オヤジ達の白球(72)記録的な雪
前日から降り続いた大雪のため群馬県は、全域で記録的な積雪になった。
県都の前橋は午前8時に、73㌢を記録。
1896年の統計開始以来、最高記録を2倍以上、更新した。
草津温泉では深夜に一日の降雪量として148㌢の、観測史上最高値を記録した。
雪の重みで建物が損壊する被害が相次いだ。
午前8時50分ごろ。
高崎市中央商店街のアーケードの屋根が雪の重みに耐えきれず、
50mあまりにわたって倒壊した。
山間部をはしる幹線道路で、車の立ち往生が相次いだ。
国道18号は、小諸から軽井沢の区間で400台。碓氷バイパスで270台が立ち往生した。
県職の柊はいまも現地にとどまったまま、戻って来る様子はない。
バレンタインの午後6時。
祐介の居酒屋「十六夜(いざよい)」へ、陽子があらわれた。
「雪の中をよく来たね。それにしても、札幌の雪まつりへ行くような重装備だな」
カウンターの中から祐介が、陽子を迎える。
「ありったけの衣装を着こんできました。
だけどね。200m歩いたらあたりから、後悔した。
雪道を歩くのはあんがい重労働だ。
汗をかいたときのため、着替えをリュックサックへ入れて来ればよかったのさ。
そんなことにも気がつかなかったんだ。あまりの雪の量に圧倒されてね」
自分では冷静だと思っていたのに、動転してたのよね1日中、とため息を吐く。
「ビニールハウスの倒壊も、車の立ち往生も、山村の限界集落の孤立も
ぜんぶ、今回のこの大雪のせいだ。
君がそこまで、こころを痛める必要はない」
「あんたのこころは痛んでいないの?
4番バッターが大ピンチなのよ!。
ハウスが潰れたら、農家は仕事にならないでしょ、わかってんの、あんた!」
「言われるまでもネェ。俺だってこころを痛めている。
だけど。どうしょうもねぇだろう。
なんとかしてやりたいのはやまやまだが、ハウスがそっくり潰れちまったんだ。
被害が大きすぎてとてもじゃないが、俺たちじゃどうにもならない。
手も足も出ねぇ」
「だからって何もしないで、ただ、事態を眺めているつもりなの?」
「倒壊したビニールハウスの撤去と再建のため、国が3割の補助を出すそうだ。
県も助成のため、うごきはじめた。
なにしろこのあたりのビニールハウスのほとんどが、倒壊したんだからな。
行政が被害を受けた農家の支援に踏み出した。
素人のおれたちよりは、はるかに力になるだろう」
「お金の問題じゃないでしょ!。どう支えるか、ハートの問題でしょ!」
「ハートの問題?」
「この居酒屋が燃えたら、あなたはどうするの?。
夕方、出てきたら、居酒屋が燃えて灰になっていた。
呆然とするでしょ、あなたは。
それとまったく同じことが目の前で起きたのよ。
慎吾くんは突然、仕事の手段をうしなったの。
国や県が補助に乗り出して来れば片付けや、再建のための道は見えてくる。
でもね。すぐには再建できないのよ。
資材が届くまで、早くても1年以上かかるというニュースを聞いたわ」
「ぜんぶ再建するためには、2年以上かかる云うニュースなら俺も聞いた」
「どうするの。2年の間、無収入になってしまったら」
「生産手段を失ったというのは、そういう問題だよな。たしかに」
「しっかりしてよ。あんたは監督だ。
北海の熊さんが、あたしの携帯へ電話してきた。
あねご。ハウスが潰れた慎吾のために、何かしてやりたいって言ってきた。
選手が慎吾のために、こころを痛めているのよ。
監督のあんたが手も足も出ないと言って、事態を呑気に
ながめている場合じゃないでしょ!」
(73)へつづく
前日から降り続いた大雪のため群馬県は、全域で記録的な積雪になった。
県都の前橋は午前8時に、73㌢を記録。
1896年の統計開始以来、最高記録を2倍以上、更新した。
草津温泉では深夜に一日の降雪量として148㌢の、観測史上最高値を記録した。
雪の重みで建物が損壊する被害が相次いだ。
午前8時50分ごろ。
高崎市中央商店街のアーケードの屋根が雪の重みに耐えきれず、
50mあまりにわたって倒壊した。
山間部をはしる幹線道路で、車の立ち往生が相次いだ。
国道18号は、小諸から軽井沢の区間で400台。碓氷バイパスで270台が立ち往生した。
県職の柊はいまも現地にとどまったまま、戻って来る様子はない。
バレンタインの午後6時。
祐介の居酒屋「十六夜(いざよい)」へ、陽子があらわれた。
「雪の中をよく来たね。それにしても、札幌の雪まつりへ行くような重装備だな」
カウンターの中から祐介が、陽子を迎える。
「ありったけの衣装を着こんできました。
だけどね。200m歩いたらあたりから、後悔した。
雪道を歩くのはあんがい重労働だ。
汗をかいたときのため、着替えをリュックサックへ入れて来ればよかったのさ。
そんなことにも気がつかなかったんだ。あまりの雪の量に圧倒されてね」
自分では冷静だと思っていたのに、動転してたのよね1日中、とため息を吐く。
「ビニールハウスの倒壊も、車の立ち往生も、山村の限界集落の孤立も
ぜんぶ、今回のこの大雪のせいだ。
君がそこまで、こころを痛める必要はない」
「あんたのこころは痛んでいないの?
4番バッターが大ピンチなのよ!。
ハウスが潰れたら、農家は仕事にならないでしょ、わかってんの、あんた!」
「言われるまでもネェ。俺だってこころを痛めている。
だけど。どうしょうもねぇだろう。
なんとかしてやりたいのはやまやまだが、ハウスがそっくり潰れちまったんだ。
被害が大きすぎてとてもじゃないが、俺たちじゃどうにもならない。
手も足も出ねぇ」
「だからって何もしないで、ただ、事態を眺めているつもりなの?」
「倒壊したビニールハウスの撤去と再建のため、国が3割の補助を出すそうだ。
県も助成のため、うごきはじめた。
なにしろこのあたりのビニールハウスのほとんどが、倒壊したんだからな。
行政が被害を受けた農家の支援に踏み出した。
素人のおれたちよりは、はるかに力になるだろう」
「お金の問題じゃないでしょ!。どう支えるか、ハートの問題でしょ!」
「ハートの問題?」
「この居酒屋が燃えたら、あなたはどうするの?。
夕方、出てきたら、居酒屋が燃えて灰になっていた。
呆然とするでしょ、あなたは。
それとまったく同じことが目の前で起きたのよ。
慎吾くんは突然、仕事の手段をうしなったの。
国や県が補助に乗り出して来れば片付けや、再建のための道は見えてくる。
でもね。すぐには再建できないのよ。
資材が届くまで、早くても1年以上かかるというニュースを聞いたわ」
「ぜんぶ再建するためには、2年以上かかる云うニュースなら俺も聞いた」
「どうするの。2年の間、無収入になってしまったら」
「生産手段を失ったというのは、そういう問題だよな。たしかに」
「しっかりしてよ。あんたは監督だ。
北海の熊さんが、あたしの携帯へ電話してきた。
あねご。ハウスが潰れた慎吾のために、何かしてやりたいって言ってきた。
選手が慎吾のために、こころを痛めているのよ。
監督のあんたが手も足も出ないと言って、事態を呑気に
ながめている場合じゃないでしょ!」
(73)へつづく