石段の途中で、上からゆっくりと降りてくる上品なお爺さんとお婆
さんにすれ違いました。
石段をぽんぽんと、ひとりでに昇ってくるビー玉を見て、ビックリ
するかと思ったのですが、二人、顔を見合わせて、にっこりしたの
です。
「どうだい、ばあさん、昔と少しも変わらないねぇ・・・。」
「そうですねぇ、相変わらずですねぇ、おじいさん・・・。」
「ぼうや、この辺の子・・・?」
これはおじいさんです。
私を見て言いました。
「はい・・・、」
私はもじもじしながら、小さな声で答えました。
「・・・なかなか素直な子だね。 良い事だ、良い事だ・・・。」
お爺さんは手を伸ばして私の頭を撫でようとしました。
どこからか、煙草の匂いがしました。
私は反射的に頭を引っ込めました。
お爺さんは、出しかけた手のひらをその場に止めて、ちょっと悲し
げな顔をしました。
お爺さんは私を見て、何か言いたそうなそぶりをしたと思います。
「行きましょう。」
横からおばあさんが言いました。
気のせいだったのでしょうか?
おばあさんも、何となく寂しそうに見えました。
「また、そのうち、いつかね・・・。」
「そうね、でも、もうちょっと奥で遊んだ方がいいかも・・・。」
重ねて、おばあさんは私に向かって言ったと思います。
私は、ビー玉に目をやったまま、黙って頷いて見せました。
二人は、多分、振り返りもせずに、ゆっくりと石段を降りていった
はずです。
私は、ビー玉に気をとられていて、そのまま、お二人とすれ違って
しまったと思います。
ビー玉は、相変わらず、ポォ~ン、ポォ~ンとリズミカルに弾みを
つけて石段を昇っていきました。
長い石段を登り切ると、そこに赤い色をした大きな鳥居がありまし
た。
そこまで来ると、さすがのビー玉もいささか疲れてきたのでしょう。
その場で、くるり、大きく円を描いて一回りしました。
・・・ロロロロロロ~ォ・・・
ビー玉は、そこでしゃがみ込んでしまいました。
私はと言えば、その時、妙に後ろが気になって、振り返ってみたと
思います。
見下ろすと、石段の途中で、こちらを見上げているお婆さんと目が
合いました。
何故か、懐かしい、そして優しげな目でした。
二人には、いつか出会った事がある。
そんな事を思いました。
いつもどこかで私を見つめていた目だと思いました。
お婆さんは、しなびた腕をゆらゆらと振って見せたと思います。
私も思わず、手を振り返しました。
何やら、お母さんに頼まれた事を、上手にやれた時のように、スッ
キリした感じがしました。
そう・・・、そうでした。
あのビー玉・・・、私が見返るのを待っていたように
ぱちんと勢いよく弾けました。
後には水が飛び散っていたと思います。
そう、今では、はるか遠く微かな記憶になってしまった、そんな古い、
幼い頃の思い出・・・でした。 <了>
「付け足し」
世の中には、まだまだ、あまりにも知らない事が多すぎます。
聞いた事が無いからと言って、あってはいけない事なぞありません。
そうです、よく分からない事は、偉い人に尋ねるか、でなければ、
知らん顔をするか、どっちかでしょう。
さんにすれ違いました。
石段をぽんぽんと、ひとりでに昇ってくるビー玉を見て、ビックリ
するかと思ったのですが、二人、顔を見合わせて、にっこりしたの
です。
「どうだい、ばあさん、昔と少しも変わらないねぇ・・・。」
「そうですねぇ、相変わらずですねぇ、おじいさん・・・。」
「ぼうや、この辺の子・・・?」
これはおじいさんです。
私を見て言いました。
「はい・・・、」
私はもじもじしながら、小さな声で答えました。
「・・・なかなか素直な子だね。 良い事だ、良い事だ・・・。」
お爺さんは手を伸ばして私の頭を撫でようとしました。
どこからか、煙草の匂いがしました。
私は反射的に頭を引っ込めました。
お爺さんは、出しかけた手のひらをその場に止めて、ちょっと悲し
げな顔をしました。
お爺さんは私を見て、何か言いたそうなそぶりをしたと思います。
「行きましょう。」
横からおばあさんが言いました。
気のせいだったのでしょうか?
おばあさんも、何となく寂しそうに見えました。
「また、そのうち、いつかね・・・。」
「そうね、でも、もうちょっと奥で遊んだ方がいいかも・・・。」
重ねて、おばあさんは私に向かって言ったと思います。
私は、ビー玉に目をやったまま、黙って頷いて見せました。
二人は、多分、振り返りもせずに、ゆっくりと石段を降りていった
はずです。
私は、ビー玉に気をとられていて、そのまま、お二人とすれ違って
しまったと思います。
ビー玉は、相変わらず、ポォ~ン、ポォ~ンとリズミカルに弾みを
つけて石段を昇っていきました。
長い石段を登り切ると、そこに赤い色をした大きな鳥居がありまし
た。
そこまで来ると、さすがのビー玉もいささか疲れてきたのでしょう。
その場で、くるり、大きく円を描いて一回りしました。
・・・ロロロロロロ~ォ・・・
ビー玉は、そこでしゃがみ込んでしまいました。
私はと言えば、その時、妙に後ろが気になって、振り返ってみたと
思います。
見下ろすと、石段の途中で、こちらを見上げているお婆さんと目が
合いました。
何故か、懐かしい、そして優しげな目でした。
二人には、いつか出会った事がある。
そんな事を思いました。
いつもどこかで私を見つめていた目だと思いました。
お婆さんは、しなびた腕をゆらゆらと振って見せたと思います。
私も思わず、手を振り返しました。
何やら、お母さんに頼まれた事を、上手にやれた時のように、スッ
キリした感じがしました。
そう・・・、そうでした。
あのビー玉・・・、私が見返るのを待っていたように
ぱちんと勢いよく弾けました。
後には水が飛び散っていたと思います。
そう、今では、はるか遠く微かな記憶になってしまった、そんな古い、
幼い頃の思い出・・・でした。 <了>
「付け足し」
世の中には、まだまだ、あまりにも知らない事が多すぎます。
聞いた事が無いからと言って、あってはいけない事なぞありません。
そうです、よく分からない事は、偉い人に尋ねるか、でなければ、
知らん顔をするか、どっちかでしょう。