オヤジ達の白球(48)足底筋膜炎(そくていきんまくえん)
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「いてて。こんなときに持病の足底筋膜炎が再発しゃがった!」
柊がグランドへ座り込む。あまりの苦痛に顔がゆがむ。
足の裏には足底筋膜と呼ばれる薄い膜がある。
幅の広いこの腱がかかとの骨から、足指の付け根までをカバーしている。
足は、弓状(アーチ)に体重を支えている。
弓の弦のようにピンと張り、足のこの構造を支えているのが足底筋膜。
丈夫なはずのこの足底筋膜も、過度の歩行やランニング、ジャンプなどで使いすぎると、
やがて古いゴム管のようなひびが入る。
このひびがやがて炎症を起こす。
筋膜にひろがった炎症がしだいに、足裏の激痛をもたらす。
「なんと。古(いにしえ)のホームラン王は、足裏を痛めていたのか。
それはまた大ごとじゃ。
どうじゃ、立ち上がり、ホームベースまで歩くことはできるか?」
3塁の塁審が柊へ問いかける。
顔をゆがめている柊が「いや、駄目だ。無理だ。立つことは出来ん」と首を振る。
「もったいないのう。誰が見てもフェンスを越えた大ホームランじゃ。
じゃがのう。打った本人がホームインしないと、4点目は成立しない。
またこのままここで立ち止まり、3塁ベースへ到達しない場合は記録上、2塁打ということになる。
それがルールじゃ」
ええっ・・・特大のホームランが2塁打になっちまう?。
冗談じゃねぇ。それじゃ俺が肩を貸してやろうと3塁コーチがグランドへ駆けだす。
うずくまっている柊へ駆け寄る。
「柊さん。俺が肩を貸します。3塁を踏んで、ホームベースへ戻りましょう」
「こら。ランナーコーチ。よさんか。選手へ手を貸してはいかん。
それではホームランどころか、柊がアウトになってしまうぞ!」
3塁の塁審が肩を貸そうとする3塁コーチをあわてて制止する。
「間違っても走者に触れてはいかん。
ホームインする前に、3塁のベースコーチとハイタッチしただけでもアウトになる」
「なんだって。味方同士でハイタッチしただけでもアウトになる?。
そんな馬鹿なルールがあるのか!」
「ところが有る。事実じゃ。
ルールブックに、味方が走者の帰塁や離塁を肉体的に援助したと審判員が認めた場合、
援助を受けた走者にインターフェア(守備妨害)を宣告することができる、
とちゃんと書いてある。
走者をアウトにしたうえ、ボールデッドで競技が中断になる」
「手助けを排除して、自力でホームインしなければホームランも、
得点も成立しないということか?」
「うむ。ルールの上ではそういうことなる。
だがな。味方が手を貸せばアウトになるが、敵が手を貸した場合はおとがめなしじゃ。
わかるかな。わしの言っておる意味が」
「なるほど。味方は手を貸すことはできないが、敵が手を貸してもルール違反にはならん。
そういうことですね事務局長。
となれば黙って見ている場合ではないですね。おい。ショート」
なりゆきを見守っていた3塁手が遊撃手に声をかける。
「俺らが手を出してもルール違反にならないらしい。手伝おうじゃないか」
おれたちの肩につかまってくれと、2人の若者が腰をおとす。
「すまんな。助かるぜ。恩に着る」
「いいえ。どういたしまして。人を助けるのが俺らの仕事です。
それに、あそこまで飛んだ大ホームランが無効になるなんて勿体ないかぎりです。
2人でささえます。
ゆっくり3塁ベースを踏み、ホームインしましょう」
3塁手と遊撃手にささえられて柊が立ち上がる。
ゆっくりした歩調を保ったまま、柊が千佳が待ち構えるホームベースへ戻って来る。
「ホ~ムイン!。4対3で、居酒屋チームさんの勝ちで~す。
おたがい、たいへん、お疲れ様でした~」
