北へふたり旅(4)
「ベトナムの送り出し機関は、230社をこえる。
どうしてこんなに多いか、それは、とにかく儲かるからだ。
送り出し機関の費用はハノイで7000ドル(79万円)。
ホーチミンは5000ドル(56万円)が相場の平均。
ただし。どこの送り出し機関に聞いても費用についてはベトナム政府が決めている
3600ドル(40万円)、と言っているけどね」
農協職員M君の饒舌は、とまらない。
かれは海外実習生制度ついて驚くほどよく知っている。
それには、じつは背景がある。
2017年3月23日。
群馬県はベトナムの社会事業省と、技能実習生の育成を行う覚書(MOU)を締結した。
MOUは条約や契約書とは異なり、法的な拘束力をもたない。
しかしこれを契機に群馬県は、ベトナムの農業研修生受け入れに本腰を入れる。
関係団体のひとつ農協へ、打診が来る。
これにこたえるかたちで、農機具課のM君に白羽の矢がたった。
「公式費用とは別に、プラスの費用がかかる。
実習生の話によれば来日前の日本語教育費や寮費、ブローカーへの紹介料、
制服代やスーツケース代(指定のものを購入させられる)、
組合への謝礼や、送り出し機関の職員に対する賄賂、保証金など、
さまざまな名目の上乗せがあるという。
あげく。出国する前の借金が、100万円をこえることになる」
「出国するまえの借金が100万円。大金だろうベトナムじゃ」
「大金です。かれらの平均月収は3万円。
しかし月3万の収入じゃ、ぎりぎりの生活しかできないという。
でも実態はもっと酷い。
ホーチミン市での接客のアルバイトは、時給90円。
一ヶ月ははたらいても、1万5千円にしかならない。
これではいくら働いてもベトナムの若者は、貧困から、
絶対に抜け出すことができない」
「それでかれらは日本へやってくるのか。
一攫千金を夢見て、多額の借金をしてでも日本へやってくるんだな」
「そうです。かれらの目的はただひとつ。
ベトナムで百姓をするためじゃない。ただひたすらに金を貯めることです。
それだけのため、かれらは日本へ出稼ぎにやってくる」
「実際のところかれらは日本へきてどの程度、稼げるの?」
「実習生の大半は『日本で250万円~300万円稼げる』と思っている。
これ自体は間違いじゃない。
ベトナムの送り出し機関も、このくらいは稼げるとハッキリ言っている。
ただし。稼げるはイコール利益というわけじゃない。
ここを誤解してはいけない」
「そうだね。すべてが使えるわけじゃないからね」
「そういうことです。時給834円として、8時間、22日働くと146,784円。
残業は25%増しで、2時間づつ22日働くと、45,870円。
ということで月の収入が、192,654円になる」
「そこそこの収入のように思えるけど?」
「はい。全部、本人の手元に残ればそれなりの収入になります。
でも実は、落とし穴があるんです」
(5)へつづく
「ベトナムの送り出し機関は、230社をこえる。
どうしてこんなに多いか、それは、とにかく儲かるからだ。
送り出し機関の費用はハノイで7000ドル(79万円)。
ホーチミンは5000ドル(56万円)が相場の平均。
ただし。どこの送り出し機関に聞いても費用についてはベトナム政府が決めている
3600ドル(40万円)、と言っているけどね」
農協職員M君の饒舌は、とまらない。
かれは海外実習生制度ついて驚くほどよく知っている。
それには、じつは背景がある。
2017年3月23日。
群馬県はベトナムの社会事業省と、技能実習生の育成を行う覚書(MOU)を締結した。
MOUは条約や契約書とは異なり、法的な拘束力をもたない。
しかしこれを契機に群馬県は、ベトナムの農業研修生受け入れに本腰を入れる。
関係団体のひとつ農協へ、打診が来る。
これにこたえるかたちで、農機具課のM君に白羽の矢がたった。
「公式費用とは別に、プラスの費用がかかる。
実習生の話によれば来日前の日本語教育費や寮費、ブローカーへの紹介料、
制服代やスーツケース代(指定のものを購入させられる)、
組合への謝礼や、送り出し機関の職員に対する賄賂、保証金など、
さまざまな名目の上乗せがあるという。
あげく。出国する前の借金が、100万円をこえることになる」
「出国するまえの借金が100万円。大金だろうベトナムじゃ」
「大金です。かれらの平均月収は3万円。
しかし月3万の収入じゃ、ぎりぎりの生活しかできないという。
でも実態はもっと酷い。
ホーチミン市での接客のアルバイトは、時給90円。
一ヶ月ははたらいても、1万5千円にしかならない。
これではいくら働いてもベトナムの若者は、貧困から、
絶対に抜け出すことができない」
「それでかれらは日本へやってくるのか。
一攫千金を夢見て、多額の借金をしてでも日本へやってくるんだな」
「そうです。かれらの目的はただひとつ。
ベトナムで百姓をするためじゃない。ただひたすらに金を貯めることです。
それだけのため、かれらは日本へ出稼ぎにやってくる」
「実際のところかれらは日本へきてどの程度、稼げるの?」
「実習生の大半は『日本で250万円~300万円稼げる』と思っている。
これ自体は間違いじゃない。
ベトナムの送り出し機関も、このくらいは稼げるとハッキリ言っている。
ただし。稼げるはイコール利益というわけじゃない。
ここを誤解してはいけない」
「そうだね。すべてが使えるわけじゃないからね」
「そういうことです。時給834円として、8時間、22日働くと146,784円。
残業は25%増しで、2時間づつ22日働くと、45,870円。
ということで月の収入が、192,654円になる」
「そこそこの収入のように思えるけど?」
「はい。全部、本人の手元に残ればそれなりの収入になります。
でも実は、落とし穴があるんです」
(5)へつづく