東京新聞夕刊の「この道」に長期連載中の、つのだ☆ひろ氏の文章が頗る面白い。氏のソロアルバムは一枚も聴いたことはなかったが、聴いてみたくなった。ドラムやリズム好きはもとより、ジャンルの別なくいろいろな音楽を聴ける人にお薦め。/なかに、故加藤和彦氏について語っている回がある。内容については読んでもらうしかないが、それでふと思い出した光景がある。90年代、スパイラルホールに西部邁氏、加藤和彦氏とあともうひとり誰だか忘れてしまったが女性漫画家だったはず、の鼎談を聞きに行った。そこで西部氏が加藤氏のことを、「何が流行音楽だ」、「何がファッションだ」、いけ好かんとばかりにぼろクソに批判し、場が凍り付いていた。そこまで酷く言わなくてもいいのに、と後味の悪さを感じた。だが、その後、奇しくもおふたりとも自殺という形で人生の幕を閉じてしまった…。/話が横道に逸れた。とにかく、つのだ氏の音楽論があまりに深いので、昔一緒にバンドをやっていたプロドラマー・C氏にもこの興奮を伝えてしまったほど。気が早いが、本にして出版してくれたら必ず買う。/ただし(!)、氏のSNSにおけるアベノマスク擁護論、お国から頂戴したものはありがたく思え、文句ばかり言うなら自分が政治家になってみろ!できやしないだろ!という趣旨の発言には、開いた口が塞がらない。同じくミュージシャンである「金八先生」と考え方がとてもよく似ている。このように、権力者がどんなに悪事を働いても、彼らが首相であるというだけで有難がり、斟酌し、忖度し、支持し続ける人たちが、長期の悪政を下支えしてきたのだろう。有名人の発言となれば、その影響力は小さくないはずだ。/というわけで、つのだ氏の政治観には全く与しないが、音楽論がすばらしいことに変わりはない。/そこを分けて考えないことには、自分がバカになる。全否定や全肯定は一番楽ではあるが、愚かで危険だ。||BGB:①『とまっていた時計がまたうごきはじめた 』(細野晴臣・鈴木惣一朗著、平凡社ライブラリー、2019年) 、②『追憶の泰安洋行』(長谷川博一著、ミュージック・マガジンの本、2020年)、③『細野晴臣・録音術~ぼくはこうして音を作ってきた』(鈴木惣一朗著、disk union、2015年)
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