のほほんとしててもいいですか

ソプラノ歌手 佐藤容子のブログです。よろしくお願いいたします!

創作《青い人生》1

2018-08-31 | 『創作・短いお話』
「今日は珍しくおもしろい商品が入ったんですよ」

「お客さん、一番興味を示すんじゃないかな、と」

商店街の隅にある、この、よろずの中古小物を扱う店の店主は、私を見かけるなり、そう言った。

「いやあ、暑いね」

「いつも覗いて見るだけでわるいね」

私は汗を拭きながら答えた。

「いやいや、構わないですよ」

店主は愛想のよい笑顔を浮かべた。

「でね、これがそのおもしろい商品なのよ」

店主は脇の棚から青いガラスの小箱を取ると、カウンターの上に置いた。



つづく(かも(笑))




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『あの場所で』

2017-12-06 | 『創作・短いお話』

「で、明日はあの場所で、ということです。」

「あの場所とは?」

「私は知りませんが、あなたはわかるはずです」

「そういわれてもわかりませんよ、どちらのことだか」


「困りましたね、思い出してみてくださいよ、あなたが知るすべての場所を」

「…」


「生まれた時からすべて」

「おもな場所しか思い浮かびません。家や学校、駅など」


「いいえ、念のためすべての場所を思い出してください」

「それは無理です」

「どうして?」

「幼少の記憶なんてはじめからほとんどないし、第一、印象的でない場所は記憶にないですよ」


「そうですか、では…」

「明日になればわかるのかもしれません。」


「なぜ」

「明日はまだ存在すると思うからです」

「はは…答えになっていませんね」

「たいがい答えなんてありませんよ」











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創作- 5つの靴の物語

2014-03-12 | 『創作・短いお話』
雑誌に美しい5つの靴が載っていました。





その写真から5人の女性を想像して短いお話できないかなあ、と思いました。









【1つめの靴】





その女性がはいている靴はジミー・チュウ。



キラキラと細かい褐色のラメが施され、オープントウ、バックストラップ、そして同じラメの細いヒールが華奢な印象を与える。





昼下がりだというのに、2月の風は冷たい刃のように鋭く身体を刺す。





グリーンの唐草模様のパシュミナストールを、半ば被るかのようにきつく巻いて、東京駅から大手町の地下鉄へと急いだ。





すこし背伸びをしたかった。



別れた男には、少し幼いというようなことを日頃言われていた。



自分の中では、その幼さは男を立てるべく取った装いの態度で、自分の本質ではないと思っていた。



優しさのつもりだった。





ひとりになった今、等身大の自分が歩いている気がして、すり抜ける冷たい風さえ心地よく感じた。





今日の自分が素敵な男に出会えば、最高の出会いになる。





そんな考えに自分自身小さく吹き出した。



足取りは軽く春も近かった。













【2つめの靴】





その女性がはいている靴はサルヴァトーレ・フェラガモ。





ブランドを象徴するリボンとメタルプレート、細身のトウ、しなやかなマットシルバーの本体を同色ピンヒールが支える、品位あるイブニングシューズ。





白い肩を少しだけ露出させ、裾の長いシャンブレータフタの黒ドレスをまとっていた。





美しい靴は美しさ故に黒い裾の影に身を隠し控えていた。





今夜は特別な夜だった。





特別、を反芻してみて、特別の意味のなさに苦笑した。





彼は来る。





いや、来て欲しかった。





ここ恵比寿の外れにある隠れ家的な瀟洒な洋館は知る人ぞ知るフレンチの老舗だった。





通された二階個室の窓からはオレンジ色のランタンに照らし出された庭が臨めた。





白いバラが暗闇に浮かび上がる。





冬でも…咲くんだ…





10年前の今日のことだった。





彼の誕生日の祝いに、このレストランのこの部屋で食事をしていた私たちは別れを決めた。





