東京電力集金人 (32)記録的な大雪
2週続けて発生した湾岸低気圧は、関東地方に記録的な大雪を降らせた。
過去100年における一番の大雪という結果をもたらし、ようやく2月15日の朝が明けた。
テレビが、14日から降り始めた大雪の詳細について、あらためて伝えはじめた。
本州の南岸を北東へ進んだ今回の低気圧の影響で、関東と甲信は昨夜から雪の降り方が
本格的に強まり、今朝にかけて記録的な大雪になったと伝えている。
山梨県内はたった1日で、1メートルの積雪を記録した。
午前5時に甲府市で110センチ。河口湖で138センチ。いずれも観測史上の1位を更新した。
そのほか秩父で96センチ。軽井沢で80センチ。飯田で72センチ。前橋で71センチ。
熊谷で62センチと、いずれも観測開始以来、最多の積雪を記録した。
この大雪はさらに降り続く恐れがあると、付け加えた。
群馬や栃木県の平野部、埼玉県の北部、茨城県の西地域や山梨県で、あと2~3時間。
埼玉県の秩父地方は昼前にかけ、長野県の中南部は夕方にかけてさらに大雪が続く見込みで、
気象台は大雪による交通障害などに、特に警戒してくださいと呼びかけた。
前線が通過する関東の沿岸部は、長時間にわたり大雨への警戒が必要だと解説が続く。
関東の沿岸部は、15日未明にかけてまでが雪のピークですと言い切った後、
最深積雪は東京都心で27センチと先週末の大雪の記録に並び、横浜では28センチと
16年ぶりに20センチを超えたと、現在の様子を伝えた。
明け方から関東の沿岸部では雪から雨に変わった場所が多く、これから昼前にかけて
1時間に30ミリ以上の激しい雨の降るおそれがあると付け加えた。
16日6時までの24時間に予想される降水量は、多い所で100ミリ。
土砂災害や、河川の増水やはん濫に警戒し、低い土地の浸水に注意が必要だと呼びかけた。
「おはよう」と眠そうなるみが、2階のおふくろの寝室から降りてきた。
「おはよう。目覚めのくちずけは?」と催促すると、「馬鹿。お母さんがもう起きてくるわ」
と素っ気なく素通りして、洗面所へ消えていく。
入れ替わりに現れたおふくろが、「2階から見たら、あたしの車が埋まっていたよ。
ずいぶん降ったんだねぇ。たった一晩で」とこれまた俺の前を素通りして、キッチンへ消えていく。
俺だけが邪魔者と言う感じで、女2人の、いつものペースでの朝の準備が始まる。
おふくろはキッチンで、いつもの調子で朝の食事の準備をはじめた。
洗顔を終えたるみは洗濯物を抱えて、俺の前を、ふたたびスタスタと素通りしていく。
廊下へ消える寸前でるみが、「ねぇ?もしかしたら、その服」と不審そうな顔で振り返る。
「その服、もしかしたら昨夜のまま?。着替えて下さい、朝なんだから」
「あ。その子の横着は昔からだ。
黙って放っておくと、3日も4日も同じ服を着続けるから気をつけな。
かまわないから、身ぐるみはがして洗濯をしておくれ。
そうでもしないと脱がないよ、その子は。寒くなる冬は特にね」
承知しましたと洗濯物のかごを廊下に置いたるみが、大股で戻ってくる。
「早く脱いで。今日は特別に忙しいんだから」と両手を腰に当て、俺の前に仁王立ちする。
「特別に忙しい?」
「食事を済ませたら、屋根の雪下ろしが待っているでしょ。
強風が吹いているから注意が必要だし、先週以上に大量の雪が屋根の上に残っているわ。
忙しいんだから、ぼんやりしないでさっさと服を着替えて下さいな」
「雪下ろしをするのなら、汗をかくからその後でもいいんじゃないか。着替えるのは」
「それとこれとは別問題です!」といきなりるみが、俺の上着に手を伸ばす。
「よせよ」と避けたつもりだが、るみの右手は予想以上に早かった。
素早くつかんだ襟首をむんずと手繰り寄せると、俺の耳元へ、可愛い唇を寄せてきた。
「早く朝の仕事を片づけて、屋根の上へ登りましょ。
そしたらあなたのお望み通りに、あなたへ、朝のくちずけをあげるから。
どう。悪くない提案でしょう。分かったらさっさと脱いで下さいな。
私の仕事に協力をしてよ。うふふ」
鼻を鳴らして笑ったるみが、俺の顔の周りに朝の化粧の匂いを残して、
洗濯のために、るんるんと、お尻を振って消えていく。
2月15日、午前6時。
外の雪景色とはまったく無関係に、いつものように我が家の朝がはじまった。
だがこのあと、雪下ろしのために長屋の屋根に上った俺たちは、とんでもない光景を
この目で、やがて目撃をすることになる・・・・
(33)へつづく
落合順平 全作品は、こちらでどうぞ