(49)へつづく
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「いてて。こんなときに持病の足底筋膜炎が再発しゃがった!」
柊がグランドへ座り込む。あまりの苦痛に顔がゆがむ。
足の裏には足底筋膜と呼ばれる薄い膜がある。
幅の広いこの腱がかかとの骨から、足指の付け根までをカバーしている。
足は、弓状(アーチ)に体重を支えている。
弓の弦のようにピンと張り、足のこの構造を支えているのが足底筋膜。
丈夫なはずのこの足底筋膜も、過度の歩行やランニング、ジャンプなどで使いすぎると、
やがて古いゴム管のようなひびが入る。
このひびがやがて炎症を起こす。
筋膜にひろがった炎症がしだいに、足裏の激痛をもたらす。
「なんと。古(いにしえ)のホームラン王は、足裏を痛めていたのか。
それはまた大ごとじゃ。
どうじゃ、立ち上がり、ホームベースまで歩くことはできるか?」
3塁の塁審が柊へ問いかける。
顔をゆがめている柊が「いや、駄目だ。無理だ。立つことは出来ん」と首を振る。
「もったいないのう。誰が見てもフェンスを越えた大ホームランじゃ。
じゃがのう。打った本人がホームインしないと、4点目は成立しない。
またこのままここで立ち止まり、3塁ベースへ到達しない場合は記録上、2塁打ということになる。
それがルールじゃ」
ええっ・・・特大のホームランが2塁打になっちまう?。
冗談じゃねぇ。それじゃ俺が肩を貸してやろうと3塁コーチがグランドへ駆けだす。
うずくまっている柊へ駆け寄る。
「柊さん。俺が肩を貸します。3塁を踏んで、ホームベースへ戻りましょう」
「こら。ランナーコーチ。よさんか。選手へ手を貸してはいかん。
それではホームランどころか、柊がアウトになってしまうぞ!」
3塁の塁審が肩を貸そうとする3塁コーチをあわてて制止する。
「間違っても走者に触れてはいかん。
ホームインする前に、3塁のベースコーチとハイタッチしただけでもアウトになる」
「なんだって。味方同士でハイタッチしただけでもアウトになる?。
そんな馬鹿なルールがあるのか!」
「ところが有る。事実じゃ。
ルールブックに、味方が走者の帰塁や離塁を肉体的に援助したと審判員が認めた場合、
援助を受けた走者にインターフェア(守備妨害)を宣告することができる、
とちゃんと書いてある。
走者をアウトにしたうえ、ボールデッドで競技が中断になる」
「手助けを排除して、自力でホームインしなければホームランも、
得点も成立しないということか?」
「うむ。ルールの上ではそういうことなる。
だがな。味方が手を貸せばアウトになるが、敵が手を貸した場合はおとがめなしじゃ。
わかるかな。わしの言っておる意味が」
「なるほど。味方は手を貸すことはできないが、敵が手を貸してもルール違反にはならん。
そういうことですね事務局長。
となれば黙って見ている場合ではないですね。おい。ショート」
なりゆきを見守っていた3塁手が遊撃手に声をかける。
「俺らが手を出してもルール違反にならないらしい。手伝おうじゃないか」
おれたちの肩につかまってくれと、2人の若者が腰をおとす。
「すまんな。助かるぜ。恩に着る」
「いいえ。どういたしまして。人を助けるのが俺らの仕事です。
それに、あそこまで飛んだ大ホームランが無効になるなんて勿体ないかぎりです。
2人でささえます。
ゆっくり3塁ベースを踏み、ホームインしましょう」
3塁手と遊撃手にささえられて柊が立ち上がる。
ゆっくりした歩調を保ったまま、柊が千佳が待ち構えるホームベースへ戻って来る。
「ホ~ムイン!。4対3で、居酒屋チームさんの勝ちで~す。
おたがい、たいへん、お疲れ様でした~」
(49)へつづく