けんかをしたわけではなかった。





お互い仕事がうまく行き始めていた。





「どうしても私のことが忘れられなかったら、10年後の今日、またここで」



私は酔いながら軽口を叩いた。





まさか、本当に忘れることができずに、今日を待ちどおしく思うとは思っていなかった。





目の前のグラスは同情したように乾いた涙を伝わらせた。













【3つ目の靴】







その女性がはいている靴はセルジオ・ロッシ。





イタリアを思わせるエネルギッシュなマンゴーイエロー、細いアンクルストラップはセクシーに足首を取り巻き、甲とかかとを女性らしい曲線のクリスタルストーンが這う。





同じくマンゴーイエローの細いヒールは遊び心を感じる。







神戸の街は外向きの顔と内向きの顔と、違い過ぎる表情が共存していて、訪れる度に魅力が増す。





ここに来ると、どんな人でも受け入れてくれるような空気に気分が落ち着いた。





お馴染みのこのホテルも的確かつ卒のないもてなしで、心地良かった。





昔から要領もいい方で、それなりに楽しくやって来たと思っていた。





今回、思い切って2週間も休みを取り、ここに来たのにはそれなりに訳があった。





仕事をしたり、恋愛をする中で、いつも自分を大きくみせたいと力み、実力以上になにかできるかのように振る舞ってはいなかったか。





素直に女を楽しみ心を解き放てたら、と

、思う瞬間が積もってきていた。





ホテル周辺の洒落たブティックをひと通り回って見ると、おもむろにタクシーに乗り込んだ。







六甲山へ…







霧に包まれた静寂の山道は、妖艶で華やかな港の夜景と一線を画した。







本来の自分の呼吸を山中の穏やかさに感じつつ、新しい扉に手がかかり、新しい歩みが始まることを実感した。











【4つ目の靴】







その女性がはいている靴はフェンディ。







型押しされたベージュスエード、厚みのある底がインプラットフォームでシンプルと一体感を感じさせる。





ヒールには細かくダブルFのロゴが配され、クール。







神谷町のオフィスの窓からは、東京タワーがおかしく見えた。





おかしく見える、というのは、おかしいのだけど、遠くから見ると三角形に見える東京タワーも、近すぎると違って見えた。





外資系企業に長く勤務し、それなりに重要なポジションを任されるようになっていた。





オフィスが入る高層タワービルは常に様々な人種が出入りし、ここが日本であることを忘れさせた。





春からはインドネシア地域の指揮を執るために赴任が決まっているが、いまとそれほど変わらない状況ではないかな、と見込んでいた。







「いつも緊張感があって素敵ですね」







そう声を掛けてくれる女性社員もいた。





軽く笑って返したりするが、内情を知っている自分自身としては、大きく否定したい気持ちでもあった。





役割を果たすために自分自身にプレッシャーをかけ、気負いすぎているところもあった。





そういう時はなにげない会話もトゲトゲしくなったりと、反省することもよくあった。







今日の靴は気に入っていた。





服や靴は役柄を与えてくれる。





シンプルでクール、自信があって女性らしくて…





好きな物を身につけて素直に過ごすと、自分以上に自分らしくいられる…





そんなことを最近発見した。











【5つ目の靴】







その女性がはいている靴はクリスチャン・ルブタン。





黒いサテンの大きな花が中央に鎮座する、女優のような靴。



かかととヒールはセクシーな黒のクリスタルストーンで埋められ、全体は華奢なレースで包まれている。







舞台が跳ね、疲れた身体を叱咤して家路についた。





ダンサーとしての生活は長くて、過酷なスケジュールにも慣れていたけど、1日のうちに東京、京都ともなると、さすがに脚も悲鳴をあげていた。





舞台は夢を売る場所、夢が夢ではないことを刻む場所。





