オヤジ達の白球(70)ビニールハウス倒壊
雪は空から落ちてくる。ふわふわと舞い降りてくる。
見ていると軽いように見える。
しかし。油断できない。甘く見てはいけない。
降り積もった雪は時間とともに、どんどん重さをましていく。
雪質による差も出る。
降り積もったばかりは、1立方当たり50~150㎏。
さらに雪が降り積もり、押し固められと150㎏をこえる。
一度溶け、ふたたび凍った状態になると300~500㎏以上になるという。
2月14日の未明。雨がふりはじめた。
雪をとかしはじめたこの雨は、わずか30分でやんだ。
その後。強い風が吹き始めた。
強風に乗り、ふたたび雪が、横殴り状態で飛んできた。
渡良瀬川の堤防に祐介が立った時刻は、8時15分。
風はあいかわらず強い。
北の赤城山から、強い風が吹き下ろしてくる。
頬へ、氷点下の風が打ちつける。
祐介が渡良瀬川の堤防へ登って来たのは、まったくの偶然だ。
雪かきのスコップを手にした祐介が、何気なく、渡良瀬川の堤防を見上げる。
誰か歩いたのだろう。雪の中にひと筋だけ、堤防へ向かう小道が出来ている。
(朝早くから雪の堤防を散策するとは、物好きなやつがいるもんだ)
つられて祐介も、堤防の道をあがっていく。
堤防から見あげる見慣れた赤城山の山容が、祐介は大好きだ。
ここから見る赤城山は、1800メートル級の5つの峰が横一列にきれいに並ぶ。
その山が今日は麓まで、白一色に染まっている。
(50年近く見続けてきた赤城山だ。しかし、ここまで白くなったのは初めだな・・・)
対岸に、工場がいくつか見える。
祐介のおさない頃にはなかった建物だ。
工場と工場のあいだに民家はない。昔からの農地だけがひろがっている。
農地の真ん中に、アーチパイプで建てられた連棟のビニールハウスが立っている。
今の時期。内部で暖房を焚きながら、キュウリの苗を育てている。
キュウリのハウスがぐらりと揺れた・・・ような気がした。
(はてな。揺れたぞ?・・・
ビニールハウスの屋根がいま、たしかに揺れたような気がしたぞ・・・)
祐介の目が対岸のビニールハウスに、くぎ付けになる。
つい先ほど、ぜんたいが大きく、ぐらりと揺れたように見えたからだ。
しかしいまは、まったく動いていない。
(気のせいかな・・・
動くはずないよな。鉄のパイプで出来たビニールハウスが)
やっぱり錯覚だ。そんなはずがないよなと、祐介が対岸から目を転じていく。
視界の中からゆっくり、キュウリのビニールハウスが消え去っていく。
目の隅から消えようとした、まさにその瞬間。
ぐらりともういちど、ビニールハウスのまるい屋根が揺れた。
(また揺れたぞ!。確かに見た。こんどは錯覚じゃねぇ。
この目でいま、はっきりと見た!)
