上州の「寅」(43)
「どうだった?」
チャコが真正面から寅の目をのぞきこむ。
「なにが?」
「言ったでしょ。3番レジのおばちゃんの印象よ。
あのおばちゃん。あんたの目に、いったいどんな風に映った?。
それが聞きたいの」
「俺には関心がなかったようだな」
「あたりまえです。あんたに感心示すような女はこのあたりにいません!。
そうじゃないの。聞きたいのはあのおばちゃんの印象です」
「お釣りをもらったとき。手が荒れていたような気がしたな。
家事が忙しいのかな。あのおばちゃん」
「顔は?」
「顔?。普通だ。美人じゃないけど、ブスでもねぇ。
どこにでも居るごく普通のおばちゃんだな」
「誰かに似ていると思わなかった?」
「似ている?。誰に・・・」
「やっぱりだ。ピンと感じるものがなかったか、あんたには。
無理ないか。もともと感度が低いもんね」
チャコがストローの手を止める。
ホームセンターを出たあとチャコが、お茶していこうと声かける。
ちかい距離に小さなテラスが見える。
「誰に似ているというんだ。あのおばちゃん?」
「例えばよ。
あんな感じのおばちゃんから生まれた子供は、どんな子供だと思う?」
「美人でもブスでもねぇだろ。たぶん普通のこどもだ」
「普通じゃない。生まれた子供は金髪だ」
「あのおばちゃんが金髪のこどもを産んだの?。
となると国際結婚だ。相手はきっと青い目で金髪の外人だな」
「外れ。残念ながら旦那さんは日本人」
「バカ言うな。おかしいだろ。
断言してもいい。日本人同士から金髪の子供は絶対に産まれねぇ」
「おかしくない。その子は生まれたとき、きれいな黒髪だった。
金髪にしたのは一年前。
わたしのところへ来たのは半年前。
寅ちゃんと知り合って3ヶ月。
どう?。そんな金髪の女の子にこころ当たりがあるかしら?」
「心当たりがある金髪の女の子といえば・・・
えっ、ユキちゃんのことか!
ということは、あのおばちゃんはユキの母親か!」
「正解」
「ということはここは、この小豆島は、ユキちゃんのふるさとなのか」
「ユキはここが第2のふるさと。ユキが産まれたのは倉敷。
ここはユキの母親が生まれて育ったところ。
そしてここにはユキの2人目の父親と、11歳離れた妹がいる」
「2人目の父親と、11歳はなれた妹がいる?。この小豆島に?。
いったいぜんたいどういうことだ。頭がクラクラしてきた」
「長い話になります。ユキが金髪になったいきさつは」
(44)へつづく