80歳に向けて・「新風来記」・・・今これから

風来居士、そのうち80歳、再出発です。

シャボン玉 (3)

2019年01月26日 20時53分36秒 | 創作
石段の途中で、上からゆっくりと降りてくる上品なお爺さんとお婆
さんにすれ違いました。
石段をぽんぽんと、ひとりでに昇ってくるビー玉を見て、ビックリ
するかと思ったのですが、二人、顔を見合わせて、にっこりしたの
です。 

「どうだい、ばあさん、昔と少しも変わらないねぇ・・・。」
「そうですねぇ、相変わらずですねぇ、おじいさん・・・。」

「ぼうや、この辺の子・・・?」

これはおじいさんです。
私を見て言いました。

「はい・・・、」
私はもじもじしながら、小さな声で答えました。

「・・・なかなか素直な子だね。 良い事だ、良い事だ・・・。」
お爺さんは手を伸ばして私の頭を撫でようとしました。
どこからか、煙草の匂いがしました。
私は反射的に頭を引っ込めました。

お爺さんは、出しかけた手のひらをその場に止めて、ちょっと悲し
げな顔をしました。
お爺さんは私を見て、何か言いたそうなそぶりをしたと思います。

「行きましょう。」 
横からおばあさんが言いました。
気のせいだったのでしょうか?
おばあさんも、何となく寂しそうに見えました。

「また、そのうち、いつかね・・・。」 
「そうね、でも、もうちょっと奥で遊んだ方がいいかも・・・。」

重ねて、おばあさんは私に向かって言ったと思います。

私は、ビー玉に目をやったまま、黙って頷いて見せました。

二人は、多分、振り返りもせずに、ゆっくりと石段を降りていった
はずです。

私は、ビー玉に気をとられていて、そのまま、お二人とすれ違って
しまったと思います。

ビー玉は、相変わらず、ポォ~ン、ポォ~ンとリズミカルに弾みを
つけて石段を昇っていきました。

長い石段を登り切ると、そこに赤い色をした大きな鳥居がありまし
た。
そこまで来ると、さすがのビー玉もいささか疲れてきたのでしょう。
その場で、くるり、大きく円を描いて一回りしました。
・・・ロロロロロロ~ォ・・・
ビー玉は、そこでしゃがみ込んでしまいました。  

私はと言えば、その時、妙に後ろが気になって、振り返ってみたと
思います。
見下ろすと、石段の途中で、こちらを見上げているお婆さんと目が
合いました。
何故か、懐かしい、そして優しげな目でした。

二人には、いつか出会った事がある。 
そんな事を思いました。
いつもどこかで私を見つめていた目だと思いました。

お婆さんは、しなびた腕をゆらゆらと振って見せたと思います。
私も思わず、手を振り返しました。

何やら、お母さんに頼まれた事を、上手にやれた時のように、スッ
キリした感じがしました。 

そう・・・、そうでした。
あのビー玉・・・、私が見返るのを待っていたように
ぱちんと勢いよく弾けました。
後には水が飛び散っていたと思います。


そう、今では、はるか遠く微かな記憶になってしまった、そんな古い、
幼い頃の思い出・・・でした。    <了>


「付け足し」
世の中には、まだまだ、あまりにも知らない事が多すぎます。
聞いた事が無いからと言って、あってはいけない事なぞありません。
そうです、よく分からない事は、偉い人に尋ねるか、でなければ、
知らん顔をするか、どっちかでしょう。


シャボン玉 (2)

2019年01月26日 07時34分33秒 | 創作
「それを猟師が鉄砲で撃ってさ・・・~♪」

ど~~ん・・・!

どこかで大きな音がしました。
鉄砲の音だったと思います。

私は思わず目を閉じました。

何やら、小さな物が転がってきて、ツンッと私のつま先に当たった
ようでした。

大きな・・・、多分、ビー玉だったと思います。
赤、紫、緑、青・・・美しい縞模様でした。

見ていると、ビー玉は、ちょっと向きを変え、ゆっくりと、さほど
急ぐ風でもなく、と言って、止まる様子もなく、そのまま転がって
いきます。


砂場を横切って、公園の入り口、いえ、場所は同じでも、今度は、
出口という方がいいのかも知れません・・・を出て、横断歩道を、
当たり前のように横切り、路地を抜け、スーパーの駐車場を通っ
て、そのまま転がっていったと思います。

私は何となく気になって、ビー玉に誘われるまま、その後から
ゆっくりとついていったと思います。


しばらくすると、向こうに、大きな鳥居が見えてきたと思います。
その先は、古い神社だったはずです。
ビー玉は、当たり前のように、大きな鳥居の真ん中をくぐり抜けて、
転がり続けます。

鳥居のちょっと先は、長い長い石段になっていました。
ビー玉はこの石段をどうするのかな?
と、私が考える時間も無いくらい、当たり前のように・・・、
そうです、ちょっと止まって弾みをつけるわけでもなく、
そのまま、するすると石段を上がっていくのです。

なるほど考えてみれば、ここまでやってきた以上、ビー玉の方でも
このまま、すごすごと引き下がるわけにも行かないじゃないですか。

「へぇ・・・上にも登れるんだぁ!!」

私はちょっとビックリしたと思います。

するすると昇っていくビー玉の後について、私も石段を昇っていっ
たはずです。

長い石段をするすると昇っていくビー玉に合わせて、石段を登って
いくのは、まだ幼かった私にとっては、かなり重労働だったと思い
ます。

そんな事を知ってか、知らずか、ビー玉は急ぎもせず、とは言え、
休みもせず、同じ調子で、石段を登っていったと思います。

なるほど、考えてみれば、ビー玉にしてみれば、せっかく、こんな
所まで上がってきたのに、今さら
「疲れたっ・・・!! やぁ~めた・・・」
と言うわけにもいきますまい。

で、私の方も、半分意地でビー玉を追いかけていったと思います。

「それにしても・・・、」 私は、ふと、呟いたと思います。
「やっぱ変だよ・・・。」 私は、首をひねりました。

よくよく考えてみれば、階段の上から転がり落ちるビー玉はあって
も、自分で、階段を下から昇っていくビー玉なんて聞いた事があり
ませんよね。

「・・・ビー玉らしくない・・・。」

いやいや、そうは言っても、聞いた事が無いからと言って、あって
いけないものなど、世の中どこにもありません。
 

私の呟きが、聞こえたのでしょうか?
縞模様のビー玉は怒ったように、一度、ぽーんと大きく跳ね上がっ
て、今度は、ポォーン、ポォーンと弾みをつけて石段を登り始めた
のです。

そう、まるで、そんなら見ていろとでも言うように・・・。

「うん、これはいい。 これならちゃんとしたビー玉だよ。」
何故か、私は嬉しくなってそう呟いたと思います。

ビー玉にも、私の気持ちが分かったのかも知れません。
一段と弾みをつけて、ポオーン、ポオーンと踊るように
石段を登っていきます。