屋根が波うちはじめた。
ビニールハウスの屋根を支えていた鋼鉄製のパイプが、重みに負けて変形していく。
中央部が、崩れ始めた。
それでもたわみかけたアーチパイプが、必死に抵抗する。
屋根の重みを最後の力で受け止める。
しかし。勝負はあっけなかった。
数秒後。ビニールハウスの中央部が、雪煙をあげて地面へ陥没していく。
(嘘だろう・・・一晩中、雪の重さに耐えて頑張ったんだ。
雨がやみ、雪もやんだ今ごろになって、強風にあおられて崩れていくなんて、
まったくもって、信じられない光景だ・・・)
ビニールハウスの中央部が、かんぜんに地面へ落ちた。
30秒もかかっていない。
ハウスの中に人が居たら、かんぜんに押しつぶされていただろう。
時刻は8時17分。
キュウリ農家のハウス倒壊をきっかけに、このあたりのビニールハウスの
およそ8割が、あいついで倒壊していく。
(71)へつづく
雪は空から落ちてくる。ふわふわと舞い降りてくる。
見ていると軽いように見える。
しかし。油断できない。甘く見てはいけない。
降り積もった雪は時間とともに、どんどん重さをましていく。
雪質による差も出る。
降り積もったばかりは、1立方当たり50~150㎏。
さらに雪が降り積もり、押し固められと150㎏をこえる。
一度溶け、ふたたび凍った状態になると300~500㎏以上になるという。
2月14日の未明。雨がふりはじめた。
雪をとかしはじめたこの雨は、わずか30分でやんだ。
その後。強い風が吹き始めた。
強風に乗り、ふたたび雪が、横殴り状態で飛んできた。
渡良瀬川の堤防に祐介が立った時刻は、8時15分。
風はあいかわらず強い。
北の赤城山から、強い風が吹き下ろしてくる。
頬へ、氷点下の風が打ちつける。
祐介が渡良瀬川の堤防へ登って来たのは、まったくの偶然だ。
雪かきのスコップを手にした祐介が、何気なく、渡良瀬川の堤防を見上げる。
誰か歩いたのだろう。雪の中にひと筋だけ、堤防へ向かう小道が出来ている。
(朝早くから雪の堤防を散策するとは、物好きなやつがいるもんだ)
つられて祐介も、堤防の道をあがっていく。
堤防から見あげる見慣れた赤城山の山容が、祐介は大好きだ。
ここから見る赤城山は、1800メートル級の5つの峰が横一列にきれいに並ぶ。
その山が今日は麓まで、白一色に染まっている。
(50年近く見続けてきた赤城山だ。しかし、ここまで白くなったのは初めだな・・・)
対岸に、工場がいくつか見える。
祐介のおさない頃にはなかった建物だ。
工場と工場のあいだに民家はない。昔からの農地だけがひろがっている。
農地の真ん中に、アーチパイプで建てられた連棟のビニールハウスが立っている。
今の時期。内部で暖房を焚きながら、キュウリの苗を育てている。
キュウリのハウスがぐらりと揺れた・・・ような気がした。
(はてな。揺れたぞ?・・・
ビニールハウスの屋根がいま、たしかに揺れたような気がしたぞ・・・)
祐介の目が対岸のビニールハウスに、くぎ付けになる。
つい先ほど、ぜんたいが大きく、ぐらりと揺れたように見えたからだ。
しかしいまは、まったく動いていない。
(気のせいかな・・・
動くはずないよな。鉄のパイプで出来たビニールハウスが)
やっぱり錯覚だ。そんなはずがないよなと、祐介が対岸から目を転じていく。
視界の中からゆっくり、キュウリのビニールハウスが消え去っていく。
目の隅から消えようとした、まさにその瞬間。
ぐらりともういちど、ビニールハウスのまるい屋根が揺れた。
(また揺れたぞ!。確かに見た。こんどは錯覚じゃねぇ。
この目でいま、はっきりと見た!)
屋根が波うちはじめた。
ビニールハウスの屋根を支えていた鋼鉄製のパイプが、重みに負けて変形していく。
中央部が、崩れ始めた。
それでもたわみかけたアーチパイプが、必死に抵抗する。
屋根の重みを最後の力で受け止める。
しかし。勝負はあっけなかった。
数秒後。ビニールハウスの中央部が、雪煙をあげて地面へ陥没していく。
(嘘だろう・・・一晩中、雪の重さに耐えて頑張ったんだ。
雨がやみ、雪もやんだ今ごろになって、強風にあおられて崩れていくなんて、
まったくもって、信じられない光景だ・・・)
ビニールハウスの中央部が、かんぜんに地面へ落ちた。
30秒もかかっていない。
ハウスの中に人が居たら、かんぜんに押しつぶされていただろう。
時刻は8時17分。
キュウリ農家のハウス倒壊をきっかけに、このあたりのビニールハウスの
およそ8割が、あいついで倒壊していく。
(71)へつづく