忠治が愛した4人の女 (52)
第四章 お町ふたたび ④

「へ・・・、お町が、帰ってきているのか!。
嘘じゃねぇだろうな!」
忠治の目が丸くなる。
「そうなんだ。実は、半年前のことだ」嘉藤太が、頬に苦い笑いを浮かべる。
「本当かよ。信じられねぇな」
「おめえが、百々一家の客人になった頃のことだ」
「離縁してきたのか、お町は・・・」
「あのやろう。
姑(しゅうとめ)殿と大喧嘩して追い出されてきたと言うだけで、
あとのことは何も言わねぇ。
毎日、名主の家にこもりっきりだった。
名主も世間体があるから、いまは身体を悪くて養生しているの一点張りだ。
俺が訪ねて行っても、合わせてくれねぇ。
それがこの間、ひょっこり訪ねて来てぜんぶわけを話してくれた。
話を聞いて驚いたぜ。
青天のへきれきってやつだ。瓢箪から駒が出るほどの衝撃だった」
「俺も驚いた。で、どんなわけが有ったんだ、お町のやつに?」
「聞いて驚くな忠治。すべては、おまえのせいだ」
「俺のせい?」
「お町はいまでも、おめえに惚れている。
いやはや、おったまげた話だ。
俺もはじめは呆れた。呆れたまま、何も言えなかった。
だがお町のはなしを聞いているうち、俺もだんだん納得をした」
「俺に惚れているのなら、なんでよその嫁に行ったんだ、お町のやつは!」
「お町は名主に大事に育てられた、世間を知らねぇ小娘だ。
名主夫婦に勧められるまま、夢見るような気分で嫁に行ったんだ。
そのときはな」
「たしかに16歳じゃ、そんなもんか。
花嫁行列に突入して、あんたに縛り上げられたのもそん時だ。
たしかあのとき、お町は「あんたなんか、大嫌い!」とはっきり言いやがった。
それがなんでいまごろ、いまでも惚れているなんて話しになるんだ?」
「最後まで聞いてくれ、忠治。
3年前。おめえは名主を助けるため、流れ者を斬り捨てた。
おめえが命がけで名主を救ったことで、お町ははじめて自分の本当の気持ちに気が付いた。
ただの乱暴者じゃねぇってことに、ようやく気が付いた。
お町はおさない頃から、おめえのことが好きだったことを思い出した。
そんときから、五惇堂の嫁でいることが、嫌で嫌でたまんなくなったそうだ」
「勝手なことばかりを言うな、お町って女も」
「そういうな。すべてはおまえに惚れているからだ。
できることならやり直したいと言っているが、おめえにはもう嫁がいる。
日蔭の暮らしになるが、それでもいいのかと念を押したら、
はい、覚悟していますと笑いやがった。
そうなったら俺にはもう、止めることが出来ねぇ。
いや。それどころか、おめえに頼みてぇ。
出来の悪い妹だが、俺にはたったひとりの可愛い妹だ。
世間の全部を敵に回して、お町は、五惇堂から飛び出してきた。
これから先のことは覚悟している。
妹の想いを受け止めてやってくれねぇかな。なぁ忠治・・・」
「で、お町はいるのかい、この家の中に?」
「ああ。朝っから奥の部屋で、おまえが来るのを待っている」
信じられない話が、目の前で展開していく。
夢じゃねぇだろうなと忠治が、右の頬をそっと軽く、叩いてみる。
(53)へつづく
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第四章 お町ふたたび ④

「へ・・・、お町が、帰ってきているのか!。
嘘じゃねぇだろうな!」
忠治の目が丸くなる。
「そうなんだ。実は、半年前のことだ」嘉藤太が、頬に苦い笑いを浮かべる。
「本当かよ。信じられねぇな」
「おめえが、百々一家の客人になった頃のことだ」
「離縁してきたのか、お町は・・・」
「あのやろう。
姑(しゅうとめ)殿と大喧嘩して追い出されてきたと言うだけで、
あとのことは何も言わねぇ。
毎日、名主の家にこもりっきりだった。
名主も世間体があるから、いまは身体を悪くて養生しているの一点張りだ。
俺が訪ねて行っても、合わせてくれねぇ。
それがこの間、ひょっこり訪ねて来てぜんぶわけを話してくれた。
話を聞いて驚いたぜ。
青天のへきれきってやつだ。瓢箪から駒が出るほどの衝撃だった」
「俺も驚いた。で、どんなわけが有ったんだ、お町のやつに?」
「聞いて驚くな忠治。すべては、おまえのせいだ」
「俺のせい?」
「お町はいまでも、おめえに惚れている。
いやはや、おったまげた話だ。
俺もはじめは呆れた。呆れたまま、何も言えなかった。
だがお町のはなしを聞いているうち、俺もだんだん納得をした」
「俺に惚れているのなら、なんでよその嫁に行ったんだ、お町のやつは!」
「お町は名主に大事に育てられた、世間を知らねぇ小娘だ。
名主夫婦に勧められるまま、夢見るような気分で嫁に行ったんだ。
そのときはな」
「たしかに16歳じゃ、そんなもんか。
花嫁行列に突入して、あんたに縛り上げられたのもそん時だ。
たしかあのとき、お町は「あんたなんか、大嫌い!」とはっきり言いやがった。
それがなんでいまごろ、いまでも惚れているなんて話しになるんだ?」
「最後まで聞いてくれ、忠治。
3年前。おめえは名主を助けるため、流れ者を斬り捨てた。
おめえが命がけで名主を救ったことで、お町ははじめて自分の本当の気持ちに気が付いた。
ただの乱暴者じゃねぇってことに、ようやく気が付いた。
お町はおさない頃から、おめえのことが好きだったことを思い出した。
そんときから、五惇堂の嫁でいることが、嫌で嫌でたまんなくなったそうだ」
「勝手なことばかりを言うな、お町って女も」
「そういうな。すべてはおまえに惚れているからだ。
できることならやり直したいと言っているが、おめえにはもう嫁がいる。
日蔭の暮らしになるが、それでもいいのかと念を押したら、
はい、覚悟していますと笑いやがった。
そうなったら俺にはもう、止めることが出来ねぇ。
いや。それどころか、おめえに頼みてぇ。
出来の悪い妹だが、俺にはたったひとりの可愛い妹だ。
世間の全部を敵に回して、お町は、五惇堂から飛び出してきた。
これから先のことは覚悟している。
妹の想いを受け止めてやってくれねぇかな。なぁ忠治・・・」
「で、お町はいるのかい、この家の中に?」
「ああ。朝っから奥の部屋で、おまえが来るのを待っている」
信じられない話が、目の前で展開していく。
夢じゃねぇだろうなと忠治が、右の頬をそっと軽く、叩いてみる。
(53)へつづく
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