居酒屋日記・オムニバス (19)
第二話 小悪魔と呼ばれたい ⑧

それから2時間。
疲れたはてた顔をして智恵子が、戻ってきた。
暖簾をしまおうとして幸作が、店先へ出た時のことだ。
「よかった。無事に戻って来て、なによりだ。
中に入って一杯飲んでいけ。大変だったろう極道の事務所じゃ・・・うん?」
智恵子の後方に小さな人影が見える。
「あんたも入んな。わたしが世話になっている居酒屋さんだ、遠慮はいらない」
うながされて背後から出てきたのは、20歳そこそこに見える若い女だ。
(若い女?、ということはこの子がもしかして、例の母娘3Pの片割れか?・・・)
うつむいた横顔が、無言を守ったまま店の中へ入る。
明るい電灯のしたで見ると、女はさらに若く見える。
大人びた服装をしている。しかしどこかに、高校生と言っても通用するような
あどけなさが漂っている
「あたしは熱燗。この子になにか、温かいものをあげておくれ」
疲れたよと小さくつぶやいて、智恵子が崩れるように椅子に腰をおろす。
厨房に戻った幸平が、急いで熱燗を準備する。
「温かいウーロン茶でもいいかい?。うちには、そんなものしか置いてないが・・・」
幸平の問いかけに3Pの片割れが、「はい」と小さく答える。
「あんたが小悪魔のように生きたい、と考えているのは勝手だ。
誰も止やしない。あんたの人生だ。どうでも好き勝手に生きるがいいさ。
だけどね。まわりの大人を巻き込んで、迷惑をかけるのは駄目だ。
見てきただろう。極道の世界の恐ろしさを。
あいつらの手にかかったら、あんたの人生なんかあっというまに潰されちまう。
この程度で帰って来れたのは、運がよかっただけだ。
この先、たっぷり反省する必要があるね、あんたには・・・」
「はい」3Pの少女が、素直にうなずく。
(素直な子だ。なんでこんな子が、マグロ女の片棒を担いでいるんだ?。おかしいだろう)
熱燗を手にした幸平が、ちらりと3P少女の横顔を見る。
至近距離で見ると、少女の横顔がさらに幼く見える。
(どうやら、マグロ女の娘じゃなさそうだ。ツンケンしているマグロ女の顔に似ていない。
じゃ。いったいどこの何者なんだ。この小娘は・・・)
「携帯を出しな。持っているんだろう?」智恵子の問い詰めに、
少女が「はい」と素直に答える。バックの中からピンクの携帯を取り出す。
「学生証も持っているだろう。そいつも出しな」智恵子がさらに鋭い目で少女を睨む。
(学生証だって?、この子は学生なのか。もしかして・・・)
幸平の驚きが最高点に達していく。
だが少女が差し出した学生証が、さらなる驚きを呼ぶ。
「茨城県の那珂湊市、N高校の2年生か、ということは16歳だ。道理で若いと思った」
学生証を手にした智恵子が「あきれたね、まったく」と重いため息を吐く。
「マグロ女と何処で知り合いになったんだい。ネットかい?」
正直に答えたほうがあんたの身のためだ、と智恵子がすごんで見せる。
鉄筋で鍛えぬいた体は、こういうときにモノを言う。
智恵子の怖い顔よりも、筋肉質の全身から滲み出す気迫の方がはるかに怖い。
はたして。全身を硬くしていた16歳が観念して、スラスラとすべてを語りはじめた。
「風俗求人・高収入アルバイトというサイトを検索していたら、
娘急募、年齢17歳から20歳まで、という書き込みを見つけました。
報酬は即金で、3万円。すぐに飛びつきました」
(20)へつづく
新田さらだ館は、こちら
第二話 小悪魔と呼ばれたい ⑧

それから2時間。
疲れたはてた顔をして智恵子が、戻ってきた。
暖簾をしまおうとして幸作が、店先へ出た時のことだ。
「よかった。無事に戻って来て、なによりだ。
中に入って一杯飲んでいけ。大変だったろう極道の事務所じゃ・・・うん?」
智恵子の後方に小さな人影が見える。
「あんたも入んな。わたしが世話になっている居酒屋さんだ、遠慮はいらない」
うながされて背後から出てきたのは、20歳そこそこに見える若い女だ。
(若い女?、ということはこの子がもしかして、例の母娘3Pの片割れか?・・・)
うつむいた横顔が、無言を守ったまま店の中へ入る。
明るい電灯のしたで見ると、女はさらに若く見える。
大人びた服装をしている。しかしどこかに、高校生と言っても通用するような
あどけなさが漂っている
「あたしは熱燗。この子になにか、温かいものをあげておくれ」
疲れたよと小さくつぶやいて、智恵子が崩れるように椅子に腰をおろす。
厨房に戻った幸平が、急いで熱燗を準備する。
「温かいウーロン茶でもいいかい?。うちには、そんなものしか置いてないが・・・」
幸平の問いかけに3Pの片割れが、「はい」と小さく答える。
「あんたが小悪魔のように生きたい、と考えているのは勝手だ。
誰も止やしない。あんたの人生だ。どうでも好き勝手に生きるがいいさ。
だけどね。まわりの大人を巻き込んで、迷惑をかけるのは駄目だ。
見てきただろう。極道の世界の恐ろしさを。
あいつらの手にかかったら、あんたの人生なんかあっというまに潰されちまう。
この程度で帰って来れたのは、運がよかっただけだ。
この先、たっぷり反省する必要があるね、あんたには・・・」
「はい」3Pの少女が、素直にうなずく。
(素直な子だ。なんでこんな子が、マグロ女の片棒を担いでいるんだ?。おかしいだろう)
熱燗を手にした幸平が、ちらりと3P少女の横顔を見る。
至近距離で見ると、少女の横顔がさらに幼く見える。
(どうやら、マグロ女の娘じゃなさそうだ。ツンケンしているマグロ女の顔に似ていない。
じゃ。いったいどこの何者なんだ。この小娘は・・・)
「携帯を出しな。持っているんだろう?」智恵子の問い詰めに、
少女が「はい」と素直に答える。バックの中からピンクの携帯を取り出す。
「学生証も持っているだろう。そいつも出しな」智恵子がさらに鋭い目で少女を睨む。
(学生証だって?、この子は学生なのか。もしかして・・・)
幸平の驚きが最高点に達していく。
だが少女が差し出した学生証が、さらなる驚きを呼ぶ。
「茨城県の那珂湊市、N高校の2年生か、ということは16歳だ。道理で若いと思った」
学生証を手にした智恵子が「あきれたね、まったく」と重いため息を吐く。
「マグロ女と何処で知り合いになったんだい。ネットかい?」
正直に答えたほうがあんたの身のためだ、と智恵子がすごんで見せる。
鉄筋で鍛えぬいた体は、こういうときにモノを言う。
智恵子の怖い顔よりも、筋肉質の全身から滲み出す気迫の方がはるかに怖い。
はたして。全身を硬くしていた16歳が観念して、スラスラとすべてを語りはじめた。
「風俗求人・高収入アルバイトというサイトを検索していたら、
娘急募、年齢17歳から20歳まで、という書き込みを見つけました。
報酬は即金で、3万円。すぐに飛びつきました」
(20)へつづく
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