2週続けて発生した湾岸低気圧は、関東地方に記録的な大雪を降らせた。
過去100年における一番の大雪という結果をもたらし、ようやく2月15日の朝が明けた。
テレビが、14日から降り始めた大雪の詳細について、あらためて伝えはじめた。
本州の南岸を北東へ進んだ今回の低気圧の影響で、関東と甲信は昨夜から雪の降り方が
本格的に強まり、今朝にかけて記録的な大雪になったと伝えている。
山梨県内はたった1日で、1メートルの積雪を記録した。
午前5時に甲府市で110センチ。河口湖で138センチ。いずれも観測史上の1位を更新した。
そのほか秩父で96センチ。軽井沢で80センチ。飯田で72センチ。前橋で71センチ。
熊谷で62センチと、いずれも観測開始以来、最多の積雪を記録した。
この大雪はさらに降り続く恐れがあると、付け加えた。
群馬や栃木県の平野部、埼玉県の北部、茨城県の西地域や山梨県で、あと2~3時間。
埼玉県の秩父地方は昼前にかけ、長野県の中南部は夕方にかけてさらに大雪が続く見込みで、
気象台は大雪による交通障害などに、特に警戒してくださいと呼びかけた。
前線が通過する関東の沿岸部は、長時間にわたり大雨への警戒が必要だと解説が続く。
関東の沿岸部は、15日未明にかけてまでが雪のピークですと言い切った後、
最深積雪は東京都心で27センチと先週末の大雪の記録に並び、横浜では28センチと
16年ぶりに20センチを超えたと、現在の様子を伝えた。
明け方から関東の沿岸部では雪から雨に変わった場所が多く、これから昼前にかけて
1時間に30ミリ以上の激しい雨の降るおそれがあると付け加えた。
16日6時までの24時間に予想される降水量は、多い所で100ミリ。
土砂災害や、河川の増水やはん濫に警戒し、低い土地の浸水に注意が必要だと呼びかけた。
「おはよう」と眠そうなるみが、2階のおふくろの寝室から降りてきた。
「おはよう。目覚めのくちずけは?」と催促すると、「馬鹿。お母さんがもう起きてくるわ」
と素っ気なく素通りして、洗面所へ消えていく。
入れ替わりに現れたおふくろが、「2階から見たら、あたしの車が埋まっていたよ。
ずいぶん降ったんだねぇ。たった一晩で」とこれまた俺の前を素通りして、キッチンへ消えていく。
俺だけが邪魔者と言う感じで、女2人の、いつものペースでの朝の準備が始まる。
おふくろはキッチンで、いつもの調子で朝の食事の準備をはじめた。
洗顔を終えたるみは洗濯物を抱えて、俺の前を、ふたたびスタスタと素通りしていく。
廊下へ消える寸前でるみが、「ねぇ?もしかしたら、その服」と不審そうな顔で振り返る。
「その服、もしかしたら昨夜のまま?。着替えて下さい、朝なんだから」
「あ。その子の横着は昔からだ。
黙って放っておくと、3日も4日も同じ服を着続けるから気をつけな。
かまわないから、身ぐるみはがして洗濯をしておくれ。
そうでもしないと脱がないよ、その子は。寒くなる冬は特にね」
承知しましたと洗濯物のかごを廊下に置いたるみが、大股で戻ってくる。
「早く脱いで。今日は特別に忙しいんだから」と両手を腰に当て、俺の前に仁王立ちする。
「特別に忙しい?」
「食事を済ませたら、屋根の雪下ろしが待っているでしょ。
強風が吹いているから注意が必要だし、先週以上に大量の雪が屋根の上に残っているわ。
忙しいんだから、ぼんやりしないでさっさと服を着替えて下さいな」
「雪下ろしをするのなら、汗をかくからその後でもいいんじゃないか。着替えるのは」
「それとこれとは別問題です!」といきなりるみが、俺の上着に手を伸ばす。
「よせよ」と避けたつもりだが、るみの右手は予想以上に早かった。
素早くつかんだ襟首をむんずと手繰り寄せると、俺の耳元へ、可愛い唇を寄せてきた。
「早く朝の仕事を片づけて、屋根の上へ登りましょ。
そしたらあなたのお望み通りに、あなたへ、朝のくちずけをあげるから。
どう。悪くない提案でしょう。分かったらさっさと脱いで下さいな。
私の仕事に協力をしてよ。うふふ」
鼻を鳴らして笑ったるみが、俺の顔の周りに朝の化粧の匂いを残して、
洗濯のために、るんるんと、お尻を振って消えていく。
2月15日、午前6時。
外の雪景色とはまったく無関係に、いつものように我が家の朝がはじまった。
だがこのあと、雪下ろしのために長屋の屋根に上った俺たちは、とんでもない光景を
この目で、やがて目撃をすることになる・・・・
(33)へつづく
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