獅子風蓮のつぶやきブログ

日記風に、日々感じたこと、思ったことを不定期につぶやいていきます。

池上彰/佐藤優『プーチンの10年戦争』を読む その1

2025-03-15 01:04:42 | 佐藤優

前回、2023年6月当時の雑誌に寄稿した記事に佐藤優氏が次のように書いていることを紹介しました。

言うまでもないことですが、ロシアがやっていることは間違っています。独立国家であるウクライナにいきなり軍事侵攻を仕掛けるなど、どんな理由があっても既存の国際法では認められません。

この文章の次には、こう続きます。

そのうえで、ロシアにはロシアの論理がある。プーチンの演説を丹念に読み解く作業を通じて、読者の皆さんには「プーチンの内在的論理」に耳澄ませてほしいのです。私たちは「ウクライナ必勝」と叫ぶ必要はないし、プーチンを悪魔化して憎むのも良くない。両国で暮らす一人ひとりの人間に思いを致し、一刻でも早く戦争をやめさせなければなりません。

「ロシアの論理」を知るために、こんな本を読んでみました。
一部、かいつまんで引用します。

池上彰/佐藤優『プーチンの10年戦争』(東京堂出版、2023.06)


日本では詳しく報じられたことがない20年にわたるプーチンの論文や演説の分析から戦争の背景・ロシアのねらいを徹底分析。危機の時代の必読書!1999‐2023年のプーチン大統領の主要論文・演説、2022年のゼレンスキー大統領の英・米・日本国会向けの演説完全収録!

『プーチンの10年戦争』

■はじめに ジャーナリスト・池上彰
□第1章 蔑ろにされたプーチンからのシグナル
□第2章 プーチンは何を語ってきたか
 __7本の論文・演説を読み解く
□第3章 歴史から見るウクライナの深層
□第4章 クリミア半島から見える両国の相克
□終 章 戦争の行方と日本の取るべき道
□おわりに    佐藤 優
□参考文献
□附録 プーチン大統領論文・演説、ゼレンスキー大統領演

 


はじめに ジャーナリスト・池上彰

「ロシアは一人でヨーロッパの救い手にならなくてはいけないのです。皇帝陛下は自らの気高い使命をわきまえ、それを裏切ることはないでしょう。私が信じているのはそれだけですわ。御心優しい、素晴らしい私たちの皇帝陛下には、この世で一番大きな役割が控えておりますが、陛下はあれほどまで徳の高いご立派なお方ですから、きっと神様の御加護を得て、革命の怪物を、今やあの殺人鬼、悪党の姿を借りて、ますます恐ろしい存在となったあの怪物を打ち滅ぼすという、御自身の使命を果たされることでしょう」(『戦争と平和1』トルストイ、望月哲男訳、光文社古典新訳文庫)

フランスのナポレオンによる侵略を受けた帝政ロシアを舞台にした一大叙事詩の中に登場する、宮廷の女官アンナ・パーヴロヴナのセリフです。
時代こそ異なりますが、「皇帝陛下」とはウラジーミル・プーチン大統領のことで、「悪党」とは、ウクライナの背後に控えるアメリカとNATOのこと。ロシアの庶民の多くは、この比喩に同意するのではないでしょうか。
プーチン大統領は、ウクライナに住むロシアの同胞を助けようと孤軍奮闘しているのに、米英やNATO諸国は経済制裁で私たちの生活を破壊している。まさに悪魔の仕業だ。そんな中で、我が皇帝は、もはや単独でヨーロッパを守ろうとしている……。
こういう思いを持っているロシアの国民が多いからこそ、欧米諸国の期待に反して、プーチン大統領の支持率は高いのです。
2022年2月にロシアがウクライナへ軍事侵攻して以降にモスクワで開かれた大集会での演説で、プーチン大統領は、『新約聖書』の言葉を引用しました。

「友のために自分の命を捨てること、これ以上に大きな愛はない」(「マタイによる福音書」)

ウクライナに投入した多くのロシア兵が死傷している現実を、プーチン大統領は「聖戦」と見ていることがわかります。
実は「マタイによる福音書」の言葉には前段があります。それは、イエスが人々に互いに愛を持って接するように求めているのです。その文脈でこの言葉が出てくるのですが、プーチン大統領は聖戦の文脈にすり替えてしまっています。
こうなると、今回のプーチン大統領による「特別軍事作戦」は、「悪魔と戦う聖戦」という価値観戦争になってしまっています。単に領土をめぐる戦いであれば、適当なところで手打ちという停戦の選択肢がありますが、「価値をめぐる戦争」には、終わりがありません。この戦争は長引く。これが、本書の書名を『プーチンの10年戦争』と名づけた理由です。
戦場から届く悲惨な情報。逃げ惑う人々。国境を越えて逃げる子どもたち。家族と切り離され、祖国に留まって戦うことを義務づけられた男たち。
先日、日本に避難してきて日本で職を得たウクライナ人の女性にインタビューしました。その際、世話をしている日本人から「ウクライナへの思いは聞かないでくれ」と釘を刺されました。祖国のことを思っては涙に暮れている人たちを傷つけることになるから、ということでした。結局、聞けたのは日本での生活ぶりだけでした。
そんな思いをしている人たちを目の前にすると、一刻も早い停戦を願ってしまいます。でも、いまここで停戦するとウクライナの領土の20%近くがロシアに占領されたままになります。これはウクライナにとって敗北を意味します。ウクライナは到底受け入れることができないことでしょう。
ウクライナが受け入れることができる停戦条件とは、ロシア軍をウクライナの領土から駆逐すること。しかし、これではロシアは自国に編入したウクライナ4州を放棄することを意味します。ロシアは「自国の領土を失う」のです。これはロシアにとって呑めない条件でしょう。これでは、いつまで経っても終わりが見えません。絶望的になってしまいます。
こんなとき、私たちがすべきこと、できることは何でしょうか。それは、プーチン大統領が、なぜこのような暴挙に至ったのかの内在的論理を知ることだと私は考えました。これはプーチン大統領の戦争犯罪を容認することではありません。許しがたいことを、「同胞」とするウクライナに攻め入り、ロシア自身にとっても大きな犠牲を強いられるようなことを、なぜ一国の大統領が始めたのか。まずはそこから知ることにしようという趣旨です。
ウクライナでの戦闘が長引くにつれ、そもそもこの戦争はなぜ始まったのかという基礎的な理解が疎かになりつつあります。そこで、プーチン大統領の演説や論文をじっくり読み解くことから始めようということになったのです。
ロシアについてのことなら第一人者の佐藤優氏に教えを請うこと。かくして本書が誕生しました。佐藤氏のアイデアで、演説や論文を巻末に多数掲載し、資料的価値のあるものに仕上げました。
体調の悪化で人工透析を受けながらも毎回、東京堂出版に足を運び、時間を割いてくださった佐藤氏に感謝です。
また本書の形になるまでには東京堂出版編集部の吉田知子さんとフリーランスライターの島田栄昭氏に大変お世話になりました。感謝しています。

2023年4月

          池上 彰

 

 


解説
ウクライナでの戦闘が長引くにつれ、そもそもこの戦争はなぜ始まったのかという基礎的な理解が疎かになりつつあります。そこで、プーチン大統領の演説や論文をじっくり読み解くことから始めようということになったのです。
ロシアについてのことなら第一人者の佐藤優氏に教えを請うこと。かくして本書が誕生しました。

池上氏自身こう書いておられます。
本書は対談形式になっていますが、内容のほとんどは佐藤優氏の知識と主張をベースにしたものです。

 

獅子風蓮



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