日頃は辛い練習の連続で、お構いなしのトレーニングウェアやレオタードで過ごす。





ついついそれが日常になっていて、おしゃれをうっかりしてしまう。





ある時、仕事帰りに新幹線の中で先輩に注意された。







有名なダンサーなのにそんなかっこうで…





舞台の上だけじゃないのよ、夢を作るのは…







それからかな、少し気をつけるようになった。





たしか、クリスチャン・ルブタンはもともとダンサーのために靴作りをしたブランド。





履いていてもデザインばかりの靴と違って、疲れにくい。







とはいえ、家が見えてきたら、どっと脚が重くなった。







温かいお風呂で身体を休めよう。







☆以上で終わりです



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創作:『はあひいふう』

2013-07-11 | 『創作・短いお話』






はあちゃんは、5歳




ひいちゃんは、2歳






ふたりはなかよし姉妹




今日も二人でおままごと




はあちゃんはお母さん役



ひいちゃんは赤ちゃん役









「はーい、あかちゃん、ごはんですよー」


はあちゃんは、先ほど生垣のところで取ってきた小さい赤い実を5粒、プラスチックの黄緑色の小皿に載せた。






ひいちゃんは、お皿の上の赤い実を全部いっしょに右手でつかんだ。




「あっ、ひいちゃん、それは本当には食べちゃダメだよ」



はあちゃんが言うと、ひいちゃんはゆっくり右手を広げて、赤い実をぽろぽろと下に落とした。







「あ~、あかちゃん、ごはんをこぼしちゃったですねー。じゃあ、もういっかい、あげますね~」



はあちゃんは、ひいちゃんが落した赤い実を一粒ずつ拾って、もう一度黄緑色の小皿に載せた。





ひいちゃんは、はあちゃんが赤い実を載せた小皿を両手で受け取ると、にっこりとした。






「あかちゃん、おいしいですか~。」



はあちゃんは、一粒をつまんで、ひいちゃんに食べさせるまねをした。









ふと、はあちゃんは、ひいちゃんの横に、ころんと横たわっていた、くまのぬいぐるみをつかむと、ひいちゃんの横に座らせた。







この、くまのぬいぐるみは、プクロー、と言った。






「プクロー、今日からおねえちゃんのいうことを聞くのよ」





はあちゃんは、プクローをさとすように言った。





プクローは無言のまま、大きなたれ目を見開いていた。











「ひいちゃん、なんかさ、おとうとほしいね」





ひいちゃんは赤い実をいじっていた。




「あとさ、おやつもらいに行こうよ」



ひいちゃんは勢いよく立ち上がると、鉄砲玉みたいにお母さんのことろへ飛んで行った。





はあちゃんは、慌ててひいちゃんの後を追って、お母さんのところへ行った。




あとには、プクローが無表情なまま転がっていた。









お母さんは冷蔵庫からよく冷えたプリンを2個取り出すと、ふたを取って、きれいなブルーのガラスの入れ物に移してくれた。



「お母さん、なんかね、おとうとほしくなった。ひいちゃんもいってたよ。」



はあちゃんは、プリンをほおばりながらそう言った。






ひいちゃんは、ただただ夢中でプリンと格闘していた。


お母さんは、にこにこした。





「はあちゃんもそう思う?ママもそう思うのよ」




お母さんは言った。




はあちゃんは、とってもうれしくなって、プリンがとてもおいしくなった、と思った。







はあちゃんは、おとうとはどんなものかわからなかったけど、いつかおとうとに会ったら、なんて言うか考えた。










よく考えて、よく考えて、きめた。






「ひいちゃん、おとうとにあったらね、いうこと決めたんだよ」



ひんちゃんは、プクローをごねごねこねていた。


「うんとね、いうよ」



「おとうと、こんにちは」



ひいちゃんは、プクローをたたいた。





キッチンでフライパンを動かしながら聞いていたお母さんが、はあちゃんに言った。




「はあちゃん、おとうと、こんにちは、いいね」






