のほほんとしててもいいですか

ソプラノ歌手 佐藤容子のブログです。よろしくお願いいたします!

創作:スカボロフェア‐第3話‐

2011-07-08 | 『創作・短いお話』




第3話≪セージ≫







ここはスカボロー







商人が行きかう街








あの緑のスタンドで老婆が売っているのはセージ











昔の恋を思い出していました



かなり昔のことです





わたしはいつもあなたを想い、あなたもいつもわたしを想っていました




わたしの目はいつもあなたの姿を追い、あなたの目はいつもわたしを追いました





わたしはいつも遠くにいるあなたの呼吸を感じ、あなたはいつもわたしの鼓動をつかんでいました











でもわたしは森の奥に住む妖精のセージ






池のほとりの大木に一人ですむセージ




もちろん知っていました





あなたを愛せば死神をも愛さなければならないことを






そう






わたしに死がやってくることを











でも





瞬間でもよかった




愛というものに包まれてみたかった








わたしはこうして緑の葉になりました










でもあの暖かい一瞬のことはずっと忘れません




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創作:スカボロフェア‐第1話‐

2011-07-05 | 『創作・短いお話』



Are you going to Scarborough Fair?
Parsley, sage, rosemary and thyme
Remember me to one who lives there
She once was a true love of mine






第1話≪ローズマリー≫





ここはスカボロー




商人が行きかう街






あの赤いスタンドで少女が売っているのはローズマリー








聖母マリアのバラ、ローズマリー




聖母はいつも聖母でいなくてはなりませんか…?





なにをいいますか、聖母はいつも聖母です






清く美しく慎み深く慈愛に満ちています








でも、知っていますか…





寒い冬の暗く沈んだ雲の下で



ローズマリーは色とりどりの花をつけることを…






白、ピンク、紫紺、青…








ほんとは女として少しは着飾りたいと願っていました


少なくともわたしにはそう思えたのです







でも、ひとつ、付け加えなくてはなりません




それらの花は、とても小さく可憐に咲きます


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創作:スカボロフェア‐第2話‐

2011-07-01 | 『創作・短いお話』






第2話≪ミント≫






ここはスカボロー




商人が行きかう街






あの青いスタンドで少年が売っているのはミント









この水辺一面に広がるみずみずしく青々とした草たち…






記憶のどこかに残る、風に乗って香る香り





ミントの香り







誘ったわたしが悪かったのでしょうか…







ただの遊びよ…




ただの遊び







冥界の神の心はかんたんにこぼれ落ちてきました







怒った妃はわたしを草に変えてしまいました










でも、お妃さま






わたしは美しい妖精メンタ…









たとえ水辺の草に変えられても、その爽やかな香りで猛者の心をつかみつづけますわ









だって、わたしは妖精メンタ…


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願望質屋

2011-06-24 | 『創作・短いお話』
ちょっと短いお話を書きました。


おやすみなさい★☆☆☆





………………………………




日暮れが心配だった。



隣を歩く恋人のKは、私のそんな心配に気づくこともなく、楽しそうに箱根に行く計画を話している。



実は私、今朝の事だが、あるものと引き換えに自分の夜を差し出してしまった。


よく考えてから行動すべきだった。

母からも常々言われている。



だけど、願望質屋と名乗ったその男は、私が喉から手が出るほど欲しいと思っていたそれを持っていた。


そのものとは…、


大きなぱっちり眼


だった。


私は以前から友達に言われることがあった。

「もう少し眼がぱっちりしてれば完璧なのにね」


願望質屋が最上のぱっちりお眼めをちらつかせたので、要求されたものをよく咀嚼することなく、二つ返事で飛びついてしまった。


私はその場で、ぱっちり眼が手に入った。


店の煤けたクロスにかかった小さな鏡を見ると、完璧な美女が映った。



願望質屋が、代わりに貴女の夜をいただきます、と言う声も、半ば上の空だった。



完璧になった私は、午後3時に待ち合わせていたデートで、颯爽と恋人Kの前に現れた。


溢れる自信が、只でさえ美しくなった私をより輝かせていた。


ね、今日のあたしどう?


