助次郎さん。
おめえさんの昔の縄張り、木島村を守らなくてもいいですかい?。
噂じゃ暴徒どもは此処へ来る前に、さきに木島村を通るんですぜ」
「分かってらぁ。今から木島村へ行くところでェ」
「早く行かねぇと、手遅れになるかもしれませんぜ。
そうなったら大変だ。
ほら。伊三郎の親分も、なにをグズグズしているんだと怒鳴るでしょう。
頑張ってください、伊三郎一家の代貸さん」
「ふん。忠治の軍師め。せいぜい命を大事にすることだな。おい、行くぞ」
助次郎がぺっと唾を吐き捨てる。うしろを振り向き、子分どもへ命令を下す。
忠治たちも裏切り者の助次郎を相手に、喧嘩などしている場合ではない。
いそいで百々村へ移る。
百々村で暴徒を食い止めれば、縄張りの半分以上が安全になる。
空っ風が吹きすさぶ中。
忠治たちは、全員で街道をふさいだ。
持ち場に着いた子分たちも、いのちに替えても暴徒を通さないと覚悟をきめた。
勢いに乗る暴徒を止めるのは、並大抵のことではない。
まず相手の出鼻をくじく必要がある。
鉄砲名人の八寸(はちす)村の才一が、鉄砲で相手の出鼻をくじく。
さらに、まんいちのため弓矢も用意した。
三下たちを伊勢崎へおくりこみ、状況を把握しながら、街道で待機した。
しかし。さいわいなことに、暴徒が押し寄せてくることはなかった。
伊勢崎で、酒井家の侍たちが大活躍をした。
豪商の三井屋は蔵を開けた。暴徒たちにコメをわけあたえた。
そのおかげで、騒ぎはしずまった。同調していたならず者たちも、のこらず捕まった。
よく年、天保6年。
天候が回復してきた。そのためこの年は、さいわいにして暴動はおこらなかった。
だがこの年。忠治の運命を左右する、一大事件がついにもちあがる。
(91)へつづく
おとなの「上毛かるた」更新中
第六章 天保の大飢饉 ⑦
去年は日照りで不作。今年は長雨にたたられ、2年続きの不作になった。
各地でとうとう、暴動がおきた。
赤城山麓の農民たちが武器を手に、伊勢崎方面へ押し寄せてきた。
若衆を中心に自警団がつくられ、暴徒から村を守った。
忠治も子分たちを率いて、縄張り内を見回った。
暴徒は、国定村と田部井村へやって来た。
しかし、暴徒の数が少なかったため、なんなく撃退することができた。
だが。こんどは境の宿が危険になってきた。
伊勢崎で暴れ回っている暴徒たちの数は多い。しかも勢いに乗っている。
そのままの勢いで、境の宿までなだれ込んでくる可能性が出てきた。
伊三郎が大勢の子分を引き連れて、境の宿へやって来た。
集団の先頭に、裏切り者の助次郎がいる。
いまではすっかり、伊三郎一家の代貸の顔になっている。
「おいおい。何をやっているんでぇ国定一家のお歴々。邪魔だ、邪魔。
おめえらは一家のある百々村でも守ってろ」
「なんだと助次郎。
さんざん世話になった百々一家を裏切っておきながら、よく言うぜ。
俺たちをここから追っ払おうなんて、そうはいかねぇ。
境の衆を暴徒から守るのは、俺たちの務めだ」
「へっ、生意気なことを言うんじゃねぇ。
それっぽっちの人数で、いったい何ができるっていうんだ。
境の宿は俺たちにまかせておいて、おめえらはさっさと百々村へ帰んな」
「なんだと!」
文蔵が、長脇差に手をかける。円蔵があわてて止めにはいる。
「いいからここは、俺に任せておけ」円蔵が、ずいと助次郎の前にすすみ出る。
「お久しぶりですねぇ、助次郎さん。
おめえさんの昔の縄張り、木島村を守らなくてもいいですかい?。
噂じゃ暴徒どもは此処へ来る前に、さきに木島村を通るんですぜ」
「分かってらぁ。今から木島村へ行くところでェ」
「早く行かねぇと、手遅れになるかもしれませんぜ。
そうなったら大変だ。
ほら。伊三郎の親分も、なにをグズグズしているんだと怒鳴るでしょう。
頑張ってください、伊三郎一家の代貸さん」
「ふん。忠治の軍師め。せいぜい命を大事にすることだな。おい、行くぞ」
助次郎がぺっと唾を吐き捨てる。うしろを振り向き、子分どもへ命令を下す。
忠治たちも裏切り者の助次郎を相手に、喧嘩などしている場合ではない。
いそいで百々村へ移る。
百々村で暴徒を食い止めれば、縄張りの半分以上が安全になる。
空っ風が吹きすさぶ中。
忠治たちは、全員で街道をふさいだ。
持ち場に着いた子分たちも、いのちに替えても暴徒を通さないと覚悟をきめた。
勢いに乗る暴徒を止めるのは、並大抵のことではない。
まず相手の出鼻をくじく必要がある。
鉄砲名人の八寸(はちす)村の才一が、鉄砲で相手の出鼻をくじく。
さらに、まんいちのため弓矢も用意した。
三下たちを伊勢崎へおくりこみ、状況を把握しながら、街道で待機した。
しかし。さいわいなことに、暴徒が押し寄せてくることはなかった。
伊勢崎で、酒井家の侍たちが大活躍をした。
豪商の三井屋は蔵を開けた。暴徒たちにコメをわけあたえた。
そのおかげで、騒ぎはしずまった。同調していたならず者たちも、のこらず捕まった。
よく年、天保6年。
天候が回復してきた。そのためこの年は、さいわいにして暴動はおこらなかった。
だがこの年。忠治の運命を左右する、一大事件がついにもちあがる。
(91)へつづく
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