北へふたり旅(16)
一瞬の出来事だった。
足を滑らせた妻が、尻から斜面へ落ちかける。
(あ・・・危ない!)
妻も驚いている。
転倒を避け、バランスを保とうとしている。
若い頃なら難なく回避できただろう。しかし60を過ぎるとそうはいかない。
足が滑っていく。
ストンと妻が、尻から斜面へ落ちた。
右手が地面へ伸び、さらなる転倒をふせいだ。
「大丈夫か!」
「滑っちゃった」妻が斜面から立ち上がる。
なにごともなかったように、自分のボールへむかって降りていく。
(右手を突いたように見えたが。大事なかったようだな。やれやれ)
妻が履いているスパイクレスのシューズは、滑りやすい。
ゴルフショップへ行くとソフトスパイク付きのシューズと、スニーカーのような
スパイクレスシューズが並んでいる。
ゴムやプラスチック製の鋲を靴底に装着したものが、ソフトスパイク。
ソールと一体型の構造で、素材やブロックパターンなどに工夫を凝らし、
滑りを抑制しているものがスパイクレスシューズ。
昔のゴルフシューズは、革のソールに金属の鋲がはえていた。
地面に鋲を刺し、滑りを抑制していた。
しかし金属製の鋲は、歩いただけでグリーンにダメージを与える。
足を引きずれば芝の修復に、大きな時間がかかる。
こうしたことからゴルフシューズの金属鋲が姿を消した。
かわりに登場したのが、プラスチックの鋲を装着したソフトスパイク。
ひとつひとつが爪の形になっている。
鋲が消耗しても交換することができる。手入れ次第でながく使うことができる。
さらに進化したものが、スパイクレス。
靴底にスパイクは無い。
ソール自体に滑らない加工がなされている。
とうぜんソールの部分がすり減れば、グリップ力も落ちてくる。
妻が尻餅をついたのは見えた。
しかし。遠く離れていたため、仔細はわからない。
2打地点へ戻った妻が、グリーンまでの距離を確認している。
クラブをかまえる。
動揺はないようだ。
いつものアドレスのあと、妻がクラブを振りあげる。
グリーンまで130ヤード。
普通に当たれば届く距離だ。
しかし。トップからの切り返しが、いつもより鈍いように見えた。
(タイミングがずれているな。なにか、不具合でもあったかな?)
そんなことを感じさせる、力の抜けたスイングだ。
結果はすぐにあらわれた。
鈍く離陸したボールが、右方向へそれていく。
そこには深いバンカーが、口をあけてまっている。
手前に落ちたボールがそのまま、深いバンカーの中へ消えていく。
(珍しいな・・・いい場所から、ミスショットを打つなんて)
フェアウェイからのショットはやさしい。
よほどのことがないかぎり、ミスにはつながらない。
目線をもどした時。
妻が右手をささえながら、カートへもどってきた。
「ねぇ・・・やっちゃったみたい」顔をしかめている。
なんだぁ・・・?。何をいったい、やったんだぁ?・・・
(17)へつづく
一瞬の出来事だった。
足を滑らせた妻が、尻から斜面へ落ちかける。
(あ・・・危ない!)
妻も驚いている。
転倒を避け、バランスを保とうとしている。
若い頃なら難なく回避できただろう。しかし60を過ぎるとそうはいかない。
足が滑っていく。
ストンと妻が、尻から斜面へ落ちた。
右手が地面へ伸び、さらなる転倒をふせいだ。
「大丈夫か!」
「滑っちゃった」妻が斜面から立ち上がる。
なにごともなかったように、自分のボールへむかって降りていく。
(右手を突いたように見えたが。大事なかったようだな。やれやれ)
妻が履いているスパイクレスのシューズは、滑りやすい。
ゴルフショップへ行くとソフトスパイク付きのシューズと、スニーカーのような
スパイクレスシューズが並んでいる。
ゴムやプラスチック製の鋲を靴底に装着したものが、ソフトスパイク。
ソールと一体型の構造で、素材やブロックパターンなどに工夫を凝らし、
滑りを抑制しているものがスパイクレスシューズ。
昔のゴルフシューズは、革のソールに金属の鋲がはえていた。
地面に鋲を刺し、滑りを抑制していた。
しかし金属製の鋲は、歩いただけでグリーンにダメージを与える。
足を引きずれば芝の修復に、大きな時間がかかる。
こうしたことからゴルフシューズの金属鋲が姿を消した。
かわりに登場したのが、プラスチックの鋲を装着したソフトスパイク。
ひとつひとつが爪の形になっている。
鋲が消耗しても交換することができる。手入れ次第でながく使うことができる。
さらに進化したものが、スパイクレス。
靴底にスパイクは無い。
ソール自体に滑らない加工がなされている。
とうぜんソールの部分がすり減れば、グリップ力も落ちてくる。
妻が尻餅をついたのは見えた。
しかし。遠く離れていたため、仔細はわからない。
2打地点へ戻った妻が、グリーンまでの距離を確認している。
クラブをかまえる。
動揺はないようだ。
いつものアドレスのあと、妻がクラブを振りあげる。
グリーンまで130ヤード。
普通に当たれば届く距離だ。
しかし。トップからの切り返しが、いつもより鈍いように見えた。
(タイミングがずれているな。なにか、不具合でもあったかな?)
そんなことを感じさせる、力の抜けたスイングだ。
結果はすぐにあらわれた。
鈍く離陸したボールが、右方向へそれていく。
そこには深いバンカーが、口をあけてまっている。
手前に落ちたボールがそのまま、深いバンカーの中へ消えていく。
(珍しいな・・・いい場所から、ミスショットを打つなんて)
フェアウェイからのショットはやさしい。
よほどのことがないかぎり、ミスにはつながらない。
目線をもどした時。
妻が右手をささえながら、カートへもどってきた。
「ねぇ・・・やっちゃったみたい」顔をしかめている。
なんだぁ・・・?。何をいったい、やったんだぁ?・・・
(17)へつづく