Kはいつも通り優しい口調で、きれいだよ、と言った。


私はなんだか納得いかなくて、少しだけむっとした。



ぱっちり眼を手に入れたら、これでちやほやされる完璧な人生が手に入った、全ては薔薇色、と思った。


だけど…、なぜか、なぜか、あれほどいとおしかった隣のKが、今日はうとましくさえ感じた。


私には、もっといい男がふさわしい。


思ったこともない台詞がパラパラと降って来たように感じた。


そう、あんなに楽しみにしていた箱根さえ、箱根か、くらいに、トーンダウンしていた。

人は持ち物がグレードアップすると、一種の浸透圧作用が働いて、取り囲む周辺をも押し上げるのかもしれなかった。



ねぇ、聞いてる?


Kの少し咎める声で、ハッとし、慌ててうなずいた。


う、うん、もちろん





ちょっと古めかしい和菓子やのショーウィンドウ越しに見える時計は、午後5時40分になろうとしていた。


夜が来る。


夜を失った私は、このあとどうなるんだろう。


ある時間から、透明人間のようになるのだろうか。


それとも、気を失ったようになるだけだろうか。


私が突然、姿を消したら、Kはなんて思うか…。



ぱっちり眼を手に入れて、完璧な幸せに突入する予定だったのに、なんだかモヤモヤしたこの不満足感に加え、夜まで無くして…。



もう一度、明日、願望質屋、行こうか。


もとの眼でも、まあまあよかったかもしれないと、うっすら思った。



Kは、私の足元を見つめて硬直していた。



夜は始まった。






おわり


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ふたごのふたり

2011-06-17 | 『創作・短いお話』





久しぶりに短いお話を書きますね。


6月の双子座にちなんで、ふたごのお話。

00000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000







こんにちわ、みなさん。



わたしは、ふたごの片割れ、このみ、と言います。

もう一人は姉の、あのみ、で、今となりで寝てます。



二人は今年の6月で3歳になりました。

双子座です。


このみには、この小さな身体に比しては、かなり大きな悩みがあります。


あのみが手足を放り投げて、ぐっすり眠っているこんな穏やかな夕方にも、このみは大きな不安にブスッと刺されて、飛び起きます。

その悩みとは…


ああ、一応だれにも言わないでくださいね。
ママにもまだ話していませんから。


実は、このみとあのみは、ほんとは二人で一人なんです。


ママが3年前のゴールデンウィークに、はしゃいで遊園地のコーヒーカップに乗った時に、遠心分離で二つに分かれちゃいました。


しかも、たちが悪いことに、良い性格のエキス、と、悪い性格のエキス、に分かれちゃいました。


このみが良い性格のエキスの塊、あのみが悪い性格のエキスの塊、です。


でも、生まれる前からわかってたことがあって。


それは、ちょっと大人びた言い方ですけど、このみとあのみは、持ちつ持たれつ。


悪い性格の、あのみなしには、このみの良い性格のエキスは純度を保てません。


今までは、まあまあよかったんです。


私たち赤ちゃんで、ほぼ同じ精神の成長率を保ち、同じようなスケジュールでいました。


最近、あのみの自我がぐんぐんと育ち、隣で過ごすこのみにも、あからさまに分かるくらい、日増しに猛威をふるっています。


うかうかしていると、おやつの玉子ボーロもあっという間に、小さなぷくぷくの手にすくいとられてしまいます。


このみの良い性格のエキスは、そんなあのみの態度を見るにつけ、濁った色合いに変色していくのがわかるのです。


この先、このみとあのみはどうなるんでしょうか。


二人でいつかコーヒーカップに乗ったら、またひとつにくっついて、健全な一人の人間としてやっていけるでしょうか。


そのうち、ママにも相談します。


まだ、あのみは隣で口をあけて、のんきに寝てます。


6月の夕方の風は爽やかで気持ちがいいです。


このみも夕飯まで少し寝ます。


なんだか、お騒がせしました。


おやすみなさい★








おわり


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