1980年代とは、言うまでもなくそれに先立つ70年代の延長上にある。私は1979年限りで音楽業界への参入を断念し、1980年に中央線文化の中心地【吉祥寺】に舞い戻った。2017年の現在も、少なくとも東京では人気ナンバーワンの郊外エリアである。私にとっても、この時代にとっても【吉祥寺】とはそのような存在ではなかった。正確に言うと、そのような最も上質な【1億総中流タウン】などではあり得なかった。しかし、駅前のドブ板を抜けた所にパルコが出来てしまうと、もう私の居場所は何処にも無かった。ほんの1~2年前には、そのドブ板の一角にかのJAZZ喫茶【ファンキー】が威を奮っていたし、夜な夜な閉店の午前2時まで身を潜めていた。関西の摂津幸彦さんも70年代の早い時期に首都圏に転居しており、間違いなくこのSPOTに足を運んだと断言出来る。そのファンキーも、1980年代の初頭にパルコを中心とする駅前の再開発の波に呑み込まれ、何とパルコの並びのオシャレなパスタ店の2階の窮屈なスペースに移転していた。そこにはカウンターだけしかなく、ジャズも単なるBGMに成り果てていた。以前のように、現代詩文庫や吉本隆明全集を持ち込み、コーヒー1杯で何時間も居座る余地は根本から失われていた。・・・《続く》
「エッセー・評論」カテゴリの最新記事
【私とは誰か】蟻地獄見てそれからの私小説 松村五月*蟻地獄解説付/一句鑑賞
【私の変貌】蟻地獄見てそれからの私小説 松村五月/一句鑑賞
【死の確実さ】陽炎のたかさ一人逝きまた一人逝き 青木栄子/一句鑑賞
【新型コロナとの遭遇】もう会えないこと知ってたけど許したのよ(ハイファイセッ...
死者にしてとわの若者へ奉げるオマージュ/続夏石番矢を読む(4)
古本市の金平糖のような時間にいる 夏石番矢/続夏石番矢句集『氷の禁域』を読む(...
裏切らない酒とフトンは永遠の友/一句観賞~新北大路翼を読む(1)
新しい定型詩を生み出すちからー第10回世界俳句コンファレンスに参加して
俳句の《世界性》は可能か?・・1970年世代の空無感を重ねる*夕カフェ付/続夏...
新たな神に代わる存在とは?/続夏石番矢句集『氷の禁域』を読む(1)