はあちゃんはうれしくなって、ひいちゃんといっしょにプクローをたたいた。





ずっとずっと、たたいていた。











《おわり》


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創作:ミント外伝

2013-07-11 | 『創作・短いお話』
創作:『スカボロフェア第2話 〈ミント〉』を書いたのは、2年前の7月1日のようです。

今日は外伝として、妖精メンタのそののちを書いてみます。

これは、たまたまいつも行っているマッサージやさんで、ミントの香りがしたことから、ミントの伝説を話してあげてました。

そして、施術中に想像してみました。




@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@



《ミント外伝》







暁は進軍を続ける傷ついた兵士たちを慰めていた。


澄んだ空気は新しい時代を感じさせた。

ペルシア軍歩兵第8連隊がアスト岬に到着したのは、本日明け方のことだった。


8万とも10万とも言われたその連隊は、岬に到着するなり、空腹を満たすべく食料を分け合った。



士官アルドトスは美しい男だった。

勇者であり、頑強な肉体を持っていた。

精神もまた然り、どうような誘惑にも負けぬ鋼の強さがあった。


アルドトスはライ麦のパンを口に放り込むと、乾いた喉を潤すべく、林の奥に見える小川へと向かった。

小川はピリオン山の方から流れているのか、七色に光り、美しいせせらぎは天使の会話のような音を立てていた。

アルドトスはその逞しい手で水をすくうと、とてもおいしそうに飲んだ。

自然の恵みが身体を駆け巡り、ここ8ヶ月と続いていた戦いの疲れを癒す。

ふと、ときめく香りが風に乗り、彼の鼻をかすめた。

香りの方に目をやると、柔らかなグリーンの色をしたミントだった。

6センチぐらいのものだったが、その香りは四方に広がり、アルドトスの肩についた深い傷にも入り込んできた。

ミントの香りはアルドトスの肉体を征服した。

彼はそのミントを大事そうに摘むと、懐へそっと入れた。

隊に戻るべく、もと来た道を進むと、暗い森の中に白亜の宮殿が現れた。

その壮観な建物はプロピュライア宮殿のようでもあった。

美しく荘厳な彫刻はアルドトスを威嚇し、また魅了した。

アルドトスは吸い込まれるように、その宮殿の入り口の階段をあがっていった。

目の前に美しく整備された中庭が開けた。

女神のように神々しい女が水浴びをしていた。

長い黄金の髪が、透けるように白い身体にまとわりついていた。

女はアルドトスに気づくことなく水浴びを楽しんでいた。

アルドトスは自分の中に起きる衝動を把握することができなかった。

彼はその女に近づき、突然、永遠の愛を誓った。

女はあまりの急な出来事に驚いたが、アルドトスの美貌に魅せられ、その愛に即答した。

わかりました、と。

女の名前は、ペルセポネ、と言った。

ふたりは、その後、3日3晩、抱き合っていた。

4日目の朝も、ふたりは深く見つめあいながら目覚めた。

冥界の王、ハーデスの妻でありながら、ペルセポネには目の前の男がすべてになっていた。

まるで熱病に罹患したかのようだった。

突然、えもいわれぬ悪寒がし、アルドトスは嘔吐した。

手は震え、近くにあった刀を取ると、間髪いれずペルセポネを突き刺した。

ペルセポネは抗う隙もなく、息絶えた。

アルドトスは正気に戻ると、自分のしたことがよくわからなかった。

目の前には血だらけのペルセポネが白目を剥いて横たわっていた。

すると、背後で、鈴のような可愛らしい笑い声がしていた。

振り返ると、妖精メンタだった。

メンタの復讐は叶った。

メンタを草に変えた憎きペルセポネは、自分の手を汚さずにこの世から消えた。

メンタは細い腰をくねらせながら、妖艶なあどけない顔で、アルドトスを祝杯の宴に誘った。

アルドトスは崩壊し、その場で命を絶った。

メンタは大笑いし、その場を後にした。

ペルセポネとアルドトスが血にまみれて倒れるその部屋には、清清しいミントの香りが漂っていた…








【おわり】


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