友岡さんが次の本を紹介していました。
『居場所を探して-累犯障害者たち』(長崎新聞社、2012.11)
出所しても居場所がなく犯罪を繰り返す累犯障害者たち。彼らを福祉の手で更生させようと活動する社会福祉事業施設の協力で、現状と解決の道筋を探った。日本新聞協会賞を受賞した長崎新聞の長期連載をまとめた一冊。
さっそく図書館で借りて読んでみました。
一部、引用します。
■第1章 居場所を探して―累犯障害者たち
□第1部「福祉との出合い」
□第2部「司法と福祉のはざまで」
□第3部「あるろうあ者の裁判」
□第4部「塀の向こう側」
□第5部「見放された人」
□第6部「更生への道」
■第7部「課題」
□第2章 変わる
□おわりに
第7部「課題」
=2012年6月12日~22日掲載=
(つづきです)
3)変わる検察(3)
更生へ新たな「選択肢」
「懲役2年、保護観察付きの執行猶予を求める」。
検察官の口から出たのは想定外の言葉だった。弁護士の井上航(33)は一瞬、耳を疑った。法廷に小さなどよめきが広がった。
2月15日。長崎地裁五島支部。窃盗の罪に問われた累犯障害者の男性に、長崎地検は執行猶予付きの判決を求刑した。検察が執行猶予を求めるのは異例。累犯障害者をめぐる検察捜査が大きく変わりつつあることを印象付けた。
男性は前科3犯。知的障害がある。昨秋、旅館に忍び込み現金を盗んだとして、逮捕・起訴された。
「彼は刑務所でなく、福祉施設で更生した方がいい。執行猶予を求めよう」。
井上と、NPO法人県地域生活定着支援センターはそう弁護方針を立てた。
井上には、裁判は終始弁護側に優勢に進んでいるように見えた。裁判官は福祉施設での更生を念頭に置いて質問し、検察官からの手厳しい追及もなかった。どんな判決が出るかはふたを開けるまで分からないが、手応えがあった。
「執行猶予判決は堅いな」
それでも、検察側が執行猶予を求めるとは夢にも思わなかった。検察、弁護側双方の「求刑」通り、男性には執行猶予付きの判決が言い渡された。「検察と福祉の連携が始まり、大きなうねりとなっているからこそ、今回のような求刑が出たのかもしれない」。
井上は そうみている。
一方、長崎地検次席検事の原山和高(43)は「異例」と受け止められることに違和感がある。
被告は前刑から年月がたっていて、法的には必ずしも実刑を求刑しなければならない事案ではなかった。福祉施設での更生プログラムにも期待が持てた。
「条件がそろったから、執行猶予を求刑した」
これまでは、たとえ、検察官が「知的障害がある被告に、刑務所での更生は難しい」と考えたとしても、刑務所に送るしか手段はなかった。だが、累犯障害者を取り巻く状況はここ数年で大きく変わり、福祉施設での更生という新たな「選択肢」が生まれた。
「検察だって、(被告の更生にとって)何がベストなのかということは常に考えている。目の前に有効な『選択肢』があれば、積極的に活用していきたい」。福祉は「受け皿」としての役目を担えるのか―。原山の言葉は、福祉に期待しているようにも、試しているようにも聞こえる。
(つづく)
【解説】
検察、弁護側双方の「求刑」通り、男性には執行猶予付きの判決が言い渡された。「検察と福祉の連携が始まり、大きなうねりとなっているからこそ、今回のような求刑が出たのかもしれない」
村木さんの闘いがあって、検察の改革が進み、福祉との連携が深まりました。
累犯障害者の問題に奇跡的に、光が差し込んできました。
獅子風蓮